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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第三部 第二章

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麗しい愛の音~色とりどりの世界へ~

 

 何もかも無になったような――。

 時間の感覚も無いなかで、ふと意識がある事に気が付いた。


「ここは……」


 麗音愛が目を開ける。


 やはり真っ白な世界に、自分がいる。

 存在はしているが、一体ここは?


「白夜様……タケル様」


 目の前にいたのは、篝だ。

 会ったことはない。

 それでもわかった。

 美しい、女性だった。

 篝は真っ白な着物を着て、成人女性の姿だった。

 

 白夜を目の前にしてタケルと呼ぶのは、愛しい女神と、この気高い女性くらいだ。

 麗音愛には理解などできないはずなのに、理解ができた。

 

「……篝……さん」


 篝は頷いた。


「此処は、タケル様が私の夢で会うために作られた世界。胡蝶の夢の……世界です」


「あぁ……そうか……そうだった」


 そうか、と言っているのに意味はわからない。

 知っているのに知らないような。

 自分が創った場所だ。でも知らない。そして知っている。

 麗音愛だった時に、夢で見た場所はここだったのだろう。

 

「タケル様に頼まれごとをした場所です。いつかのサポートにと私の残留思念を残してくださいました……」


「あぁ……そうだった……俺は貴女一人に、大変な事をなんでも託してしまった」


 どういう立場でものを言っているのか混乱してしまうが、言葉が出てくる。


「いいえ。紅夜は滅びました。白夜団の悲願が叶ったのです。こんなにも嬉しいことはありません」


「うん……そうだ。やっと……」


 無意識に天を見上げるが、何も無い。


「紅夜の最後の一粒がどうなるかは、天の理に任せることとなるでしょう」


「……そうだな……報いは受けるだろうが……俺にも、その先はわからない」


 麗音愛は人々の魂から恨みを解放させたが、その後に彼らがどう生まれ変わるのまでの干渉はできない。

 紅夜もまた同じ。

 恨みのなかで消滅した可能性もある。

 しかしどちらにしても、もう人を傷つけることはできない。


「だが、これでよかったんだ」


「はい……でも、タケル様も……」


「あぁ……俺も」


 不思議な感覚だった。

 神だからなのか、なんなのか。

 自分の役割は終えたのだから、存在も終わり――そんな気がする。


 そしてそれを受け入れている自分がわかる。

 無感動のような無意識のような……平穏な心。


 まるで晒首千ノ刀を持ち始めた時に心を殺していた時……いや、そんなものより遥かに波音もない心。


 ……これでいい……。

 ……このまま、静かに……。


『……麗音愛……』


 何か聴こえた……。

 

「……え……?」


「タケル様、どうか麗しい愛の音を聴いてください」


 篝の表情が厳しくなる。


「……麗しい……愛の……音……?」


 真っ白な空間で、音も何も聴こえないはずだ。

 

「聴こえるはずです。麗しい愛の音を……聴いてください……!」


「な……にを……」


 その時、心に響いた。


 『麗音愛……』

 『麗音愛……!』


「……あ……」


「聴こえるでしょう?」


 自分の名を呼ぶ、少女の声。


「愛しい人を呼ぶ声を……! 聴いて!!」

 

 『戻ってきて!!』

 『麗音愛!!!』


「……つ……ばき……?」


 『麗音愛……!!』

 『麗音愛……!! 戻ってきてぇええ!』


 椿が呼ぶ声が聴こえる。


 瞬間、心の内に炎が燃え上がった。

 

 一気に蘇る、記憶、想い出、生きる意志。

 心から愛する少女を思い出す。

 最後に命を投げ出そうとした椿に、自分は何を言った……!?


「あぁそうだ!! ……一緒に生きるんだって……俺が言ったんだ……!!」


 死ぬ運命なんて受け入れてはならない――!


 麗音愛に蘇る強い意志。

 椿への愛。

 一緒に生きる約束を思い出した。

 

 それを見て篝はにっこり微笑んだ。


「麗音愛……そうよ。生きる意志を思い出したわね」


 麗音愛も自分の存在を思い出し、篝を見つめる。


「俺は、俺は……でも……もう」


 紅夜と共に崩壊したはずだった。

 気が付いたとしても、絶望しかない。


「大丈夫よ。貴方が呪怨達を解放した時……皆が少しずつ、貴方に分け与えようと命の欠片を置いていったから」


「皆が……俺のために」


 呪怨が光になっていった光景を思い出す。


「そう。あなたのための命よ……。そして椿の自害を、あなたが止めた。だからその命の欠片を緋那鳥が受け取って今、椿が貴方を取り戻そうとしている。あれは不死鳥だから、貴方を再構築してくれるわ」

 

「じゃあ……その力で今……椿が……」


 椿の必死の想いが伝わってくる。

 真っ白な世界に炎が灯った。

 椿の炎。

 温かな灯火。


「貴方が起こした奇跡です。二人が死ぬ運命を貴方が変えたの」


 椿が命を捧げて、鍔を復活させていれば、緋那鳥を扱える者はいない。

 麗音愛もそのまま後を追い、二人は紅夜と刺し違え死ぬ運命だった。

 

 でも今、その運命は変わる――。

 

「俺は、椿と生きていける……?」


 奇跡の未来。


「そうよ……麗音愛」


 微笑む篝の姿は、もう薄く薄く消えそうだ。


「篝さんは……一緒に戻れるんですか」


「私? 私はもう、これで終わりなの」

 

