死闘再び
明橙夜明集が麗音愛の呼び声に共鳴して、力を増した。
勢いに乗った麗音愛が紅夜の触手に斬りつけるが、まだ紅夜の本体には程遠い。
「椿! 目を覚ましてくれ!」
椿は涙を流しながら、ぐったりとして意識を失い紅夜の元へ引き寄せられた。
「ふふふ、我が娘、我が花嫁よ……」
紅夜が椿に手を伸ばしたその時、麗音愛が投げた晒首千ノ刀が椿を守るように触手へ突き刺さる。
そして一気に触手に絡まれた椿を覆うように、呪怨の結界が広がった。
学園での死闘で初めて結界を作った時のように、椿を守る結界――。
「ははははは!! また同じような事が通用すると思うか!!」
しかし紅夜は笑いながら自分の手から生み出した剣で、呪怨の棘を切り払う。
晒首千ノ刀は、すぐに麗音愛の手に戻った。
わずかな呪怨の棘は椿を守るように蠢いているが、守りきれるものではない。
「椿に手を出すな!! 俺と闘え――!!」
椿に触れさせぬように、麗音愛は紅夜の触手に斬りかかる。
紅夜は笑いながら触手を鞭のようにして、麗音愛を攻撃し続けた。
呪怨の羽で逃げながら戦う麗音愛。
「はははは!! 羽蟲のようだな!!」
「くそ!」
触手と同化した紅夜は、もう人間の何倍もの大きさになっている。
刃を交えるという状況では、もう無い。
巨大な悪神の鉄槌を逃げながら、飛ぶ黒い天使のように見える姿。
「どうだ? 惨めさが楽しいか? 我が息子よ!!」
「黙れ!!」
怒りに燃える麗音愛。
明橙夜明集の力も更に強化された。
しかし、まだ紅夜を倒すには足りない――!
触手の数は更に増え、地面の紅い血の海で琴音が闘っているのも見えた。
麗音愛も琴音の援護として呪怨の槍の雨を落とす。
「このままじゃあ近寄れない……!!」
紅夜の触手とただ闘っているだけ。
紅夜は今もまだ人間界から落ちてきた人間を吸収し、妖魔を吸収し力を貯めている。
このままでは力尽きてしまうのは、麗音愛の方が先だろう。
「はははは!」
そして紅夜がまた椿に手を伸ばす。
いくら血や泥で汚れていても、涙で頬が濡れていても輝く椿の美しさに紅夜はニヤリと笑う。
巨大化した腕を伸ばし、更に指先を少女に伸ばそうとした。
「やめろぉおおおおおお!!」
麗音愛の怒声が響く。
しかし刃は届かない。
が、淡い光が椿を包んだ。
「ぐぅ!? ……これはなんだ――?」
輝く白い光。
紅夜の指先は切断され、血が溢れる。
気を失った椿の胸元が光り輝いて紅夜を拒絶しているのだ。
「椿ーーーー!! あの光は……小さな鍔?」
麗音愛からのプレゼント、銀のネックレスに指輪と第二ボタン。
そして、あの箱に入っていた白い小さな鍔。
再会した時に胸元で光り輝いているのを麗音愛も見た。
「なんだこれは……あの女……篝の術か……?」
紅夜は篝の術だと思っているようだ。
ジリジリと触手を這わせようとするが、砂のように触手は浄化されたように消えていく。
気を失った椿の身体を支える触手が減っていき、ぐらりと揺れた。
「椿……!」
「あの女、篝はまだ……生きているのか? ……最後まで猪口才な女よ。二人並べて可愛がる最初の計画通り事を運ぶか……」
紅夜は血の海をぐるりと見渡した。
まるで審判のような緊張が走る。
広大な血の海。妖魔や触手、奪達と戦う剣一の姿が見えた。
兄に攻撃など、させるか――!
麗音愛はその紅夜の視線を呪怨の羽で遮るように飛ぶが、紅夜は辺りを見回している。
紅夜は篝を探しているのだ……!!
