殺・襲いかかる狂鬼!
肉壁の迷路の中で戦い続け、椿を探している海里と摩美。
他の団員とも出会えない。
出迎えてくれるのは妖魔ばかりだ。
「はぁ……っ」
「摩美さん、大丈夫?」
「うん、これだけの妖魔を倒してるのに……まだ湧き出てくるなんて。椿ちゃんも見当たらない……無事でいて……」
真っ暗な肉の壁は一体、どこまで続くのか……。
昼も夜もわからないこの空間、まさかこれから何十時間もの耐久戦でも始まるのか。
節約していた水を海里は一口だけ飲む。
摩美を気遣い水を薦めたが、摩美は断る。
海里よりは身体の構造的に耐久力はあるからだ。
「私を気遣う必要ないからね」
「女の子には変わりない」
「まったく……白夜団の男ってのは、みーんなそんな感じね」
「はは。紳士なのさ」
少し笑いあったその瞬間、二人に悪寒が走った。
悪寒、というよりは空気が重くのしかかるような、恐ろしい何かを感じる。
「な、なんだ!?」
「まずい気がする――っ」
内臓のような廊下には、隠れる場所などない。
「結界を張れば、やり過ごせるか!?」
「いや、もう……無理……」
「ギャアアアアハハハハハッハアッハハハ!! 見つけたぞぉおおおおおおおお!!」
白夜団の団員を襲う三つの厄災。
最後の一匹……。
「俺は殺! 殺すの大好きギャハハハハハハ!! ヒャッハー!! やっと見つけたぜぇええ!! 人間がぁああああ!!」
狂気のバーサーカー、そんな絶望を二人は感じた。
殺の鋭い爪先には妖魔が刺し貫かれている。
敵味方も関係ないタイプのやつなのか……。
「さ、殺……紅夜様はどこにいるの? こいつは捕虜よ」
自分の謀反がこいつには伝わっていないのでは、と摩美は海里の腕に縄を絡ませ殺に言った。
「あぁーーん? 謀反者がいたはずだぜぇえーー!?」
いちいち大声を張り上げ、爪先に刺さった妖魔を殺は無数に生えた牙で噛み砕く。
「ぐぇえっ! マズイ! ブッハッ……俺はなぁ~殺すの大好き! だから殺ス! 女ぁ〜お前の肉は柔らかそうだナァ……」
殺に目はなく、ぬらぬらと黒光りした面だけだ。
しかし、舐め回されるような視線を感じ、摩美は更にゾッとする。
「人間を……殺したいナァ……その男の身体を切り裂いてみてぇナァ……」
「……戦闘不可避だね」
「……そうみたいね……」
摩美が海里の腕から縄を解き、そして縄を構える。
海里も刀を構え、そして息を整えた。
――こいつは最悪最強の敵だろう。
「あんた、自分が生き残る事考えなよ?」
「……女の子一人守れないで、何が七当主だよ」
「殺す殺すコロスコロスーーーーーーーーーーー! 殺す!!」
ビリビリと空気を震わせる咆哮をしながら、殺が突っ込んできた。
巨大な身体からは想像もできない速さ。
「うお……っ!」
殺の腕の一振りは衝撃派のように、避けた先の肉壁も切り裂く。
「やばいよ……こいつっ……!」
海里も麗音愛達の影に隠れてはいるが、戦う力は確かにある。
しかし、摩美と協力したとしてもこの最凶の化け物に勝てる未来はないと即座に気付いた。
そして、それは摩美も同じだ。
「逃げるぞ!!」
「うん……っ!!」
隠れる場所もない、延々と肉壁の廊下が続く場所で逃げる事など可能なのか?
可能性はゼロに近いが、それでも海里は摩美を走らせる。
「聖水結界術・泡月天……!!」
殺と二人の間に少しでも壁になるよう、海里は結界を張る。
「人間ってのは、おもしれー術を使うナァアアアア!!」
失、奪と同じように殺も口からビームを放ち海里の結界を粉砕した。
「くっ! 早く走って!」
必死に走る二人の後ろで、殺が大笑いする声が聞こえた。
ホラーゲームのような人生だと、海里は思っているが今まさに化け物から追いかけられるパニックホラーだ。
この先もずっと大きな廊下が続く、せめて殺の視界から逃れる狭い横道があれば……!
笑った殺の羽根が飛行を開始する音が背後で聞こえる。
結局、自分のような脇役はこんな場所で無駄死するのか――。
せめて摩美だけでも! 愛し愛される人がいる女の子だけでも逃したい!!
「海里……!?」
「いいから逃げろ……! 僕が足止めをする!」
「ギャハハハハアーーーっ!」
立ち止まり、自分に刀を向けた海里を殺は吹っ飛ばす。
しかし、海里もマントを翻し受け身をとり更に殺に斬りかかる。
「逃げろ!」
「そんな……っ」
元紅夜会の女を、守るために捨て身の攻撃を……!?
椿や麗音愛を始め、摩美には信じられない――彼らの純粋な優しさ。
西野が自分を守るために妖魔に噛みつかれ瀕死になった時を思い出す。
「ダメぇ!!」
「いいから逃げるんだ! 早く……!」
「ギャハアハハハ!! お前はもう即死ぬんダヨオォォォォォォ!」
爪を薙ぎ払ったが、すぐに新しい斬撃がくる。
もう避けきれない……!!
「ぐはぁっ……!」
海里の身体が引き裂かれる、血が溢れ、無惨に転がり落ちる。
逃げろと言われても、その惨劇を見てしまった摩美の悲鳴が更に響いた。
「サぁ! 死ねェエエエエエ!!」
その身体を持ち上げ、殺は海里の首を齧ろうと大口を開けた。
「ぐぉおおおおおおおおお!?」
更に、殺の叫びが響く。
その声は歓喜の叫びではなかった。
彼の口から、一本の剣が飛び出している。
輝くレイピア――緋那鳥!
後方から殺の頭を貫いた緋那鳥は更に一気に桃色の炎を噴出させ、殺の身体を燃え上がらせた。
「海里さんから離れなさい――! 化け物め!!」
「グェエエエ……お前は……」
「ひ、姫様……!」
炎の温かさを感じた海里は、声が出なかったが『椿さん……』と囁いた。
そのまま、また床に放り投げられた。
「摩美ちゃん、こいつは私が倒す! 海里さんを!」
椿が、摩美と海里と合流した!
更に白いドレスは汚れ、短くボロボロになっていたが椿の瞳は強い意志で輝いていた。
戦姫としての威厳すら感じた。
殺に刺さった緋那鳥は、鳥の鳴き声のような金属音をさせて椿の手に戻る。
「美味そう……コロ……シテェ……このオンナ……!」
姫である椿の存在も、殺には関係ないらしい。
波動で椿の炎を蹴散らした殺は、口から流れる血も関係ないように粘着のある涎を撒き散らした。
「俺は殺ダァアアア、お前を殺す者!」
「お前なんかに殺されるものですか……!」
殺が椿に襲いかかる――!




