あの日、想う
咲楽紫千兄弟の周りに人が集まってきた。
麗音愛に駆け寄る少女。
「玲央先輩! もちろん私も行きます。絶対的な戦力になりますからご同行させてください」
「加正寺さん……」
「先輩! お願いします」
「いや、俺のほうこそ」
「嬉しい……!!」
琴音の闘気がギラついている。
殺気とも言えるかもしれない。
今までの彼女を考えれば、止める事などできないだろう。
その視線の先にいるのは絡繰門雪春か。
「僕も行きます」
「海里さんも……?」
朔海里も強い意志が見える。
「おいおい、海里。お前は七当主だし、こっちで……」
剣一の言葉も聞かぬように首を横に振る。
「これから、七当主としてやっていくために……この試練が必要なんです。椿さんを取り戻す戦力に少しでもなれると思います」
「うふふ海里さん、頑張ってさっきの退散を上書きする成果をあげてくださいね。助けてはあげられませんよ?」
「わかってるさ」
琴音の微笑みに、海里は真剣な眼差しで答える。
彼にとってはこれが死線で、当然の反応だ。
皆の間を冷たい風が抜けて沈黙になる。
「サラ、俺も行きます」
それを打ち破った声。
「佐伯ヶ原!? だって、お前……」
非戦闘員を貫いていた佐伯ヶ原からの意外な申し出に麗音愛は驚く。
「子猿をさっさと呼び戻さないと絵の締切に間に合わないんで、行きます」
「でも……」
「あのでかいカンバスをさっさと描き終えたいんです」
佐伯ヶ原のアトリエにある、大きなカンバス。
その存在は麗音愛も知っていた。
「……わかった」
母に続き、琴音に海里に佐伯ヶ原。
もう誰も止めても聞かない目をしている。
「俺も、佐伯ヶ原と一緒で力になれないかもしれないけど摩美ちゃんを迎えに行くよ!」
ある意味、空気を読まずに西野が拳をあげて叫んだ。
「てめ西野……お前みたいな役立たずと一緒にすんじゃねーよ」
「えぇ! 佐伯ヶ原だって非戦闘員だって……」
「ざけんなよ~一緒にすんな一般人!」
紅夜城へ行く前だというのに、死ぬ気の人間は一人もいない。
「人数は少ないけれど、紅夜城へ行くことを団員に強要はできないの……だからこれだけの人数よ」
申し訳なさそうに団長の直美が言った。
「俺一人で行くつもりだったんだ。心強いよ」
全員無事で帰ってきたい。
だがこの先、どんな場所でどんな敵が出てくるかもわからない。
ラスボスはあの紅夜だ。
ナイトの人数を考えただけでも圧倒的に人数は少ない。
それでも言葉通りの心強さを感じる。
「俺も行かないと思ってたのかよ。ひどいな」
「もちろん、兄さんは来ると思ってた」
「ふふっだろうな」
「おぉおおい~~! お~~い!! ロリコン部長~~!! ロ~リ~コォ~~ン!!」
遠くから聞こえる声にがっくりする剣一。
爽子がちょこまかと走りやってくる。
団服の上に着た白衣がずり落ちて、それを戻しながら額の汗を拭いている。
「爽子、俺はロリコンではない!」
剣一は、父の雄剣から『お前、父さんをロリコン呼ばわりしたくせに自分がロリコンか』と言われた事が少々気になっていた。
少し笑いをこらえる麗音愛。
「なんだい気が付けば当然のように爽子呼びはやめてくれたまえよ! 私は20歳オーバーだぞっ! 童顔美少女だがロリではないっっ」
「わかってるっての! ……俺より年上のくせに……どうかした?」
「もちろん私も紅夜城に行くぞ!」
「おいおい! 愛天使シャワラン攻撃力ゼロだろ……」
剣一が焦り呆れた顔をする。
「上司である君が守ってくれたまえよ! 紅夜の城だぞ!! めっちゃむっちゃしこたま興味ある!」
爽子は鼻息をフンフン! と荒くする。
まさか実況放送とかするつもりでは……と皆が思う。
「謙虚さゼロだなぁ……」
「いーじゃんいーじゃん、あんた最強チートなんだからさぁ~! お願い〜フェロモ〜〜ン!!」
泣き喚きながら願うという複雑な動きをする爽子。
「未来型ロボット相手みたいに言うなよ! はぁ~……今後のためのデータ管理とゲート準備手伝ってくれよ」
「やったぜ最高ロリフェロ部長!! 皆に報告だ!」
「あ! 夜明けの騎士団にまた戻りやがったな!」
「ふっふっふ愛天使シャワラン! 魂までは売らんのだ! じゃあ用意するべし~~!」
またカサカサと走り去る爽子。
大きく溜息ついた剣一だったが、今回の動画拡散の協力も『夜明けの騎士団』が活躍したと知っているのでどうにでもなれ~というポーズをとった。
そしてすぐにゲートを作る準備が進められる。
呪符や魔法陣などの準備が進むなか、槍鏡翠湖を持った美子が校庭でデッサンをしている佐伯ヶ原に近づいた。
「ちょっと、あなたが城に行くなんて聞いてなかったよ……」
「言う必要ねーだろ」
「……ばか……絶対帰ってきなさいよ」
「……あぁ……」
「帰ってきたら……話があるから」
二人も紅い月を見上げて、お互いの顔は見ない。
「ふっ……おまえ、やっぱり俺に惚れてんな?」
「だ、だれがよ!!」
美子がブンブンと振った槍鏡翠湖を佐伯ヶ原が避けて『あぶねー!』『ごめん! だって!』と言い合いになる。
そして二人で缶コーヒーを飲んだ。
二人でコーヒーを飲むのはこれで何度目だ? と二人で心の中で思う。
「サラと子猿と、帰ってくるに決まってんだろ。お前のゲート信じてるからな」
「うん……頑張るよ」
二人はお互いを見て、少し微笑んだ。
夜明けの時間に突入が決まる。
麗音愛は屋上のフェンスの上に立って街を眺めていた。
あの死闘を思い出す。
いつもの街並み。
今も青い光が薄く輝いているのが見える。
これはイミテーションではない。
自分達の世界。
守らなければいけない世界。
紅夜を倒して椿を取り戻し、平和を取り戻す。
負けるわけにはいかない。
校庭での準備の終わりが見える。
右手に晒首千ノ刀を出現させ六階の屋上から飛び降りた。
黒い呪怨をまといながら、皆の待つ場所へ降り立つ。
もう戻れない。あとは、ただ約束を果たすだけ。
必ず、君を取り戻す――。




