少女達:真実を告げる少女・闘う少女
椿が覚醒する前、雪春は篝を連れて城の外。
無機質に階段が連なる広場へ来ていた。
紅い空はより不気味に色濃くなっている。
二人の影が長く長く伸びていた。
「……静かね」
「ここならば、誰にも聞かれることはないでしょう」
「あなたのお兄さんの春雪さん……」
「はい」
篝の黒髪が、雪春の高く結んだ長髪が風に揺れる。
「私のあとに亡くなったのよね」
「はい……あなたの死を悲観して……自死を」
「……彼は私の手助けをしてくれたの」
「手助け……?」
「私の命でかけた麗音愛を守る術を彼が更に補強をしてくれたようなの」
「……兄が……死んだのは、そのため……?」
さすがに少し驚愕した顔の雪春。
「この姿で蘇り麗音愛の術を俯瞰して見て……そして先程の解術ではっきりとわかった」
「兄の……魂が関与していたと……」
「そう」
「まさか……そんな事になっていたとは……」
ふと、雪春は紅い空を見つめる。
だが、何も感じることはできない。
妖魔と闘う術があるからといって誰もが魂や霊に干渉できるというわけではないのだ。
「私の術の不完全さがあったとしたのなら、彼には本当に申し訳ないことをしたわ……でも、彼のおかげで麗音愛を今まで守り抜くことができたと感謝しています」
祖母である焔の術は老年であったとはいえ、五年しかもたなかった。
それを十年以上、完璧に守り抜けたのは篝の力と春雪の補佐のおかげだった……?
「でも、貴方達家族には申し訳ないことをしたと……」
「いいえ、貴女が詫びる必要などありません……兄が自分で選んだ道なのですから」
「……生前彼を助けた時に、彼は命を私に捧げると言った……けど、私は自分のために生きてくださいと伝えたわ……」
篝が無関係の絡繰門春雪に協力を求めるなど、思うわけがない。
「どうして、兄は麗音愛君の存在を知っていたんですか……? 貴女が伝えたわけではないですよね……」
「麗音愛の存在は私の母と咲楽紫千家のみの極秘。……彼にはもちろん伝えていなかった。あの術のなかで話ができるわけではないし結果的に助けてもらったという事がわかっただけなの。本意は彼にしかわからないわ……」
篝にとっても結果的には術の修復をしてもらった事は感謝しているが、麗音愛の存在を知り術を真似できた事は何故としか思えない。
「……はは……」
雪春が静かに笑う。
なんという狂気なのか。
父と同じように、一人の女に恋い焦がれ執着し紅夜すら騙す極秘を調べ上げ……誰にも悟られないまま術の補佐のために死んだ。
愛しい女の産んだ妖魔王の息子を守るために死んだ。
いや、篝の術に補佐など必要あったのか?
そんな必要はなかったのではないのか。
自己満足の狂気。
一方的な自分のためだけの愛。
結局、自死と変わらない。
「はは……ははは……」
「雪春さん……」
「ははは……父も兄も……そして僕も……絡繰門家は貴女の呪いにかかっている」
篝に囚われた父、兄。
一方的な愛。
家族よりも子供よりも兄弟よりも、一人の女に恋い焦がれた愚かな男達。
不気味な愛に溺れた愚か者ども……。
「……貴方は、お兄さんの事で白夜団を裏切る道を選んだの……?」
「……どうなんでしょうか」
一番強い、風が吹く。
「……ただ、貴女に会って確かめたかっただけかもしれません……」
それはどういう意味なのか、微笑みなのか哀しさなのか虚しさなのか……わからない表情だった。
篝がどう声をかけるべきか迷った時、城で爆発音が聞こえたのだった。
「……椿の部屋っ!?」
椿の部屋と思われる窓に複数の妖魔が突っ込んでいる。
そして白い無機質だった壁が、グニョグニョと動く巨大な肉塊の城へと変化していく。
「コノ謀反者の反抗期の姫を、私が躾直しましょう~~!! 城の妖魔達ヨ、コノ謀反者を攻撃せよ!」
椿を目の前にして、妖魔化していくコーディネーターが叫ぶ。
「姫様になんてこと!」
「いいの! 私にとっては最初から敵! わかりやすくてこっちの方がいいよ!」
椿は緋那鳥を床に刺すと、胸元に仕舞ったネックレスを首にかける。
大切なものが輝いた。
麗音愛にもらったもの全てが宝物であり、強さになる!
「生意気な小娘めぇええ!」
コーディネーターも毒霧のようなものを吐き出したが、椿の桃色の炎が遮断し逆にコーディネーターに向かって燃え上がる。
「ギャアアア!」
「すごい……!」
摩美が声をあげたが、突然に窓が割られ数匹の妖魔が壁にぶつかりながら飛び込んできた。
爆音とともに、少女達を標的とした妖魔が出現しだす。
「姫様……! 私が投降すれば姫様だけでも無事で……」
「こんな状況になったって、あいつは笑って面白がっているだけだよ!」
紅夜は玉座できっと、この状況を笑っているに違いない。
紅い夜が、紅夜が妖魔化した人間を吸収する事態であれば全力で止めなければならない。
「姫様……ならば私が命をかけてお守りします!」
「椿でいいの!」
「えっ?」
「椿だよ、摩美ちゃん。私達は友達同士! 一緒に紅夜と闘って、勝って、彼氏のところへ帰ろう!」
二人を包む桃色の炎のなかで、椿は摩美に振り向いて微笑んだ。
こんな状況なのに『彼氏』という時だけ恥ずかしそうなのが椿らしい。
「わかった椿ちゃん!」
二人は背中を合わせ、妖魔に向かって剣を向けた。
「「絶対負けない!!」」




