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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第三部 第二章

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直美と紗妃


 佐伯ヶ原と離れてしまった咲楽紫千夫婦。

 直美は銃、雄剣は刀を装備し内臓のような城を廊下を進む。

 

「あなた……佐伯ヶ原君は大丈夫かしら」


「継承同化の気配を感じた。彼は僕ら二人より強いはずだ……合流を目指そう」


「この廊下の変化はずっと続くの? ……あ、あなた見て?」


「出口……? いや、横穴?」


 肉の壁に穴が開いている。

 直美は銃を構えながら、その穴を覗けば紅い夜に照らされた白階段が見えた。

 柱が立っており、無機質な広場。

 城の外だ。

 

 そして、少し遠くに血だらけで柱にもたれかかる少女を見つけた。


 あれは……!


「紗妃ちゃん……!」


 直美が走り出し紗妃の元へ走る。

 しかし肉壁の迷路から気配を察した妖魔達が一斉に異常を察知して集まってきた。


「直美! 青炎結晶を使うんだ!」


「雄剣さん! 援護するわ!」


 直美は紗妃の元へ着くと周りに青炎結晶を使い結界を張った。

 そしてすぐに銃を構えて雄剣の援護をする。

 片腕の雄剣は、右手だけで握る刀の威力は弱い。


「くっ……!」


「任せて!」


 百発百中で直美は雄剣を襲おうとする妖魔を吹っ飛ばした。

 そして何が起きたのか、妖魔達は急に違う場所へ集まるようにいなくなっていく。


「助かったが……誰かの元へ行ったか……?」


「……みんな無事でいて……お願い……」


 妖魔を追う事は今は不可能だ。

 直美の銃も弾は無限ではない。


 白夜団の子供達をサポートする事、そして直美には目的があったのだ。


 紅夜会の子供達を保護する事だ。


「紗妃ちゃん……!」

 

 直美はすぐに、倒れている少女へ寄り添う。

 雄剣は更に強固に三人の周りに結界を張った。


「ぐ……う……」


 紅い空。

 紗妃は怪我をして治療もされず、一人孤独にあの不気味な紅夜城から抜け出したのだろうか。

 幹部である紗妃の攻撃は内臓の壁を復活させることなく穴の開いたままだったのか。


 紗妃の意識はほぼない。


「あぁ……紗妃ちゃん、なんていうことなの……」


 死にかけた少女。

 歪な再生を繰り返し、肉体は半分醜い妖魔のようだ。

 紅夜に椿の血で蘇った事を聞かされ、王の間を飛び出し此処で力尽きようとしていた。


「……だ……れだ……」


 紗妃の頬は血と涙で濡れ、汚れている。

 もう目も見えているのか、わからない。

 城から此処まで大量の血の跡があった。

 常人ではもう既に死んでいる量だ。


「……紗妃ちゃん……わ、私は直美よ。紗妃ちゃん……わかるかしら? 咲楽紫千直美……よ」

 

 無惨に倒れ込んでいた紗妃を直美は膝枕をするように抱き寄せた。

 雄剣が紗妃の症状を見るが、静かに首を横に振る。

 

 自分の名を名乗る事が怖かったが、直美は正直に自分の名前を伝えた。

 紗妃には振りほどく力も残っていない。


「なお……み……? びゃく……の……団長の……無能の……クソババアか……」


「……本当に、本当に、無能よね……本当に無能でごめんなさい……」


 紗妃の頬に、直美の涙が落ちて濡らす。

 ……涙……。

 ムカつく人間達に沢山の涙を流させてきた。

 今も白夜団の女が、自分が死ぬのを笑いに来たのかと思ったが、違う。


 私が死にかけているのを見て……泣いている……? 


 ざまあみろと思っていた他人の涙なのに、直美の涙は少し紗妃の心を溶かした。

 

「ババ……ア……ハ……ガキ……」


「ハガキ……そう、ハガキを送っていたわ……それなのに貴女の事を気付けずに……」


 紗妃はあまり動かなくなった手で軍服のポケットを探った。

 出てきたのは一枚のハガキ。

 剣一が渡した桜模様の絵葉書だ。

 剣一は母が絵葉書を出し続けていたのを知っていた。

 

「……あぁ、そう……季節の花のハガキをいつも送ってた……」


 過度な干渉はしてはいけない、と一言だけ挨拶を添えて桃純家に送っていた。


 麗音愛の存在は気付かれてはいけない。

 双子の娘はきっと幸せに育てられている……そう信じて距離をとっていたのに……。


「ごめんなさい……」


 直美はハガキと一緒に紗妃の手を握る。

 また涙が溢れて紗妃にポタリと落ちて、直美はハンカチで綺麗になるように紗妃の涙も血も拭う。

 死にかけの妖魔に触れる手でも、暴力でもない。

 少女の柔らかな頬を思いやる優しい手だった。

 

