帰ってきて
人間世界で戦い続けていた白夜団の団員達。
紅い空の色が変わり、色の無い夜に変化していく様を見た。
妖魔達は断末魔を叫ぶように一層激しさを増したが、ボロボロと崩れ去り世界に光が差していく。
「やったのか……?」
龍之介が空を見上げつぶやく。
途中からそれぞれの明橙夜明集に力が宿るのを感じ、なんとかそれで戦いを切り抜けることができた。
「やったんだよ! 決まってるっしょーーー!! 勝ったんだよ! やったーーー!」
龍之介が、倒れそうになるのを梨里が抱きとめる。
龍之介は誰よりも、此処で戦い続けた。
梨里も何度も助けられた事を実感しているので、情けないとは思わない。
「そうか……はは……童貞神めが! やったんだなぁ! 玲央!! ……あ~血が足りねぇ……左腕も折れてんか……あいつが無事なら……椿も無事だよな……ふぅ……」
「って、まだ気を失うのは早いってぇ! これからやることあるし、寝るなぁ! ……ってあたしもヤバいんだから~」
二人で倒れそうになったところを、筋肉ムキムキの巨体が抱きとめた。
「よく頑張ったぞ! 二人とも!!」
「た、武十見さぁん……」
「はぁ……トミー来たんだなら、マジ大丈夫ってことだよね~」
龍之介と梨里がホッとした顔をした。
武十見も無傷ではないが、笑顔だ。
後ろから非戦闘員の救護部隊がやってくるのが見える。
「各地の妖魔が消滅した! 玲央達が勝ったんだな! だがもう少しだ! 玲央達を迎えなければいかん!」
「世話がやけるぜ……ったくよぉ」
救護されるのは、もう少し先だ。
それでも、龍之介はニッと笑って立ち上がった。
「はぁ……っはぁっはぁっ……」
美子が校庭の真ん中で額の汗を拭う。
最後の怒涛の襲撃で、中央部隊は死ぬ覚悟した戦いだった。
槍鏡翠湖も麗音愛の呼びかけに共鳴し、最強の浄化の力で妖魔達を飛散させることができた。
しかし彼女の本来の役割はこれからだ。
大量の妖魔の襲撃で、こちらと紅夜の世界を繋ぐゲートが、薄く揺らいでしまっている。
彼らをこの世界に戻すために、もっと強い力で結ばなくては――!!
「う……よ、美子ちゃん……ゲートは……」
傍で戦っていた伊予奈も膝をついた。
錫杖はもう折れ曲がっている。
「伊予奈さん!」
美子も槍鏡翠湖を杖にして、やっと立っている状態だ。
「はぁ……はぁ……美子ちゃん、無事ね? なんて数だったの……」
「はい……なんとか……本当にひどい数でした……」
伊予奈の団服も、美子の白い式服も妖魔の返り血と体液で汚れきっていた。
伊予奈の耳につけたイヤホンからは、現地の情報が入ってくる。
各地の妖魔も消滅した。
至急、こちらの応援と救護に駆けつけると――。
しかし、当然上空の紅夜の世界の情報などは入ってくるわけはない。
「はぁ……はぁ……玲央……椿ちゃん……ねぇ! 剣一くん! みんな無事なのぉ……? ……佐伯ヶ原くん……」
上空に映る世界で誰が無事なのか、どういう状況なのか把握することなどできない。
「美子ちゃん……うう……ゲートを……」
「……はい……」
伊予奈に言われなくても美子には自分がやるべきことはわかっている。
わかってはいるのだ。
ただ、二人とも身体が動かない。
そこに力強い声が響く。
「伊代奈さん……! 大丈夫ですか! すみません校舎側にデカいのがいて!」
「あ……拓巳くん……無事だったのね」
「えぇ! ゲートをもっと開きましょう」
七当主の、滑渡拓巳だ。
伊予奈に手を貸して、美子の元まで行こうと支えて歩き出す。
「美子ちゃん! ごめんね! あいつら人が多いとこに狙いに来やがって!」
「つ、月太狼さん……いいえ、私だって自分の身しか……守れなくて……」
美子には恩心月太狼が向かい、支えた。
美子達の周りにも本部員や龍之介達がいた。
しかし知恵のついた上級妖魔は彼らを散り散りにするような闘い方をしたのだ。
校舎にいた結界を管理し、現状を把握する本部を襲撃させるわけにはいかなかった。
それぞれが、それぞれの任務を懸命に闘った結果だ。
「それで十分だよ! 頑張ったね」
「み、皆さんご無事で……?」
「もちろんだよ! 本当にすごい戦いだった……海里も死んでないよな。いーやもちろん死んでない……! 俺達は海里と幼馴染だからわかるんだよ、幼馴染センサーで! あいつは絶対、生きてる!」
「……わ、私も……玲央と剣一くんも幼馴染で……だから生きてるってわかります……絶対、絶対に……生きてる!!」
仲間との、深い絆がある。
幼馴染として、命をかけて彼らのゲートを守ると誓った。
月太狼が、地に刺さった明橙夜明集に手をかけた。
「だよねー彼氏のことも、わかった? 彼も意外にさ、強そうだよね~オーラすげーもん」
月太狼がヒヒっと笑った。
彼氏って……誰のこと?
