少女達:去る少女来る少女
ヴィフォと雪春に連れられて部屋に戻った椿と篝。
「コーディネーターより拘束の命が出ておりますので、お二人には手枷を付けさせて頂きます」
篝が文句を言ったが、ヴィフォは動じることなく二人に手枷を付けた。
「あの……摩美ちゃんに会わせてほしいの」
「姫様、それはできません」
「少しお話がしたいだけだから……!」
「摩美に謀反の疑いでもかけられれば、摩美は処分されてしまいます。私はそれを望みません……どうか姫様、ご理解ください」
ヴィフォが頭を下げる。
それは彼女の摩美を想う気持ちだと椿にも理解できた。
紅夜会の者など罵って憎みたいのに、この彼女がたまに見せる『人間らしさ』が椿にとっては辛かった。
「……わかりました……」
ヴィフォは一礼して去っていったが、雪春はソファに座っている二人を見つめながらドアの前で立っている。
これから自分は何をすればいいのだろう、そればかり考える。
麗音愛は覚醒し、剣一を救ってくれた。
今もきっと闘っている。
自分に何ができるだろうか……。
「椿」
篝が椿の長い髪を撫でながら、そっと口を開いた。
「はい……」
「絡繰門雪春に話があるから、私は此処を離れるわ」
「か、母様」
「すぐ戻るわ、このタイミングをきっと彼女は逃さずに来てくれるはず」
彼女とは一体……?
雪春が見ている前では言葉少なく話すしかない。
もしかして摩美の事だろうか。
「彼女が……」
「彼女を、貴女を信じているわ……全て運命のままに……」
手枷をつけた手を握られ、椿も握り返す。
「さぁ身体を冷やさないで、私の可愛い娘」
ずっと肩を出したチューブトップの白いドレスを着せられている椿に、篝は椅子にかけてあった自分の赤い羽織を着せる。
「この赤は紅夜会の赤じゃない……紅夜をも燃やす桃純家の赤色よ」
「母様の羽織……私、母様の羽織をずっとボロボロになっても持っています」
あのボロボロの羽織で身を隠し、麗音愛と出逢った。
母への想いで苦しんだ時もあったが、それからは羽織よりも温かい麗音愛の腕に守られてきた。
今また母に着せられた羽織が、温かい。
「椿……貴女にも幸せになってほしいの」
「母様……」
「貴女には、名前をプレゼントできなくてごめんね。でも素敵な名前を自分で選んでくれた……椿」
「母様に呼んでもらえて嬉しいです」
「私の椿……可愛い私の宝物よ」
幼女姿の母は、にっこりと微笑み椿の頭を撫でる。
麗音愛とは違う、母の愛情。
そして毅然として立ち上がり、篝は雪春の元へ歩いていく。
まるで幼子に戻ったように、母に行かないでと言いたくなる気持ちを抑えた椿だった。
「絡繰門雪春さん、貴方のお兄さんの事でお話があります」
「……篝様」
「大事なお話よ、場所を変えましょう。二人だけで話がしたいわ。貴方も私と話がしたかったはずよ……」
「はい」
驚いた事に、雪春は反論もせずに篝と二人で部屋を出て行った。
急に一人になってしまった椿は、手枷が外せはしないか炎は出せないか色々と試してみる。
しかし手枷は今まで以上に強力なのか、火花すら出ず力は何も出せない。
その時、静かにベランダに面したガラスの扉が開いた。
「姫様」
紅い軍服は脱ぎ、目立たぬように城と同じような白い布をかぶった摩美だった。
「ま、摩美ちゃん」
驚きで叫びそうになるのを椿は堪えて、摩美の元へ駆け寄る。
そして、すぐにバスルームへと腕をひいて連れて行く。
雪春が戻ってきてもバスルームなら少しの時間を誤魔化すことができるだろう。
「摩美ちゃん……どうして……紅夜会に……あの手紙を紅夜へ届けるために戻ってきたの?」
「いいえ、私の命は椿姫様のものだと思っております」
摩美はまっすぐに椿を見つめる。
それは紅夜会に戻ってきたという意味ではない。
『寵』ではなく『椿』への忠義だ。
「あの母様の手紙を読んでほしかったの? それともあのブローチが……」
「いいえ……姫様に、これを届けに戻ったんです」
「これ……?」
摩美が自分のワイシャツのボタンを外すと、胸元から小さな光が溢れ出した。




