兄弟死闘篇:再会
『水環学園及び、この一帯で不発弾が発見されたという報告で街の大部分の住民に避難指示が出されました! この突然の指示にかなりの混乱が見られますが落ち着いて行動をしてください……! 命に関わる事です!』
アナウンサーが緊迫した声で状況を伝えている。
テレビやラジオ、携帯電話から出される避難指示。
剣一からの電話を受け、白夜団は厳戒態勢を発令した。
突然のことで避難を受け入れない人もおり、道路も渋滞。
交通機関も麻痺状態で、街は混乱に包まれていた。
「これが真実だという証拠もありませんが、誤報という証拠もないんです! レベルE6は妖魔に人が食い殺される状況も示唆する警報なんです。それを……うちの……うちの行方不明になっていた特務部長が伝えてきたのです! とにかく避難と他の街では家での待機! そして厳重な警備を続けさてください!」
直美の声が水環学園の職員室に設けられた緊急本部で響く。
スタジアムの悲劇が再現されるかもしれないと訴え、警察や自衛隊を動かし協力を求めているが、避難は今のところは此の街だけだ。
剣一と爽子が用意した全国の避難所も青炎安定結界石は設置されていないが、妖魔が近寄りにくい環境にはなっている。
そこに団員を派遣し人力で結界を発動させ、もしもの時にはそこで民間人を守る。
麗音愛は剣一からの電話を即座に母であり団長である直美へ告げた。
今夜、剣一が現れる……。
警戒レベルE6を告げ、不穏に切れた通話。
剣一と椿が解放されて、元気に戻ってくるとは思えない。
何か危機的状況にあるのは間違いない。
二人を人質にとっているのか――。
黒い白夜団の団服姿の麗音愛は、校庭で晒首千ノ刀を帯刀し一人立つ。
「玲央……剣一君」
美子に佐伯ヶ原、梨里に龍之介に琴音も校舎から麗音愛を見守っている。
何が起きるかわからない状況から子ども達には避難指示を出したが誰も言う事を聞かず、此処に来る事を望んだ。
摩美との交換もあり得るため、体育館では宿目七の率いる結界集団が摩美を守る厳重な待機している。
「栄太、あんたは避難しなよ」
「奥さんを置いてくわけにはいかないってわかってるでしょ」
西野も団服を着て、摩美の傍にいた。
団員達の間にも緊張が走る。
「紅い……夜がくるの……?」
窓から麗音愛を見つめていた琴音が呟く。
深い深い闇が、人間の世界を包み、半妖魔化した人間が叫び始めた……。
「……あれは……」
校庭の向こう側から、歩いてくる男の気配を感じる麗音愛。
真っ暗な闇に同化する麗音愛とは正反対の輝くような白い軍服に白いマントが翻る。
「……兄さん……!」
確かに、兄の剣一だ。
まとっている聖流も変わらない。
無事な姿を見て目頭が熱くなる。
ただ、いつも温かく微笑んでいた顔は険しく、瞳は紅く濁って光っている。
少し後ろをカリンが紅いゴスロリワンピの軍服で歩いているのが見えた。
一体どういう状況だろうか。
電話では白夜団に警戒を促した……しかしその後に苦しむ声で切れた。
見つかって拷問でもされたのか。
カリンを先にどうにかするべきか……。
「ふふん! 転移けっかぃ……」
カリンが得意げに片手をあげたが、剣一がそれを静止する。
「やめろ、カリン。妖魔は必要ない」
「えっ!? な、なんでよ……せっかく援護を……う、うそうそ! 援護じゃないわ! だってそこらじゅうに白夜団がいるじゃない! そいつらを殺すのよ!」
「必要ない。今回の作戦は俺が任されている」
僅かだが、聞こえてくるが内容はわからない。
兄は紅夜会の人間と何を話しているのか……。
「手出しするな。今回の目的は、他の人間の殺戮ではないんだ」
「でもぉ!」
「……カリン。俺を任命したのは誰かわかるな」
紅夜直々の命だ。誰であろうと覆すことはできない。
「ふんっ! じゃあさっさと終わらせなさいよね。ちょっと白夜団のザコ! 明かりを点けなさいよぉ!」
カリンは麗音愛を一瞥すると、校庭のすみに妖魔を一体召喚させて椅子のように座る。
白夜団の団員が校庭のナイター照明を点けた。
校庭は暗闇のなかから、光に照らされる。
ゆっくりと歩いてくる剣一。
その姿を両親も美子達も校舎から見ていることだろう。
姿は何も変わっていないのに、聖流をまとっているのに……この、違和感。
無表情の先に、微かに殺意が見え隠れしているような……。
心臓が嫌な揺れをする。
「玲央……」
「兄さん! 椿は!? 椿は一緒じゃないのか?」
「あぁ」
椿の姿はどこにも見えない。
「椿はどこだ! その軍服は? 一体どうなってる……」
麗音愛の元に来る前に、剣一の足が止まる。
広場での対峙。
修行旅行での兄からの特訓を思い出す。
風が吹いて、二人の髪を揺らした。
遠くでサイレンが聞こえ、そして静寂が二人を包む。
「紅夜城にいる」
「囚われたままなのか……」
会える期待をするのは早いと思っていた。
それでも今も泣いているのではないかと思うと、胸を切り裂かれるような苦しみが襲う。
「兄さんっ! 椿を助けに!」
「玲央……寵様だ」
静かな声は冷たく囁く。
「え……?」
「……紅夜会・特務隊長として、今からお前の首を貰い受ける」
「……なに、を……」
信じられない、剣一の口から出た言葉――。
「刀を抜け、玲央」
「……どういう事だよ? 紅夜会に堕ちたのか! 兄さん!」
晒首千ノ刀の柄に手をかけるが、剣一は何も持っていない。
「答えろよ兄さん! 何があったんだ!」
剣一は答えない。
しかし、麗音愛も色々な場面を想定はしていた。
「椿を人質にとられて、脅されているのか!? それか街の人達とか……それで無理やりに……」
「……姫様は……俺の命……」
「え……?」
「俺は帰らなければならない……あの御方のために、偉大な紅夜様のために」
剣一の紅い瞳がボォ……っと鈍く輝いた。
その瞬間に、剣一の白い手袋を嵌めた手元に綺羅紫乃が出現する。
瞬時に、煌めく刃が抜かれた――。
「綺羅紫乃……!? 何故……!」
剣一の気、聖流が膨れ上がり鋭い剣の翼が広がったかのような錯覚を覚えた。
「いくぞ、玲央……!!」
人々の命運を賭けた哀しい兄弟の闘いが始まる――。




