幸せな君と~直美篇~
時間経過がわかりにくかったようなので、ラストバトルは5月。今は次の年の3月ということを
脱出回と前回のお話に書き足しを致しました。失礼致しました。
可愛いベビー用モビールが揺れ動く部屋。
壁紙も淡いピンクに星空が描かれて明らかに子ども部屋だ。
ベビーベッドに、可愛いミニソファには沢山のぬいぐるみが並べられている。
「直美さ~ん、泣いちゃったよー!」
フリルの沢山ついた薄い水色のワンピースを着た少女が大きな声で言った。
少女カリンが言うように、ベビーベッドに寝かされた赤ん坊が泣き始めている。
「あらあら、もうちょっとだからカリンちゃん抱っこしてあげて~」
「はぁ~~い! ほら、よしよし~いいこいいこ」
カリンが抱き上げても泣き止む様子はないが、元気いっぱいの泣き声にカリンが微笑む。
「おまたせ~! 用意できたわっ」
赤ちゃんのミルクを持って部屋に入ってきたのは直美だ。
「はい、直美さん抱っこしてあげて」
「ありがとうカリンちゃん、でもそうねぇ……ミルクあげてみる?」
「え……いいの?」
「もちろんよ! きっと喜ぶわよ~そのまま、こっちへ座って」
「うん」
まだ首の座っていない赤ん坊だが、カリンは器用に抱きかかえて直美からミルクを受け取る。
「さあ~幸ちゃん、カリンお姉ちゃんがおいしいミルクくれましゅからね~」
壁には命名札が飾られている。
『幸・さき』
紗妃という名前を選んだ少女の想いと、直美の想いを合わせた名前にした。
幸ちゃんと呼ばれた赤ん坊が、口元に寄せられた哺乳瓶のちくびに吸い付く。
「うふふ、うわぁ、すごい勢いで飲んでるね~幸ちゃん」
「幸ちゃん、飲むのお上手ねぇいい子いい子。カリンちゃんもすごく上手ね」
「えへへ」
紅夜が滅びた後。
直美は出産のためもあるが自分の使命はこれで終わったと思い、団長を辞めた。
ヴィフォ同様に紅夜会の子供達の処罰は団内でも揉め事になったが、直美がこの本部の離れ屋敷で子供達と暮らし更生させることを誓ったのだ。
今は実質軟禁状態ではあるが、自然に囲まれた敷地内でカリンもルカも不満を言わずに穏やかな時間を過ごしている。
「直美ママ、雄剣パパが帰ってきたようですよ。はい温かいお飲み物です」
「えぇ雄剣さんが? あぁルカくんありがとう~嬉しいわ」
久しぶりの育児で寝不足の直美に、ホットミルクとクッキーを用意したルカが言う。
カリンよりもルカの方が率先して家事をやり、事務所で片腕の雄剣の手伝いもしている。
「……静かに静かに、パパが帰ってきたよぉ~ただいまぁ……あぁ! 起きてたでちゅか!! 幸ちゃん~~~!!」
大きなプレゼントを抱えた雄剣が、ベビールームに入ってきた。
眠っているかもしれないと小声で入ってきたのだが、ミルクを飲む姿に感激の声をあげる。
「まぁ、あなた~~! お仕事は?」
「ほら見てごらん! 可愛い幸ちゃんのおもちゃが届いたから半休とっちゃったよ! カリンちゃんのドレスもルカくんの本もある、直美ママにもカフェインレスの紅茶やお菓子も通販で沢山買っちゃったよ~! 幸ちゃん~! ミルク飲んだんでちゅかー! いい子だねぇ~! 可愛いーーーー!! 天使かーーー!!」
デレデレである。
「もう~まだ手押し車は早いわよ~。このドレスだって100サイズじゃないの~!」
毎度可愛い赤ちゃんグッズを見つけては、買ってくる雄剣。
カリンがミルクをやり終え抱っこしている姿を、携帯電話で撮りまくっている。
この家が『親バカ御殿』と呼ばれるのも仕方ないと直美は苦笑した。
ミルクを飲み終えた幸にゲップをさせるために、直美がカリンに代わって抱き上げる。
幸を抱く直美の隣にルカが座った。
「可愛い」
「ルカくんも、いつもありがとう。本当にあなたがいてくれて助かってるわ」
「えへへ」
二人はカリンとルカに『あなた達のパパとママになる』と伝えて我が子のように接し続けていた。
過去の二人の罪も一緒に背負い、時には叱り、沢山の愛情を咲楽紫千夫婦は日々与えている。
倫理観が欠如している事が懸念されたが、接していくうちに二人は素直に適応していったのだ。
直美のお腹で育っていく幸を、不思議そうに一緒に見守った二人。
カリンは直美の出産の時には立ち会いを希望して、雄剣と必死に直美を励ました。
ルカは麗音愛と椿と剣一と出産を待ちわびていたが、幸が産まれた時には泣いて喜んだ。
その時の二人は、もう紅夜会の子供ではなく咲楽紫千夫婦の子供だった。
「ほら、カリンちゃん可愛いリボンだよ」
「とっても素敵。ありがとう雄剣さん」
「……カリンちゃんは、まだ……パパとは呼んでくれないのかな」
「あなた」
当初は疑っていたルカの方が、二人をパパママと呼ぶのは早かった。
カリンはまだ『直美さん』『雄剣さん』呼びだ。
つい本音がポロッと出てしまい、雄剣は口を手で塞いだ。
「雄剣さん……違うわ。二人のことはとっても大好きなのよ」
「ありがとう。それだけで十分だね、ごめんよ……」
「違うの! だって、二人が私のパパとママになったら剣一と結婚できなくなっちゃうもの! お兄ちゃんと妹になったらダメなんだもの!」
「まぁ~!」
そういうことだったの!? と咲楽紫千夫婦は驚いた。
剣一に懐いていることは当然知っているが、まさかパパママ呼びと関係していたとは!
