少女達:恐い少女達
校庭では琴音と紗妃の斬り合いが続いていた。
現在、学園が白夜団本部のような状況になっているため圧倒的に紅夜会二人の方が不利なのはカリンも理解できる。
「もう~! 私、先に帰りたいのにぃ……」
カリンが不満を漏らすが、一応は自分への増援として来た紗妃を置いて帰るわけにもいかない。
「これ全部バカ剣一のせい! 妖魔いっぱい出てこい~! みんな殺しちゃえ!!」
転移結界で数体ずつだが妖魔を召喚する。
「ヨシ! 此処で高みの見物しよ……」
結局カリンは校舎より上空で妖魔に座って、怖い女子二人の斬り合いを頬杖をついて見ることにしたのだった。
「紗妃がんば……きゃー!?」
カリンの頬を琴音の骨研丸がかすめる。
「上で、見物してんじゃないわよぉ!?」
「こわぁい……!」
紅色のヘッドドレスは千切れてどこかへ飛んで行ってしまった。
「お前も余所見してるんじゃねぇよ!」
紗妃の華織月が琴音を襲うが、琴音は身を翻し避ける。
「貴女こそ、いい加減にしなさいよ! 化け物はもう死になさい!」
「私達は人間が進化した姿なんだ! 紅夜様の新世界には進化した人間だけが生きられる!」
逃げ惑うなかには、紅夜の声を聞いて紅夜会に助けを求める者もいるようだった。
「そんな世界は誰も望んでいないんですけど!? あんた達は脳みそは退化してるみたいねっ!」
「てめぇは切り刻むっ! 全部殺してやる!」
ますます怒りが満ちた目になり、紗妃の槍裁きは鋭くなる。
カリンはそれに加勢しようと、妖魔を数体琴音に向かって放った。
しかし、放たれた妖魔は護符と剣撃によって次々に破壊、浄化される。
まるで美しい水しぶきに虹がかかったような剣技だ。
「海里さん……!」
「加勢に来たよ!」
控えていた海里が加勢に来たのだった。
紗妃に睨まれ、海里は苦笑し少し後ずさる。
「琴音ちゃんは、どうして敵をこんなに怒らせちゃうんだろうね」
「別にわざとじゃありませんよ。それにしても……私のところに来てくれたんですね?」
「まぁ……もうコンビみたいなもんでしょう?」
海里が微笑むと、琴音も笑った。
「ふふん……もしかして私に乗り換えですか?」
「振られっぱなしコンビって意味だよ」
「へぇ、言うようになりましたねぇ」
カリンが次々に出す妖魔を海里は滅し浄化する。
度重なる戦闘で海里の剣も術も格段に上達していた。
「うざい奴らだ! さっさと始末して、校舎にいる奴らも皆殺しだ!」
「あんたも白夜団の端くれなんでしょう? 明橙夜明集を使っておいてよく言うわ!」
「これは、白夜と白夜団への戒めだ! 明橙夜明集を使って人間を殺すのさ!」
「結局すがってるだけじゃない! 惨めだわ」
「黙れ! 腐りきった七当主のガキに何がわかる!」
激しい攻防が続く二人。
カリンが海里に標的を決めて、更に妖魔を送り込む。
「男に攻撃ぃ! 男なんかみんな死ね!」
「うわ!」
少しバランスを崩し、転ぶ海里だったが、すぐに体勢を立て直した。
すると妖魔の死骸の下に術具が置かれているのに気付く。
土に掘られた歪な魔法陣。
紗妃は、琴音と闘いながら六芒星になるように術具を仕込んでいたのだ。
「まずい! 琴音ちゃん!」
「なんです!?」
「はははは! 呪殺魔法陣・黒怨呪……!」
ナイター照明が破裂したように壊れ、ノイズが走ったように校舎や近隣の電気がチカチカと揺れる。
校庭の地面は真っ黒の闇になり、黒い霧が発生する。
「これは禁断の呪法……! 剣一部長が言ってた……!」
海里が叫ぶ。
琴音の元に来る前、剣一に言われた紗妃の呪術。
しかし準備が必要な魔法陣を、またこの場で使うとは思わなかった。
この甘さが自分の未熟さかと海里は痛感する。
「はーっはっはっ! 生ぬるい人間どもよ! この暗闇に引きずり込んでみんな殺してやる!」
真っ黒な地面がぬかるみ、琴音と海里の足が沈む。
黒い霧は毒霧。
椿との戦闘の時に使った時より更に威力が増している。
宿目七がこの魔法陣の危険度をすぐに察知し校舎を包んだのか、淡い光が見えた。
「こ、琴音ちゃん……! ここは一旦僕達も退避を……! ぐっ」
この一帯は一般市民の避難を最初にさせた地域なので、毒霧が飛散しても市民への被害はないだろう。
しかし魔法陣の中にいる人間には被害は確実だと海里は思った。
すぐに水属性の結界を張ったが、すぐに黒く濁っていく。
逃げられない――埋まっていく!
「琴音ちゃん! 逃げるんだ!」
底なし沼のように埋まり、グツグツと黒い穢れに海里は吐き気を催しながら琴音に叫ぶ。
「あらぁ……随分心地いい事してくれたわねぇ……ふふふ」
焦り叫んだ海里への返事は、まるで可愛い小動物を見た少女の歓喜のようだった。
カリンに投げつけて遠くへ飛んだままになっていた骨研丸が、瞬時に吸い込まれるように琴音の手に戻る。
黄蝶露は黄色い鱗粉のような……骨研丸は白い骨粉のような……そんな気の流れが目視できた。
紗妃の華織月も鳴くように三日月の刃を震わせているが、紗妃は驚いたように琴音を見る。
「心地いいだと……?」
「黄蝶露も骨研丸もこんなに喜んでるわぁ!」
「お前……!?」
「私はね、清らかなふりした汚い女なんかじゃないの……自分を穢してでも……愛する人の力になる……」
「殺せ! あの女を殺せ!」
激しく叫んだ紗妃の言葉。
呪殺の魔法陣から琴音に向かって触手が伸びたが琴音は逃げない。
琴音の団服がはだけて、中のワイシャツから胸元の傷が見えた。
「人間の穢れこそ、愛であり強さよねぇ!? 自分を犠牲にしてでも愛を守るのが聖女なのよぉ!」
二本のサーベルを構える琴音。
埋もれていく下半身にも何も気にせず、喜びの笑顔を見せる。
それはまるで狂気のような――。
それを見て、紗妃は唇を噛む。
「お前の言ってる事なんか支離滅裂で意味がわかんねぇんだよ! 愛なんかこの世に……ありはしない!」
紗妃にとって、この恵まれた七当主の娘は激しい憎悪の対象だ。
愛だの正義も全て敵だ!
ぶち壊すぶち壊すぶち壊す!
琴音など見えていなかった――その先にいるのは、あの輝く笑顔の愛される女。
全部、ぶち壊す!!
噛んだ唇から血が滲み、紗妃も華織月を構えた。