「……うれ……しかった……」


「紗妃ちゃん」


 紗妃の素直な言葉。

 自分の死期を悟ったのだろうか。

 見えているのかわからない濁った目を開ける。

 

「宛名は……罰姫だったけど……綺麗なハガキがくるのが……うれ……しかった……」


「うう……ごめんね……気付けずに……ごめんなさい」


 返事は秋穂名家の人間に無難な挨拶文を指定され、紗妃は助けを求めることなどできるはずもなかった。

 自分は篝によって助けられたのに、何もできず少女を地獄に置き去った事を直美は何よりも悔やんでいた。


「……もう……つかれた……よ」


「そうよね、疲れたわよね……でも、まだ……まだこれから……私は貴女に生きてほしいの」


「ふ……もう、なんのちからも……のこって……ない……」


 華織月も折れてしまった。

 指の一本も動かす力もない。ハガキを持つ指ももう動かなくなってきた。

 紅夜のために、と思ってきた想いも砕かれた。

 ただの道化師。


 無力の、ただのゴミ。


「力なんてなくてもいいの! 何もなくても、此処にいるだけでいいのよ、紗妃ちゃん」


 紗妃の目が見開かれた。


「……ほん……と……?」


 そんな言葉に驚いた紗妃を見て直美は心を痛める。

 紗妃にとっては直美の言葉は本当に驚きだったのだ。


 無価値の自分には、戦う力があってやっと存在が認められる……そう紗妃は思っている。


「そうよ。子供はみんな生きてるだけで素晴らしいの。力なんかなくっていいのよ」


 直美に抱かれた温かさ。

 生きてるだけで素晴らしい? そんな信じられない言葉を直美は言う。


「……おかあ……さ……ん……」


 秋穂名家に引き取られる前の少しだけある記憶。

 母に抱き締められた温もりを思い出した。

 

「うう……、そうよ。一緒に生きて帰って……そしたら、貴女にしてあげたい事がいっぱいあるのよ」


「……おか……あさん……」


 優しく何度も冷たくなっていく手を擦ってくれる。

 お母さんの手だと……紗妃は思った。

 

「そう、お母さんになるわ。これから平和になる! そうしたら……みんなで楽しく一緒に暮らすのよ」


「……あん……たが……? ……おかあさん……?」


「そうよ」

 

 少しだけ紗妃がクスリと笑った。

 ふざけたような未来が、微かに見えた。

 しかし、紗妃の命はもう……。


「紗妃ちゃん……あぁ……だめ……死なないで……」

 

 どうする事もできない、直美は自分の無力さを嫌というほど感じる。

 乱れた髪を整えるように、頭を撫でると紗妃は母に甘えるように目を閉じた。


「お願い……この子を助けて……」

 

 此処まで来て、何も出来ずに命が消えるのを見ているだけなのか……。

 雄剣も直美と同じ気持ちで刀を持った右手の拳を握りしめる。


 しかし異変に気付いた。

 

「……あれは……っ?」


 雄剣が小さく叫ぶ。

 紅夜城の裂け目から妖魔が出てきたのだが、小さな少女を追っている。

 少女は一人、炎で応戦していた。

 着物姿の少女は雄剣の記憶にもある。

 あれは幼い頃の桃純篝!


 剣一に話は聞いていたが、まさか一人で行動しているとは!


「篝ちゃん!」


 雄剣は直美と紗妃が結界で守られている事を再度確認すると、すぐに篝を妖魔から守るために飛び出していく。

 あまりの事態に直美も溢れる涙が少し止まった。

 妖魔は少数だったため、雄剣が蹴散らした。

 雄剣に守られながら篝は小走りで直美の元へやってくる。


 揺れる黒髪、白い肌に紅色の唇。

 誰よりも意志の強い瞳。

 直美が出逢った頃より幼い――でも、確かに。

 

「久しぶりね。直美……!」


「か……篝」


 最悪な状況を照らす太陽のように篝は微笑んだ。

 彼女が紅夜の子を二人産み落とし、麗音愛を直美に託して以来の再会だった――。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] うえぇ……紗妃ちゃん(゜´Д`゜) 助かってほしいけどどうなるんだろ…… 「絵はがき嬉しかった」のくだり涙がにじんだ [気になる点] 直美雄剣夫婦と篝さんとの再会! どんな会話を交わす…
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