でも、そんな事を聞いてる暇はない。
月太狼のサポートで槍鏡翠湖は、強固に土に突き刺さる!
美子がぐっと握った両手を支えるように、月太狼も握った。
「美子ちゃん……! みんなのためにゲートを大きく開きましょう!」
拓実に支えられた伊予奈が、彼と一緒に槍鏡翠湖を握った。
「おいおい! 俺の存在忘れるんじゃねーぞぉ~!!」
「あたしもね! ヨッシーやっちゃえ!!」
「龍之介! 梨里! 無事でよかった……」
「ったりめーだろ」
「あったりまえじゃん」
そう言いながらも、武十見が地に下ろすと龍之介はもう座り込みながら槍鏡翠湖を握る。
梨里も座って龍之介を支えながら、折れたネイルの指先で槍鏡翠湖に触れた。
「さぁ! 最後だ! 気張るぞぉ!!」
「みんな頑張って……!」
武十見と伊予奈の叫びと同時に、学園本部に集った白夜団の団員も印を結ぶ。
そのなかには、海里の帰りを待つ少女もいた。
「はい……! 槍鏡翠湖よ!! 道を繋いで!!」
美子の叫びと共に、弱々しかったゲートの光が強く輝く。
命が燃え尽きそうな、感覚だった。
怖くて逃げてばかりだった自分への報いなのか――。
引き千切られそうな痛み。
でも離そうとする人は誰もいない――。
それでも龍之介が血を吐いて、梨里が気を失ったように倒れた。
槍鏡翠湖を持つ美子には更に激痛が走り、式服は血に染まる。
「……ぐっ……痛い……! でも絶対離さない……!! 玲央……! 椿ちゃん!!」
紅夜の世界へ椿を助けに戻った玲央は、きっとこれ以上に痛かった。
同化剥がしで槍鏡翠湖を胸に受けた椿は、きっとこれ以上に痛かった。
誰よりも強い剣一でも、きっとこれ以上の痛みを受けて耐えてきた。
「剣一くん……!」
そして死ぬかもしれないのに紅夜の世界へ行った人達を、見送った。
彼らは、どれだけの痛みを受けたのだろうか?
でもあの人達は強いから、自分は弱いから。
自分よりずっと、ずっと彼らは強いんだもの耐えられる人たちなんだって思って……ずっと逃げていたかった。
「それなのに……」
絵が好きで、戦いたくなくて、非戦闘員で一緒だったくせに、どうして痛い怖い思いをする死ぬかも知れない場所へ行ったの!?
戦わない、弱い仲間だって思っていたのに……!!
「……一人で勝手に強くなって……さ!! ……バカ……痛いよ……!!」
美子の瞳から涙が溢れる。
でも閉じたりは、しない!
今この槍鏡翠湖を支える人達で、未来を変えたみんなのためにゲートを開こうとしてる……!!
だから帰ってきて!!
そのために、私だって……!!
「私だって、もう逃げない!! 槍鏡翠湖!! 私と一緒に砕ける覚悟をして!! 道よ開いてえぇえええええええ!! バカぁ! バカバカ! もういいから帰ってきてよぉおおおおおおおおおお!!」
激しい光が天を貫く――!
人間世界と、崩壊する紅夜の世界の道が繋がった。




