佐伯ヶ原VSルカ!~許せない想い!!~
「佐伯ヶ原君、大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございました!」
着地した咲楽紫千夫婦と佐伯ヶ原の三人。
直美に抱きしめられていた佐伯ヶ原は慌てて離れた。
「此処は一体……」
夫婦を繋いでいたベルトを外し、雄剣が不気味な内臓の廊下を見渡す。
赤黒い肉壁、生臭い臭い……発光して先は見えるものの、不気味さしか感じない。
「剣一の言っていた城とは全然違うわ。紅い夜の……紅夜の影響でこんな風に变化したのかしら。こんなものがもしも人間界に現れたら……」
妖魔化した人間達が紅夜を求めて、手を天に掲げていたのを思い出す。
まさか時空を超えてこの城を人間界へ突入させるつもりなのか? ……嫌な想像をしてしまった直美は首を振る。
「急ぎましょう」
「小猿を、椿を探して……サラと合流しないとですね」
「そうね、どこへ進めばいいのか検討もつかないけれど……紅夜会の子ども達も探したいわ」
直美の考えも既に作戦会議で聞いていた。
可能な限り紅夜会にいる子ども達も保護したいと直美は考えている。
特に元白夜団の一族出身である紗妃を探しに直美は此処まで来たのだ。
雄剣も佐伯ヶ原も頷く。
「でも、自分の身に危険が及ぶような時は、紅夜会の子どもにも容赦してはいけないよ」
「えぇ、わかっているわ雄剣さん。佐伯ヶ原君、もちろん私達にとってあなた達の身の安全が最優先ですからね」
「わかっています」
雄剣が闘った闘真は、手加減できた相手ではない。
命を賭けてでも直美を守ろうとした結果、腕を失った。
緊張感のなか、直美は銃を構え、三人で歩き出す。
何匹か現れた妖魔は直美が一発で仕留めた。
「団長、すごいんですね」
「銀の銃弾に剣一の青炎結晶を封じ込めた特別製よ。すごい威力ね」
弾の凄さもわかるが、直美の腕前が意外すぎて佐伯ヶ原は驚いたのだ。
「私は術は何もできないから銃の腕前は磨いていたの」
ふふっ……と直美は微笑む。
蛇願直美は結界術や攻撃術など、何も習得できなかった。
白夜団団員の能力を無力化できるという力も、使うべき時もない。
なので彼女は銃火器の扱いの勉強や訓練を団長になった時から、ずっとし続けてきたのだ。
細い道になっていた内臓の廊下を抜け、天井の高い廊下を歩く。
T字路に差し掛かったところで慎重に廊下を覗いた。
奥からやってくる足音が聞こえ、雄剣は元の道を戻ろうとしたが……。
「おやおや~~?」
敵に気付かれた声がした。
緊張が走る。
「隠れても~無駄ですよ~」
「お前は……!」
無数の妖魔を引き連れた……紅夜会軍服姿のルカだ。
佐伯ヶ原と目が合うとニヤリと笑う。
「これはこれはぁ~画家大先生様じゃあ、ありませんか……それと~おやおや? まさかの白夜団団長夫妻……」
雄剣は刀を、直美も銃を構える。
「彼はルカという紅夜の御付きの少年だな」
ルカの情報ももちろん把握済みだ。
幼い少年のような姿だが、幾度となく白夜団や椿の前に現れている。
椿が学園死闘の際に剣で闘った経験を報告しているが、最近では彼自身が闘う姿はあまり目撃されていない。
どんな攻撃を仕掛けてくるのか、緊張が走った。
背後には妖魔が唸り声をあげているが、雑魚から中級程度の獣型ばかりなのがまだ救いか。
「息子の死に目を見に来たのかい? いい趣味だねぇ」
誰も何も答えない。
いつ戦闘が始まるか……直美は銃をルカに向けたまま、唾を飲む。
「無視かい? 失礼だなぁ……はは、僕はねぇ~寵姫様を探しているんだよ。見なかった?」
明るくルカが話す。
「なに……?」
その言葉に佐伯ヶ原が反応した。
「もうすぐ始まる結婚式のためにね」
「なんだと……!」
佐伯ヶ原の怒鳴り声が響く。
それを無視して感慨深そうに、嬉しそうに、ルカは言う。
少し白々しい演劇のセリフのようだ。
