最終回・幸せな君と
「わぁ~麗音愛見て~~! すごい眺め!」
「本当だね!」
異国の地。
広大な野原を見下ろす展望台にいる麗音愛と椿。
早朝でまだ薄暗い。日の出を見るために二人でやってきた。
紅夜を倒した後――。
妖魔の存在を隠蔽したなどという非難もあったが、人々を救うために戦い続けた白夜団を称賛する声の方が大きかった。
一般市民への対応や対策も、今後変化していくだろう。
街中で闘い、顔を覚えられた麗音愛と剣一は、勇者や英雄などとファンがつく事態になってしまう。
特に麗音愛は篝の加護が解けた影響で、美青年だと認知されるようになり今までの副反応とでもいうかのように注目されて、もて囃された。
目立つことが苦手だと知った麗音愛は、表舞台は兄に任せることにして椿の療養のためもあって身を隠したのだ。
椿はしばらく麗音愛の傍から離れられない時期があったが、二人で数週間過ごすことで元の生活に戻る事ができた。
その間に国から報道規制と配慮がかかり、表に出る役目の剣一や琴音の人気が上昇して麗音愛が取り出たされることはなくなる。
療養期間も配慮され、その後はいつも通りの高校生生活を二人は過ごし卒業する事ができた。
「世界って、こんなにも広いんだね」
「うん、そうだよ。これからも沢山いろんな景色を見せてあげるからね」
「麗音愛……うん、嬉しい」
広い広い、世界。
椿の行動が制限されることは二度とない。
心地よい風になびく椿の綺麗な髪を、そっと撫でる。
学園内では当然ざわつきがあったが、友人全員が事情を汲んで周囲を抑えて受け入れてくれた。
そして三年生の間は椿と受験勉強を必死で頑張りながら、無事に大学に合格。
卒業式では友人みんなと『カメリア』を歌った。
今は、卒業旅行の真っ最中。
世界中を飛び回れるだけのお金も、時間もある。
二人きりで、幸福だけしかない時間だ。
「椿は髪が、また伸びたね」
「うん」
「綺麗な髪だよ、今日も可愛い」
「も、もうっ」
ロングヘアのハーフツインテールが揺れて、椿の頬が赤くなる。
椿の髪が悲しみで伸びることなど、二度とさせはしない。
「椿は、す~ぐ照れるんだから」
「麗音愛が、私が照れちゃう事をすぐ言うようになったんだもん」
「だって言わなきゃ伝わらないし、どうせ口から出てるし」
戦いだけではない、椿との恋、学園の友人達との友情。家族の愛。
沢山の経験で、学び成長した。
想ってるだけでは伝わらない、それも学んだ事の一つだ。
「麗音愛も、髪が伸びてきたね」
「また銀髪見えてきちゃった? 染めなきゃね」
銀髪になってしまったのは直らず、麗音愛は黒く染めている。
「銀髪のままでも、綺麗なのに」
「俺には派手すぎるよ」
「かっこいいのに」
椿が麗音愛の髪に触れようとしたので、抱き寄せる。
感じる暖かさ、愛おしさ。
椿の首元のネックレスが揺れる。
卒業式に麗音愛が椿に渡した第二ボタンが通されていた。
「もう、お外なのに……恥ずかしい」
「誰も見てないよ」
麗音愛が言うように、二人がいるのは展望台の更に上の灯台の上だった。
「白夜様、こんな事に力を使っちゃいけませんよ」
いたずらっぽく椿が笑う。
「白夜は青春満喫中だよ。さっきまで森の中の妖魔を退治してたんだから……これくらい許してくれるよ、愛月姫」
麗音愛も同じように、いたずらっぽく言った。
紅夜は滅びたが、穢れや澱み、暗闇がある限り妖魔は生まれ続ける。
旅行の際に訪れた国でも、白夜団経由の依頼を受けて妖魔退治をしているのだ。
「ふふ。でも私は愛月じゃないも~ん椿だもんっ」
