椿VS闘真~審判の炎~
ロッサによって拘束された椿に闘真が近付く。
じぃ……っと椿を見つめている。
その顔は青白い。
「嘘ですよね? 姫様……穢れてなんかいないですよね」
「ぐっ……あなたには、闘真には関係ない!」
「……嘘だ」
ロッサの触手によって両手両足が広げられて、右手の緋那鳥が落とされてしまう。
あられもなく広がった両足を闘真が見つめた。
「いやっ……! 何するの!?」
はだけそうになったドレスの胸元を見ても、闘真にいつもの照れはない。
ネックレスには気付いていないようで、それは安堵したが……。
あらわになった太ももへ、闘真は触れようと手を伸ばす。
「やめてっ!」
椿は嫌悪で暴れだす。
「……っ! 俺はっ……」
その手は躊躇して止まり、触れられはしなかった。
「こ……このまま紅夜様の元へ行きましょう。姫様の純潔を確かめてもらうんだ! うん、それがいいですよね。……俺が確かめるわけにはいかないですから……うん、紅夜様にお任せだ!」
吹っ切ったような笑顔の闘真。
そしてゾッとする提案。
「やめて! 私は麗音愛のものなんだから! 身も心も全部麗音愛のもの!! 純潔なんかじゃないもん!」
更に顔を真っ赤にして椿は叫んだ。
実際に純潔は守られているが、それでも椿にとって麗音愛しか考えられないのは事実。
闘真を前にして言わずにはいわれない。
「私は麗音愛のもの! 紅夜なんか大嫌いだよ! 永遠に大嫌い!」
「姫様ぁあああ!」
闘真は何をしようとしたのだろうか、絶望で椿をロッサで締めようとしたのか。
それとも頬でも打つつもりだったのか。
血の刃で刺すつもりだったのか。
明らかな怒気だった。
しかし椿にも、そんな怒りなどどうでもいい。
むしろ、こちらが怒鳴りつけたい!
「うるさい! お願い緋那鳥! 羽ばたいてーー!」
椿の叫びを聞いて、闘真が右手に血の刃を持った瞬間――。
床に落ちていた緋那鳥が燃え上がり、綺麗な金属音の鳴き声と火の粉を舞い散らして闘真へ突撃した!
白い鍔を身に着けて覚醒してからより一層、緋那鳥と……明橙夜明集達との絆が濃くなったようだ。
その椿の呼び声に、緋那鳥は完璧に答えたのだ。
血の刃を手に取った闘真の斬撃すら避け、緋那鳥の斬撃は一瞬で決まった!
「ぐあっ!?」
闘真の喉元を緋那鳥が貫き、胸元を切り裂いて翻り椿の右手に戻る。
闘真の危機を察知したのか、ロッサは拘束をゆるめ椿は解放されて着地した。
椿はすぐに闘真へ攻撃を続けようと、緋那鳥を構えたが……。
「あっ!?」
倒れ込んだ闘真をロッサが守るように触手でとぐろを巻いていた。
「……ロッ……サ……お……まえ……邪魔だ……」
動脈を切って大量に出血し、喉がつぶれたのか掠れた声で闘真がロッサの名を呼ぶとロッサは更に結界のように闘真を守る花籠を創り出していく。
「ロッサ……あなたは……闘真のことを……」
椿を威嚇するように揺れるロッサの大きな薔薇の花。
中心には牙が生え、細かく揺れている。
それはまるで、動物が飼い主への愛で必死に守っているように見えた。
……まさか妖魔に心が……? と椿は思う。
「……ひ、ひめさま……」
倒れ込んだまま、椿を見上げる闘真。
彼の手にはまた血の刃が集まる。
しかしロッサは花籠を解こうとはしない。
「……闘真、私はあなたも紅夜も大嫌い。心配しなくてもこれから紅夜に会いに行く。滅ぼしに行くから……貴方も紅夜の元へ来ればいい。滅びの時をその目で見たらいいよ……」
闘真にとっての残酷な真実。
それでもどうしたってこの紅夜への想いの違いを一つにすることはできない。
ただ、この目の前で主人を守る妖魔の愛を感じて椿はロッサを焼いて滅ぼすことができなくなってしまった。
「あなたが薔薇やロッサを愛しているように、ロッサもあなたをとっても大事に想ってるってわかった……」
「……愛……? ……こ、紅夜様こそ……姫様を愛してるんですよ……? ぐぅ……」
「違うの……あんなの愛じゃない! 私の嫌がる事をして、いつも笑ってる! 愛って……泣かせたり傷つけたり玩具にする事じゃない、大切に想って守りたいっていう気持ちだよ」
それを麗音愛が教えてくれた。
みんなが教えてくれた。
母様も教えてくれた……。
沢山の愛の思い出がある。
戻りたい場所を想って椿の瞳が潤んだ。
椿の周りに桃色の火が浮かぶ。
「……大事に……守る……?」
「桃色の炎がロッサを焼かなかったのは、ロッサには優しい心がある事がわかったからかもしれない。さっきも私のために棘を引っ込めてくれた……あなたの事も、守ろうとしている……闘真ももっと大切な事を見て!」
「……どういう……事か……ぐふっ……わからないです……」
倒れた闘真の身体からは出血がひどくなり、ロッサがどんどん絡まっていく。
血を止めようとしているのか……。
闘真の回復力がどの程度なのか、わからない。
このまま、また戦闘になる可能性は大いにある。
「薔薇をあんなに綺麗に育てて、ロッサにこんなに想われているあなたなら……きっとわかるよ……」
毎回、迷惑だった薔薇の花束。
それでも、咲き誇る薔薇はとても美しく乱暴に苗木を扱っていては絶対に咲かない美しさだとわかった。
闘真がこんな思考になってしまったのは、紅夜会、紅夜のせいなのかもしれない。
必死に闘真を守ろうと蠢くロッサを、椿は見つめる。
「今、あなたを殺しはしない……あなたにも、もしも紅夜に操られてしまった心があるのならば解放してあげたい……」
「姫様、やめて……ください……」
「燃えて炎……愛が、あなたにもあるなら……炎はあなたを許し解放してくれるはず……!」
「……ひめ……さま……」
闘真を包んだロッサの花を、花籠ごと、椿は桃色の炎で包んだ。
この桃色の炎は、どう裁きを下すのか……。
「闘真、私はあなたの想う姫じゃない……ごめんね」
「ひ……め……さま……」
ロッサも闘真も燃え上がり闘真の叫び声が聞こえたが、椿は炎を背にその場所を去っていく。
摩美のもとへ行かなければと……まだ治らぬ傷から溢れる血を押さえながら紅夜城の廊下を進んだ。




