目覚めと罵倒
真っ白な世界で椿が出会ったのは、自分と同じ顔をした少女。
それでも月光が映し出した幻想のようで、髪や瞳や顔も淡い月光色で揺れている。
「あなたは……わたしなの?」
「そう……でも、これはただの手紙なの。私に意思はもうない。わたしはあなただから……もう、あと少しで私は消える」
「私に何を伝えに……?」
「今こそ、紅夜を倒す鍵を……あの御方に渡すのよ……」
「!! じゃあ……やっぱり麗音愛が……本当に……?」
篝が命を賭けて紅夜の子を身ごもった理由。
「まぁ……情けないわね、わたし……そんなことにも気付かないで……」
「むっ……わ、わからないよ! 覚えていないもの!」
相当呆れたような顔をされ、椿は少しムカッとする。
「そうなのね……この手紙が発動できるようにしておいて良かった……でも今この時……という事はもう時間があまり残されていないわ」
「……どういうこと?」
「最終決戦……あなたは、命を燃やして届けるのよ……」
「何を……?」
また胸元が光る。
「きっと……あなたも自分でわかっているはず、だってわたしだもの……自分の使命を……心のそこで知っているはずよ」
「はっきりおしえてくれないの?」
「運命だから。それに逆らってはいけないし過去が指図してはいけないの……あなたの名前はなに? 使命をおもいだして……」
「……私の名前……?」
麗音愛と出逢って、自分で決めたこの名前。
綺麗な花からとった、この名前……。
「そう。あなたは白夜様に届けるのよ……あの人を心から愛する者……どうか頑張って……わたし……」
「あなたは……わたしは……待って……」
自分と同じ顔の少女が微笑んで、暗転した。
真っ暗な中に光る、胸元の光……。
「ん……」
深い深い夢を見ていた。
椿が目を覚ますと、上空に吊るされ見下ろす世界は絶望だった。
「麗音愛ーーーっ!!」
麗音愛が紅夜の雷に撃たれ、血の海に落ちる姿。
それでも、彼は刀を振るっている。
「椿っ!! 今、助ける!!」
「麗音愛っ!! 私のことはいいからーーー!!」
いくら再生されるとは言っても、もう麗音愛の半身は黒く焦げ血が吹き出している。
椿の近くでは紅夜が笑いながら麗音愛への攻撃を繰り返していた。
「……ほう……目覚めたか我が娘……あの力はもう無くなったか……?」
紅夜が振り返り、微笑んだ。
いやらしい笑みだ、椿が目覚めるのを待っているような笑みだった。
「いや! 来ないでよ!! 麗音愛!! 一度逃げてっ!!」
「そんな事……!! できるはずがないだろぉー!!」
紅夜が椿に伸ばした手を、麗音愛が切り落とした。
爆発的に燃やした力で麗音愛は椿の近くまで呪怨の羽で飛ぶ。
「麗音愛!!」
「はぁ……っはぁ……っ遅くなってごめん、怪我はないか!?」
「わ、私は大丈夫……ごめんなさい足手まといになって」
「そんなことはない」
麗音愛は紫の炎を椿に燃やしてくれる。
闘いながらずっと、椿を気遣ってくれていたのだ。
「ははははは……花嫁が目覚め……婚姻の儀でも始めるか」
拘束された椿を守るために、麗音愛は剣を振るうが集中攻撃を受けるようなもの。
「麗音愛! ダメ! 紅夜やめて! 麗音愛を殺さないで!!」
「椿! 紅夜に命乞いなどするな……俺は負けない……!」
「この触手さえ千切れれば……!!」
右手に緋那鳥を出現させるが手首まで触手が絡まって剣を振るうことができない。
先程の光でのダメージの後に麗音愛が何度も斬りつけて、あと少しなのだが椿を守りながら戦う麗音愛には最後触手を断つだけの隙が与えられなかった。
椿には、命を賭けろと言われてもわからない。
「私の中にある力!! 麗音愛を助けて! 私はどうなってもいいからぁ!!」
泣き叫んでも、何も変わらない。
拘束されているからなのか、何か条件があるのか――わからない。
眼の前の麗音愛が更にボロボロになっていくのを見ているだけ、一体どうすればいいのか――?
「いつまでもいつまでもぉーーー!!」
天高く掲げられた椿に、地上から少女の声が聞こえた。
血の海で、怒り叫ぶ声――あれは!
「!? か、加正寺さん!?」
「この、クソあざと女ぁーーー!! いつまでも玲央先輩の足手まといになってんじゃないわよぉおおおおおおお!!」
地上で周りの妖魔を斬り伏せた琴音が、黄蝶露と骨研丸を構え宙へと目掛けて放った。
黄蝶露と骨研丸は麗音愛の呪怨に煽られ更に威力を増し、椿を拘束する呪怨の根本に突き刺さり――
貫いた――!!
「きゃああっ!?」
触手が粉砕されて、椿の腕と頬にも二刀の刃が当たったが解放された!!
「椿!!」
紅夜からの攻撃を斬り返した麗音愛は、宙に舞う椿を抱きとめる。
「か、加正寺さんが危ない!!」
怪我を負っても、丸腰になった琴音を椿は気遣う。
「わかってる! でも!」
琴音を守るために呪怨の槍を飛ばすが怒り狂った触手が麗音愛追いかけ、攻撃を払う。
椿も炎を舞い上がらせるが地上には届かない。
そんな椿を琴音は見上げていた。
「ふん、心臓串刺しにしたつもりだったのに。相変わらずムカつく女」
上空に麗音愛の紫の炎が見える。
これでもっと自由に強く麗音愛は戦うことができるようになった。
「ふぅ……玲央先輩……大好きです」
しかし武器を持たない琴音に妖魔の群れが迫る……!!
「私がこんな場所で死ぬわけがないって言ってんよ!!」
琴音は牙が届くギリギリまで妖魔を睨みつけ叫んだ。