「わかってるよ、椿さん」
「麗音愛さんは、今日の戦闘もすごかった……私、何もしなかったよ」
「たまにはカッコつけさせて。紅夜を倒してもまだまだ力は必要みたいだから頑張らないとだしね」
明橙夜明集が消滅することはなく、麗音愛の力も神としては微力だが以前の晒首千ノ刀の時程度の力は残っている。
紅夜会の残党などが現れないように、今後も戦い続けたい。
皆の平和を守るために……そう二人は思っている。
「あ……ほら朝日が上るよ」
朝日が昇り始めて、あの死闘の日を思い出す。
でも今、光に照らされるのは自分達の世界だ。
草原が山が、木々が朝日に照らされて輝きだす。
世界が輝いていく――。
「すっごく綺麗……」
「うん、すごいね」
感動で身を寄せ合う。
椿に光が当たって、瞳がキラキラと輝いて見えた。
あの花火の日から、ずっとこの女の子に恋をしている。
「でもそれよりも、もっとずっと前から愛していたんだよね。これからもずっと一緒だよ」
愛し合う絆。
生まれ変わり、離れ、引き合いまた巡り合った。
それは運命に支配されたわけじゃない、自分達で引き寄せた奇跡だ。
「私も。これからもずっとずっと一緒にいてね」
「もちろんだよ。椿……ねぇ俺の名前を呼んでくれる?」
「麗音愛……麗音愛大好きだよ。何度だって呼ぶよ、麗音愛って、大好きな人の名前を」
「うん、最高に嬉しい。愛してる」
「えへへ……うん、私も……」
何度伝えても、少し照れて恥ずかしがる椿を抱き寄せて口づけた。
一人ぼっちの夜は、もう来ない。
この子が泣き腫らして迎える暗い朝は、もう来ない。
幸せな君と、ずっとずっと明るい朝を迎えて生きていく。
「よーしっ! 佐伯ヶ原のアトリエに行くかっ! 家にも連絡しないとね。帰ったら西野の結婚式もあるし、お土産もいっぱい買わないと」
「うんっ!! 摩美ちゃんに素敵なネックレス探して帰るって約束してるの! 佐伯ヶ原くんには、絵の具届けなきゃ! 美子ちゃんには紅茶~あと梨里ちゃんは香辛料と~釘差くんには激辛唐辛子でしょ~みーちゃん達にはお化粧品、えっとあとは~」
指を折って数えても足りないくらいの友人達が、待っている。
「帰りの荷物がすごい量になりそうだけど、もういっそ我慢しないで好きな物買おう! 幸にも、あの手押し車買って帰りたい! 昨日マーケットで見たやつ可愛かったな~」
「あの可愛いドレスも買いたいなぁ~おば様達とカリン達にもお土産買わないと……いっぱいだね!」
「うん、兄さん今ごろ仕事でひーひー言ってるだろうから~兄さんにも色々買って帰らないと」
「戻ったら、沢山働いて沢山勉強しなきゃ!」
「やることいっぱいだね」
離れていても、家族や友達をいつも想ってしまう。
抱き締め合いながら、二人で笑った。
気付けばもう陽は登り、澄んだ風が頬を撫でる。
「行こうか椿」
「うんっ!」
麗音愛が椿を抱き上げると、ぎゅうと抱き締められる。
心が暖かくなる。
「麗音愛、大好き」
「俺も椿が、大好きだよ」
愛する人が呼んでくれる麗しい愛の音。
それが何よりも嬉しい。
心が温む幸せ。
血と涙を乗り越えて、平和と愛を手に入れた。
「よーし! 飛ぶぞっ!」
呪怨ではない、見えない翼が広がる。
「は~い! しゅっぱーつ!!」
展望台から世界へと、二人は飛び立っていく。
色とりどりの未来へ、二人は羽ばたいていく――。
「色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!」完