「あいつはやめておきなさい」
雄剣の真剣で冷静な言葉に、吹き出す直美。
子供の頃から女子にモテまくり、結婚しない宣言はまだ撤回していない。
夫婦二人の間に新しい命が授かり、驚愕した麗音愛と剣一だった。
もちろん年の離れた妹を二人は喜び祝福したのだが、剣一から『死闘の前にねぇ、さすが俺の親父だな!』とひやかされたのを根に持っているのだ。
「どうしてダメなの?」
「えーっとね、あいつは……女たら……いや」
「ほほほ……あら、みんなが楽しそうで幸ちゃんは幸せいっぱい~眠りそうよ」
赤ん坊の幸は、スヤスヤと眠り始めた。
困り果てた雄剣の隣にルカが座る。
「カリン、お前は姫様を少し見習うべきだ。姫様はしっかりと男を見る目がおありだった」
「なぁにルカったら、すっかり玲央に懐いちゃったんだから」
「そ、それは違う。だけどあいつはまぁ姫様を大事にしてるし……誠実だとは思う」
麗音愛との戦闘経験もあるルカとカリン。
どうしても素直になれない場面もあるのだが、椿が間に入って関係をうまく取り持っている。
「剣一だって誠実だもん」
「そうかなぁ」
後ろで雄剣も『そうかなぁ』と呟いたので直美がまた吹き出した。
「ルカはうるさい! あ~ぁ姫様も今頃卒業旅行でどこに着いたのかなぁ? 姫様に電話してみようか」
椿の話になって、カリンは思いついたように言った。
「二人の邪魔をしちゃダメだよ」
「ルカはうるさいなぁ~」
言い合いながらじゃれ合う二人。
それを見つめていた雄剣の携帯電話が鳴る。
「お? 剣一から連絡がきた。仕事が終わったら夕方には帰宅すると。みんなも来て花見をするそうだ」
「えー! やったぁー!」
「こら、カリンさわぐなよ。幸が起きるだろう」
「ふふ、にぎやかで楽しいわね。椿ちゃんと玲央からもそろそろきっと連絡が来るわよ」
「そうだね、じゃあ今日はお花見パーティーだな! みんな食べたいものをパパに言いなさい!」
「じゃあパパ! ビストロ・ノクターンのサンドイッチが食べたい!」
カリンが元気に叫んだ。
「カ、カリンちゃん、今パパって……」
雄剣は涙ぐみ、カリンの頬がピンクに染まる。
「まぁ、パパ~良かったわね」
「あはは~カリン、素直になったんだな」
「妹でも剣一と結婚するからいいんだもん!」
「それはやめなさい」
「どうしてパパーー!」
キャッキャと子供達と盛り上がる雄剣を見て、直美が微笑む。
「幸ちゃんも、ミルクが飲めるようになったし……剣一の大学生活のためにも、そろそろ団長補佐しないとね~いつも言ってるけど、玲央お兄ちゃんも剣一お兄ちゃんも、世界を救った勇者なの。私の大切な息子達。かっこいいお兄ちゃん達よ」
兄二人の話を聞きながら、すやすや眠る幸。
「あなたが独り立ちするまでは、お母さんの愛をたっぷりたっぷりあげるからね。絶対に幸せになってほしい……みんなね、私の大切な子供達……」
窓から淡い陽の光が差し込んでくる。
ふと思い出すのは、あの正月に自分を助けに来てくれた一人の少女。
『直美さんねー!? 来たわよー!! あけましておめでとうー!! ハッピーニューイヤー!!』
あの瞬間から、運命の輪は回った。
あの時までの孤独なお正月はもう来ない。
篝と出会ってから、お正月は素敵な日だと初めて知った。
直美にとって、永遠の勇者。
輝く存在、鮮烈な炎。
永遠にそれは、変わらない……。
そして雄剣と結ばれ、剣一が生まれ、麗音愛を育て、今また沢山の子供達に囲まれている。
自分がもらった温かな幸せを、子供達にも伝えていきたい。
心からの愛を、伝えていきたい。
「……篝……沢山の愛を、ありがとう。毎日がお正月みたいににぎやかで……私、とても幸せだわ……」
キラキラとその言葉に答えるように、木漏れ日が揺れた。




