決戦の前に
少し眠った麗音愛が慌てて起きるが、もちろん責める者はいない。
驚いて飛び跳ねたマナに謝って、しばらく撫で続けていたが龍之介や梨里の姿はなかった。
医療班の医者に、もう少し休んだほうがいいのではと言われたが麗音愛は断る。
「にゃあ」
「じいちゃんのとこ行こうかマナ」
なんだか不思議にマナの声がわかるようで抱いて歩いていたら剣五郎が休んでいる教室に着いた。
おかげで眠ることができたと、最後にまた沢山撫でる。
「マナ……じいちゃんと一緒に待っててくれな」
「にゃあ」
「じゃあ、じいちゃん。留守を頼むね」
「……玲央……」
当然に心配そうな祖父の顔。
「死にに行くわけじゃないから。紅夜を倒して椿と一緒に帰ってくるよ」
「あぁ……ああ……必ず帰ってくるんじゃよ……」
「うん」
必死に涙をこらえる剣五郎の肩を撫で、剣五郎が抱くマナも撫でる。
祖父が随分小さく感じる……いや、自分が成長したのかな、とも思う。
剣五郎と別れた麗音愛が校庭を覗くと剣一を中心に群がる人の姿が見えたので駆け寄った。
傍にいた美子も団服でポニーテールに髪を結んだ姿で振り返った。
「美子……?」
「玲央。起きたのね」
「それは……」
美子が握っていたのは、槍鏡翠湖。
紅夜城へ行く術はあると剣一から聞いてはいたが……。
「これは俺が椿ちゃんから預かった。槍鏡翠湖は紅夜城へ繋がる道を創れる武器だ」
まさか槍鏡翠湖まで同化させて持っていたとは……驚かされた兄弟対決を思いだす。
ふと、椿の血で蘇ったなら自分と血の繋がった兄弟になったのか? と思う麗音愛。
「でもこれ美子が槍鏡翠湖を使うの?」
「あぁ。ゲートを開けられるのは、よっちゃんしかいない」
確かに今、剣一以外で白夜団で槍鏡翠湖を扱えるのは美子だけだ。
同化剥がしをしたとしても、拒絶はしていない。
むしろ共鳴しているように見えた。
「美子、大丈夫?」
「大丈夫。私も望んだ事なの。無力で情けなくて……何もできないって思ってたから、私は力になれて嬉しいのよ」
怖がる顔ではなく、綺麗な彼女が凛々しく笑う。
槍鏡翠湖の刃先もキラリと輝いた。
ゲート作りのサポートに七当主の二人、恩心月太狼と滑渡拓巳がつくとのことだった。
「ゲート作りのサポートはいても、このポジションはすごく危険じゃないのか」
紅夜城と繋がったゲートからは妖魔も無数に出てくるだろう。
そうなれば浄化系最強武器の槍鏡翠湖は一番先に狙われるのではないか。
「俺らに任せろよ」
「龍之介」
「城に着いて行きたかったけどよ。お前達が帰ってくるためのゲートでもあるって言われてよ」
確かに、紅夜を倒しても帰り道がなければどうにもならない。
「あぁ、お前が守ってくれるなら安心だ」
街であれだけ闘っても、バテてもいない龍之介。
結界術も頼りになる。
あれだけ敵対していたのに、今ではいい仲間だ。
「あたしも頑張るしぃ~」
「鹿義も二人とも、頼りにしてる」
梨里も少しは疲れた顔をしているが、動画に寄せられた応援がやばいと笑う。
「姫と絶対帰ってきてよね」
「紅夜をギッタギタにしてこいよ!」
「もちろんだ!」
男同士、拳を合わせた。
武十見達も戻り次第、援護に来てくれるという。
「玲央ぴ、もうブレないし~動画撮ってあげるよー? それとも写真?」
「えっいいよ。やめろよっ」
「呪いが解けても、こいつの根性変わんねーからしゃーねーわ」
「なんだよ、写真は苦手なんだって~」
逃げようとする麗音愛の首に腕をまわして梨里に写真を撮ってもらう龍之介。
ブレてない写真を見て笑う梨里。
そんな麗音愛達を優しい目で見守る剣一。
「ほんじゃあ、城へ行くのは玲央と俺か」
「私も行くわよ」
「「母さん!?」」
白夜団のパンツスーツにブーツに着替えた直美は帯刀し拳銃まで装備している。
「何言ってんだよ! 危なすぎるだろ」
「そうだよ」
「迎えに行かなきゃいけない子がいるわ。それにあなた達の母としても白夜団団長としても一緒に行くのは当然よ……!」
「まじかよ」
「母さん本気なの?」
「えぇ。それに剣一から篝が蘇った事も聞いたのよ。会いたいの」
麗音愛も篝がいる事は剣一から聞いていた。
直美にとって大切な存在なのはわかっている。
直美の横にはもちろん雄剣も帯刀して立っていた。
「父さんも……?」
「それは当然だよ。母さんは父さんが守る」
静かな気迫が父を包んでいる。
「咲楽紫千家、総出かよ」
「ほんと、すごい家族だ」
「あなた達兄弟の親ですからね」
「みんな破天荒で父さんは困るよ。必ずみんなで帰ろう」
父の苦労が伺える。
これ以上止めても無駄だろう。
兄弟は顔を見合わせ、笑った。




