兄弟死闘篇:金剛障壁守護解除
「紫の炎……!?」
頬を殴られた剣一と一緒に麗音愛も勢いで転がる。
麗音愛の叫びと共に燃え上がった紫の炎が二人を包んでいる。
「これは……椿? ……違う……まさか俺の炎!?」
何度も椿の傍で見てきた炎。
それがまさか自分から発生しているのか――信じられない。
炎は熱くなく、寧ろ心地よい。
剣一の浄化で溶かされた部位が治っていくのがわかる。
しかし、剣一は頭を押さえ叫び声を上げた。
「うぁああああああ!」
「兄さん! この炎は治癒の力のはず……どうして……鎮まってくれ! 炎!」
麗音愛が叫んだが、腕を剣一に掴まれる。
「玲央……! ぐ……」
剣一の右目が、いつもの色に戻っていた。
その目には強い光が輝いている。
「兄さん!」
「炎を消すな……俺を縛る紅夜の糸を燃やし尽くせ……玲央」
麗音愛の強い想いが通じたのか、今の兄は確かに咲楽紫千剣一だ!
「! わかった……!」
麗音愛が念じると、紫の炎はより強く燃え上がりやがて輝くような白い炎になる。
苦痛に歪む剣一の顔を見ていると不安になるが、もうこれに賭けるしかない。
「燃えろ……俺の炎……!」
◇◇◇
「あれは紫の炎……!?」
水鏡に映った紫の炎に包まれる麗音愛と剣一を見て驚く椿。
「何故だ……何故あいつが、桃純の炎を操れる?」
紅夜が目を見開き、そしてナイト達も驚愕の声を出した。
「あっはっはっは! やったわね麗音愛!!」
その中で一人、篝がガッツポーズをして喜ぶ。
「……なんだと……?」
「母様! あの炎は……!?」
「椿、紫の炎はね舞意杖がないと絶対に生み出せないものではないの。それでも私でも、今の貴女でも難しい。でも麗音愛ならきっとできると信じていた!」
「じゃあ、あれは本当に麗音愛の炎……!」
「そうよ! あの子の力! 麗音愛! 紅夜の糸など焼き尽くせ!!」
玉座の間に篝の声が響く。
コーディネーターが篝の拘束を強くするが、篝は何も動じない。
「麗音愛……麗音愛! 頑張って! 剣一さんを解放して!」
椿も届かなくても麗音愛に向かって叫ぶ。
「きゃっ!?」
麗音愛の応援をした椿の腕をとり、紅夜は胸元に抱き寄せる。
怯える椿の頬に舌を這わせながら、そのまま篝に向き直す。
「篝、あいつは何故、桃純家の炎を操れる……?」
「……それは私の息子だからよ……」
篝の発言に、皆が息を飲む。
篝が他の男との子供を産めたはずもない。
すなわち、それは……。
「紅夜、椿を離しなさい」
「家族団欒で大事な話をしているんじゃないか……あの男がお前の息子だと……?」
「そうよ! だからもう隠して守る必要もないわね! 私の息子はもう強くなった! 今こそ解術する!」
「篝様……!?」
篝が印を結ぶ。
雪春までが身を乗り出した。
「さぁ……真実の姿に……! 金剛障壁守護解除……!」
紅夜城の時空も麗音愛のいる世界も一瞬、時が切り裂かれ揺れたような感覚に陥る。
「こんごうしょうへきしゅご…だって!? 聞いた事もない!」
ルカが珍しく狼狽え叫ぶ。
「あ……! 咲楽紫千が……!? あいつ、面が変わった!?」
水鏡を見て闘真も叫ぶ。
紅夜に存在を隠すため、麗音愛の祖母、そして篝も命を賭けて施した術が今解かれた――!
水鏡に映った麗音愛の存在が、一秒ずつ濃く濃くなっていく。
誰からも相手にされなかった少年の本当の姿が顕になる。
麗音愛自身はまだ何も知らず、剣一へ炎を燃やすのに集中している様子だ。
しかし、世界が彼の存在に気付いていくように、また色濃くなっていく。
「あれが……黒男……?」
紗妃も驚愕の目を向ける。
地味で呪怨にまみれた陰気な男……それが晒首千ノ刀の使い手だったはず。
しかし紫の炎のなかにいる少年は、幻想的なまでに美しかった。
艶のある黒髪に、整った目鼻立ち。長いまつ毛に血で汚れた唇も凛としている。
何度も対峙してきたナイトですら、麗音愛本人なのか疑うほどだった。
そして燃え上がるような闘気は麗音愛が纏う白い炎と同調して見え、神々しさも感じてしまう。
信じられないほどの変化だった。
「麗音愛……」
椿は初めて出逢った時に麗音愛を見て、綺麗だと感じた時を思い出す。
椿にとってはずっと変わらない麗音愛の真実の姿が今やっと解放されたのだ。
「それではあいつは……この妖魔王紅夜の……」
「そうよ……あの子は、貴方の息子……!」
「こ、紅夜様……! この女ぁ! どれだけの謀りを!」
コーディネーターが叫び、ナイト達もざわめく。
妖魔王・紅夜の息子ということは、椿と同じく王子となる。
沈黙する紅夜。
ざわめきの後、静まり返った王の間。
そこに、笑い声が響き始める。
「はーっはっは! はっはっは! くっくっくっ! やはりお前は最高の女だ篝! こんな面白い事はない!」
紅夜は嬉しそうに楽しそうに狂ったように笑う。
「そういう存在よね……あんたは!」
「あぁ! まさに俺の望む最高の宴が始まるのだ……! 人間の考えることはいつも茶番で……あーっはっはは! なんて愉快だ!」
「笑っていられるのも今のうちよ! 魂の殆どをあの術に費やしていた私も力を少し取り戻したわ! まずは私の娘を離しなさい!」
一気に篝の周りに炎が吹き出し、拘束具が燃え上がり灰になった。
そして紅夜に後ろから抱き締められていた椿の腕を掴む。
「母様!」
「さぁ! 離せ!」
まるで母狼のように、篝が吠えて炎が舞う。
「ふっ……まぁいいだろう」
紅夜から手を離された椿は、幼い母の篝の胸元に倒れ込んだ。
「お前達は、俺が微塵にした息子の骸の上で可愛がってやろう……!」
「……息子でも、殺すつもりなの!」
椿はそんな道理が伝わる相手ではない事を知っているのに馬鹿な事を言ったとすぐに思う。
見上げた紅夜の顔は、本当に楽しそうで変わらない。
「もちろんだ。この世の全ては、ただの俺の玩具。面白ければそれでいい」
水鏡に向かって紅夜が叫ぶ。
「さぁ俺の息子よ! 人間どもよ! 終わりの始まりだ! 槍鏡翠湖などなくとも地獄を見せてやろう!」
紅夜の声と共に紅夜城に無限とも思える程の妖魔が湧き出した。