「紅夜様はきっと姫様の結婚式を前にして、お前達の八つ裂きをプレゼントしようとしているんだろうなぁ~ああ~なんて素敵なプレゼントなんだろうか~姫様の可愛い泣き顔が目に浮かぶよ」
「うるせぇぞ。黙れクソガキが」
胸糞悪いと不機嫌さを表情に出した佐伯ヶ原が睨む。
その目に合わせて……ルカの目も冷ややかになった。
「君みたいな口の悪い男が僕は嫌いだよ……いつか殺そうと思っていたけど、足でも斬り落として紅夜様と姫様の絵でも描かせようか……咲楽紫千の血の絵の具でさ」
「貴様……」
「咲楽紫千夫妻はお前たちにお任せするよ」
ルカの横にいた虎のような妖魔の喉を撫でると、妖魔達が一斉に吠える。
身の毛もよだつ百鬼夜行が始まる……のか。
「佐伯ヶ原君!」
「御二人とも……俺には構わず、逃げてください」
佐伯ヶ原は一歩前に出て、後ろの咲楽紫千夫婦を庇うように右手を上げる。
「な、何を言っているの!?」
「そんな事はできない……!」
「この広い廊下で、あの数と真正面からやり合えば勝ち目はない。ルカは俺に任せて、御二人は先に此処から離れてください。さっき通った細い道まで戻れば結界を張りながら闘える! それまでの時間を稼ぎます……!」
佐伯ヶ原の驚きの発言に、直美も雄剣も困惑する。
しかし佐伯ヶ原の言う通りの状況で間違いはなかった。
「でも、あなたは非戦闘員なのよ!?」
「大丈夫です」
佐伯ヶ原はしっかりとそう言った。
少し振り返り、雄剣と目が合う。
「此処へ来る時に、情で危険な行動を選ばないようにと言ったのは団長ですよ! 俺は大丈夫! 信じてください!」
確かに直美はそう言った。
だが、それは子ども達へ自分の身を最優先で守るための言葉で、年配の自分達を守らせるためではない。
「直美、彼を信じよう」
「あなた!? 何を言っているの!?」
雄剣は佐伯ヶ原の強い意志を放つ瞳を信じる事にしたのだ。
「直美。生き残るために、あの妖魔を僕たちで倒すための作戦だ。ルカ以外の妖魔を引き寄せる。佐伯ヶ原君を守るためでもある。彼の作戦に従おう……!」
「……わかったわ。佐伯ヶ原君必ず生き残るのよ。待っているから!」
「後で追いつきます!」
「必ず無事で!」
「はい……!」
「さぁ! 妖魔の群れよ! こっちへ来い!」
雄剣は妖魔を誘う誘魔結晶を使い、直美を庇いながら走りだす。
それを見た妖魔達が一斉に二人を追いかけだした。
結界の護符を発動した佐伯ヶ原は妖魔に噛まれる事なく、ルカと対峙した。
そんな佐伯ヶ原を見て、ルカが吹き出す。
「はっはっは! 武器も持っていない君がどうやって僕と闘うの? まさか絵筆ででも闘うのかい? ひっひっひっ」
「うるせえ餓鬼だ。煽りしかできねぇ能無しが」
佐伯ヶ原の言葉が、明らかにルカを苛つかせた。
「じゃあさっさと君の足を斬り落として、紅夜様の結婚式に姫様を連れて行くよぉ!」
「さっきからてめぇはよぉ! 結婚式結婚式ふざけんじゃねぇぞ!!」
佐伯ヶ原が腰に差していた短刀を右手に構えた。
弱く、淡く光っている。
「明橙夜明集? でも同化もしてないナマクラ刀なんか、僕には通用しないよ! バーカバーカ! 姫様は紅夜様のお嫁さんなんだよ!」
少し静かになった廊下に、ルカの声が響き渡る。
共鳴するかのように、内臓の壁が波打った。
「……ざけんなよ……」
沸々と湧き上がる怒り。
下を向いた佐伯ヶ原の周りが怒りのオーラで揺れている。
そして目を見開き、ギリィッ! と憤怒の顔を見せた。
「……ふざけんじゃねぇぞぉおおおおおおおおおおおおおお!! 小猿はなぁ! 小猿はなぁああああああああああ!! サラのお嫁さんになるに、決まってんだろうがぁああああ!」
短刀に左手も添える。
一気に膨れ上がる力――!
「ん、お前何を!?」
「継承同化! 明橙夜明集・恋・蓮・花!!」
「まっまさか……!!」
目も眩むような光が佐伯ヶ原を包んだ――!!