「いや、もう人形など邪魔だな」
消えた指先もすぐに復活したようだ。
指先に膨大なエネルギーが集まっているのがわかる。
「あそこか……? 臭いぞ……人間の臭いがするぞ……!!」
無垢な子供が呟くように、紅夜がエネルギー弾を血の海に向けて発射させた。
カリンの結界で見えないバリアを施している事を、麗音愛は知らない。
だが見えなくてもその先に、人間の命があることはわかった。
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
圧倒的な破壊力を持つだろう、それは一直線に向かっていく。
麗音愛のスピードでも間に合わない。
あれが直撃すれば、一帯は焼き尽くされるだろう。
しかし、そのエネルギー弾は弾かれる。
「!!」
「……ほう、絡繰門雪春か……」
遠くに見えるその姿は、確かに絡繰門雪春だった。
彼の明橙夜明集『雪春』も強化されたのか。
大太刀が輝き、雪春の周りに雪のような力が舞い散っている。
刀で紅夜のエネルギー弾を弾き返す力技。
だが麗音愛の目に、彼の軍服から血が滴り血を吐いたのが見えた。
「紅夜に歯向かい、篝さんを、皆を守ったのか……?」
雪春と篝や琴音達の間で、何が起きているのかなど麗音愛は知る由もない。
だが今は雪春の行動の真意を考えている暇はない。
「なかなか面白いやつだったが……死期を早めたか」
紅夜が雪春の元へと、妖魔の群れを放つ。
その一瞬の隙をついて、麗音愛は高く飛び上がる。
触手は麗音愛の後を追いかけてくるが、それよりも高く紅夜と椿の頭上遥か上へ飛んだ。
そして一気に椿の元へ落下する!!
「させるか……はははは!!」
しかし紅夜に弾かれる。
力を増した晒首千ノ刀でも、紅夜にはまるで刃が立たないのか――。
「椿を返せ!!」
弾かれ身体が引き裂かれた麗音愛が叫ぶ。
あの学園での死闘。
必ず奪い返すと、自分などどうなっても構わないと挑んだ。
今もその気持ちは変わらない――!!
「あははは、醜い人間の恨みを背負った刀を振るう息子よ……! 俺に敵対しているようだが、お前の力の本質は穢れ淀み恨み辛み、まさに妖魔と一緒じゃないか!! あーはっはっは!! お前がその刀に愛されているのは、まさにお前が俺の息子だからだ!! 穢れた魂よ!!」
紅夜の笑い声が響く。
その笑い声が染み渡るように、晒首千ノ刀が震え、揺れる。
強さが増したが、更にコントロールは難しくなっていることは麗音愛も自覚していた。
そう、この刀は人々を守る刀とはまるで真逆のような、呪われた刀――。
泣き叫ぶ呪怨、紅夜に向けての呪い、怒り、悲しみ、が麗音愛に対して攻撃に変わる。
「静まれ!! 晒首千ノ刀!!」
「あーはっはっは!!! 我が息子ながら……自分の刀に食われるなど……なんて笑える結末だ!」
「うるさい! 俺が滅んだとしても、お前だけは必ず――!!」
晒首千ノ刀が暴走しながらも、麗音愛は紅夜に突っ込んでいく。
自分を殺す刀でも、その力で紅夜も滅ぼしてやる――!!!
麗音愛が、自分の命を燃やし……紅夜と闘っているなか。
椿は……失った意識のなかで……誰かの声が聞こえていた。
ぼんやりとした世界……。
静まり返る……世界……。
「……あなた……」
「……ん……」
「おきて……」
真っ暗で、何も見えない。
絶望と触手に絡まれる苦しさ……。
自分は死んでしまったのか? と椿は思う。
涙のような水滴が頬に垂れた。
自分の涙と合わさって胸元に落ちていく。
「起きなさい……」
「だれ……?」
「わたしは……あなた」
「わたしは……あなた?」
「そうよ……起きて……」
椿がゆっくりと目を開けると、真っ白な世界。
そこには誰もいない。
ただ声だけが響く。
「自分の使命を思い出して、あなたの生まれた意味を今ここで示す時がきたの……」
「わたしの生まれた意味……?」
キラキラと輝く胸元の光。
「……麗音愛……」
麗音愛からの贈り物。
第二ボタン、指輪……そして、摩美が届けてくれた白い小さな鍔。
「……これは、わたしの一部……? でも一体なんなの……? あなたはだれ? おしえて……」
「わたしは……あなた」
椿の前に胸元からの光が集まるようにして、形作られていく。
目の前に少女が現れる……。
「……私と同じ……顔……?」
少女はまさに椿と同じ顔をしていた。
微笑むでもなく、少女はコクリと頷いた。
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