 クスッと篝は笑う。

 嫌味もなく、素敵な微笑みだった。

 きっと見た誰もが彼女に魅了されてしまう。

 遠い日に篝と出逢った母・直美の気持ちが麗音愛にわかった。

 だからこそ、その言葉が胸に刺さる。


「そんな……俺が、貴女に過酷な運命を命じて……それに従ったせいで……貴女が」


「そんなことないのよ。私も貴方と同じ。全部自分で決めてきたの。後悔なんてしてないわ。すごく楽しかったって椿にも伝えたの……だって神と女神の……あなた達二人のお母さんになれたんだから」


 また篝は微笑んだ。

 幸せそうな微笑み。


「貴女こそが女神です……あなたのおかげで世界は救われたんだ」


「うふふ。そうね、きっとご褒美もらえるわね」


「必ず」


「でもね、貴方の身体はタケル様ベースで再構築されるでしょうから……紅夜の成分も私の成分もなくなってしまうと思うのよ」


「……そうなんですか」


「そう。あなたの産みのお母さんじゃなくなっちゃうけど、これで椿とも結婚できるわ、良かったのよ」


 身体には篝の血が流れなくなる……。

 それでも……。


「それでも……あなたは俺の……」


 心が籠もる言葉。


「麗音愛……?」


「俺を産んで、名付けてくれた……あなたが……」


 麗音愛の目頭が熱くなる。

 初めて会えた産みの母。

 愛しい恋人の母。

 それが自分の母でもあって、戸惑いもあった。

 でも、それでも母があっての今だ。

 もしも会えたなら伝えたい言葉があった……。


「俺を産んでくれて、ありがとうございました。……母さん」


 まっすぐ見つめて言った。

 逆に篝が目を丸くする。


「ふふふ……そんな事言われたら、嬉しくて泣いちゃうわ」


 微笑んだ篝の瞳から涙が溢れる。

 静かに涙を流す母が手を伸ばしたので、麗音愛はそっと寄り添った。


「……母さん……」


「立派になってくれて、母さん嬉しい」


「……へへ……」


 つい照れて前髪をいじってしまう。

 その仕草を見ただけで、赤ん坊から幼児、少年、そして今の麗音愛の成長が目に浮かぶ。

 篝は離れていた時間を埋めるほどの愛しさを感じて、頷いた。

 可愛い我が子の、頬に触れて撫でる。

 

「さぁ、胡蝶の夢もこれで終わり……麗しい愛の音が聴こえる方角へいくのよ、椿の元へ」


「……必ず椿を幸せにします……」


「うん。二人で幸せになるのよ」


「はい……母さん、俺はもう生まれ変われないかもしれないけど……またいつか会いましょう。」


「大丈夫よ。きっとどこかで会えるから」


「きっと」


 神としての自分を忘れることができた、母との時間。

 だからこそ今、胸が苦しい。寂しい別れ。

 それでも命は巡る。

 きっと、またどこかで会えるだろう。


 この寂しい気持ちも、抱えて生きていく――。

 グイと涙を拭って、前を見た。


 『麗音愛……』


 聴こえる……愛しい人の声が。


「さぁ……愛しい貴方を呼ぶ声の方向に行きなさい」


「麗しい愛の音……麗音愛って、変な名前だと思ってたけど今は最高の名前だなって思います」


 麗音愛が無邪気に笑った。

 まるで幼子のように、聖母のように篝も笑う。


「そうでしょ? 直美にも変って言われたんだけど、最高にかっこいいでしょ!」


「はい!!」


「ふふふ、じゃあね。可愛い私と直美の子。いってらっしゃい……!」


「……いってきます!」


 真っ白な……色の無い世界から、麗音愛は抜け出していく。

 君のいる世界へ……。

 色のある世界へ……。

 

 人の数だけ色がある。

 心の数だけ色がある。

 色とりどりの世界が、そこにある。


 紅夜が滅びても、幸せも不幸も、愛も苦しみもある。

 

 だけど、そこに自分の名を呼んでくれる人がいる限り――。


 明日を、見るため今を生きていく。


 次の今も生きていく。

 その次の今も、椿が選んだ今を見せてやりたい。

 ずっと隣で椿が選んだ今を一緒に見て生きていきたい。


 二人で、そうやって未来を生きていきたい。


「麗音愛……! あぁ麗音愛……!!」


 崩壊しかけた紅い世界は、朝陽が昇ったようにまばゆい白い光に照らされていた。

 不死鳥が羽ばたいた音が聴こえた気がする……。


 泣き腫らした瞳でボロボロの少女が、ゆっくりと瞳を開けた青年にすがりつく。


「麗音愛……!!」


 ずっと、聴こえていた。

 自分を呼ぶ麗しい愛の音。

 愛しい人の声。


 沢山傷付いた身体。

 それでも温かい、生きている。

 

「……椿……」


 椿にも、失いかけた愛しい人の声が聴こえた。

 喜びの涙が溢れる。


 どこかで福音が聴こえる。

 今この時間を祝福する鐘の音。


 命を、愛を確かめる声。

 二人は呼び合って、強く抱き締め合った。

 

 色の無い夜が、明けていく――。


 

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] かがり様は強い御人だな…運命と戦って子ども達を導いて 大いなる母 やり遂げたね(;_;)
[良い点] 篝さんと麗音愛、親子が会えて良かった…… でももうお別れなんだね(゜´Д`゜) 麗音愛の名前の由来も素敵 まさかここでその回収がくるとは 情景色々想像して読みました 鐘の音がこっちにも聞…
[良い点] まさか、あの変な名前の伏線が回収される日がくるとは…… 涙が滲みました。
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