剣一の決め事
麗音愛が部屋に戻ると、剣一がリビングで両親とビールを飲んでいた。
「兄さん」
「ん? 椿ちゃん喜んでたか?」
「うん、飛び跳ねてたよ」
「どうした?? お前も座れよ」
「ちょっと話があって」
「あぁ、じゃ俺の部屋でも行くか。ビールと、つまみ持ってこ」
こういう状況になる前は
仲が悪いわけではないが特に2人で過ごすという事もなかったので
直美と雄剣は顔を見合わせる。
見合わせたが、そのまま久しぶりに酔った直美は愚痴モードで雄剣に語りだし
よしよしと、雄剣がワインを注いだ。
剣一の部屋はシンプルで真ん中にキングサイズのベッドが置いてある。
剣一はベッドに寝転び
麗音愛は一応勉強用と言われているイスに座った。
「なんかあったか?」
「兄さん、美子と……」
「あー週末、ねだられてドライブ行く予定
最近、世話になってるし御礼ってゆーかな」
「そうなんだ……」
「なんか言ってたのか?」
「……」
麗音愛の雰囲気で察する剣一。
「……俺は誰とも付き合う気はないから」
「美子でも?」
「そりゃ、そうだろ」
「なんでなの? 兄さんの事、みんな好きになるのにさ」
しばしの沈黙。
剣一はベッドのヘッドボードに置いたビールを飲み干す。
「……まぁ話してもいいけどさ
お前、父さんの従兄弟の将生おじさん覚えてる?」
父の雄剣の部屋に写真が飾られている人だ。
「あんまり……でもお葬式に行った記憶はあるよ」
家族全員が泣いていた記憶がある。
「……あれ、妖魔絡みなんだ」
「え! 交通事故じゃなかったの……」
「そりゃ世間には、そう言うしかないさ
俺、結構おじさんとおばさんに可愛がられてたからさ……」
記憶は薄いが確かに、兄だけお泊りに行ったりしていた事を思い出す。
「おじさんが亡くなった事はショックだったし
おばさんの泣き叫ぶ姿が俺忘れられなくて……。
だから白夜団で働く事を決めた時から、もう恋人はつくるのやめた」
麗音愛は鶴を折った記憶がある。どこかの部屋で美子もいた。
まだ小さい麗音愛は、葬式の時も
ショックを与えてはとの配慮で全てを見てはいなかった。
「じゃあこれからもって事?」
「あぁ
俺だっていつ死ぬかわかんないし、残された恋人、奥さん可哀想じゃん」
「兄さん、そんなこと……」
「事実だし、それを覚悟して、この仕事してるんだ」
いつもヘラヘラしている兄だが、白夜団の仕事ではそうではない。
「そうだけど……」
「もちろん死ぬ気なんてねーぞ!!
お前は紅夜相手に女の子2人守りきって帰ってきたけど
俺にはそんな力もないし、自分の身1人守るしかできないよ」
「でも美子が白夜団に入ったのは……」
「それを俺に背負わせるのは酷だと思わんの?」
兄と目が合う。
「……ごめん、そのとおりだ」
「まぁ、そろそろ分かってくれると思うし……お前は、どうなの?
恋の相手として守ってやんないの?」
「今は、恋愛とかよくわからなくなった。
今までもわかんなかったけどさ、唯一俺にかまってくれるのが美子だったって……
だから好きなのかなって思ってたけど、今はすがってただけで恋とは違ったって思う。
今は平和に毎日過ごせることが楽しいから……」
剣一は、素直に美子への気持ちを語った事に少し驚く。
「誰からも構われなかったのは、お前がさ消極的だっただけだよ。
今も女の子お前の事無視してるか?」
そう言われてみれば、椿のおかげではあるのだろうが
椿フレンズには、よく話しかけられるし
クラスの女子も最近はよく声をかけてくれる……。
「呪いもあるけど、自分の力も、信じろよ」
「うん……って俺の話はいいんだよ」
「まぁ、よっちゃんと付き合う未来は100%ない。ごめんな」
剣一としても突っ込んで弟に色々と聞きたい事はあるが
今は変に余計な意識を持たせて心を閉ざしても困るなと、何も言わなかった。
剣一が言っていたドライブの日は曇りの予報に変わった。




