Last Call
「あー! 咲楽紫千君だーおはよう!」
久しぶりの登校。
麗音愛や椿、白夜団の子ども達の欠席は考慮されているが一般生徒にはもちろん事情は説明していない。
椿は家庭の事情で故郷に帰っていることになっている。
……が、携帯電話も通じない事に異変を感じている生徒は沢山いるだろう。
「ねぇ……渡辺さんは??」
「あぁ、なんか携帯電話壊れたみたいで……俺もちょっと……」
「そ、そうなんだ」
椿によほど深刻な事があって、そして恋人の麗音愛にもわからない状況……? と麗音愛の様子を見て誰も何も聞かなくなった。
だが別れたショックで転校したのでは、椿が妖魔化して入院したのではという噂がちらほら聞こえてくる。
「玲央……大丈夫か? 無理しなくても……」
休み時間に心配そうに西野が麗音愛に話しかけてきた。
西野は団員ではあるが、任務ができるまでにはまだまだ修行が足りないので学校には毎日来ている。
「うん……なんか学校にさ、来たくなったんだよね」
「そっか」
「みんなにも会えるしね」
「石田は彼女と別れたらしいぞ」
「え、まじか」
初めての彼女に振られた石田は目も当てられない程に落ち込んで今日は学校を休んでるらしい。
西野と二人で話をしていると、後ろから大声が響いてくる。
「玲央~! 俺、お前が学校に来なくなってさ……お前の事すっかり忘れてたけど! 久しぶりに見たら思い出したよ……俺はお前の事を大事に思ってたんだよなって気付いたぜ!!」
「いや、カッツーそれめちゃくちゃどうでもいい存在じゃん……」
「あ、そう言われたらそうだな! あはは!」
「いや、なんでそこで抱きついてくるんだよ! キモいって~」
「うるせぇー! 玲央ぉおおおおお前ちゃんと学校来いよ! そんで合コンしようぜ! 振られたお前と石田に同情した女子でも集めてさ」
「俺は振られてねーから!」
相変わらずのカッツーに苦笑する。
それでも西野がこっそり心配してたぞと教えてくれた。
学校での生徒達の会話を聞いていると、やはり謎の黒い男が人間を襲う驚異になるという話が多かった。
妖魔化現象の話も何故か驚くほど情報が流出していて、皆が恐怖に怯えていることを麗音愛は知った。
そして皆がそれに対抗する正義の味方が『紅夜』という存在であり、それを信じたいという声が殆どだ
。
『人間を滅ぼす黒い悪魔の男』も『救世主・紅夜』の話も朧気な存在なのに、皆が紅夜を信じる状況が麗音愛には歯痒く思う。
しかし説明する術もない……。
◇◇◇
「もう放課後か……」
いつか兄の剣一と話した時に『卑劣なやつは、相手の大事な場所を狙う』と聞いた。
椿と出逢い、通った学校。
次に狙われるのは、此処ではないかと……麗音愛は思ったのだ。
だが今日の学校は噂はどうあれ平和そのもので、友人達と会えて麗音愛も気が紛れたと思う。
しばらく教室で人の流れが見ていた。
壊れてしまった日常が此処にはある。
無邪気な同級生の笑い声。部活の掛け声。手を繋ぐ恋人達……。
椿と兄がいなくなってしまった……それでこの世界はもう壊れてしまった。
何も知らなかった頃には、もう戻れない。
「行くか~」
任務までの時間を見て、そろそろ帰ろうとしたその時携帯電話が振動する。
非通知の着信……。
出たが、何も聞こえない……。
だが、その先にいる相手がわかった。
「……兄さん……?」
『……あぁ……』
「兄さんっ……!」
兄の声を聞いて、今までの感情が込み上げて泣きそうになる。
自分は間違えていなかった。
無事を信じ続ける――それは辛い辛い長い長い時間だった。
「兄さん……」
『……うん』
「椿は!? 無事なんだよね!?」
『うん』
「一緒にいるんだろう!?」
『……あぁ……一緒にいるよ……』
「……よかった……! 今どこに!? すぐに行く……!!」
『明日の夜に、水環学園の校庭に行く』
「……え……?」
何故、明日? 何故、学校に? と当然の疑問が湧く。
「なんで? 今すぐに……」
『玲央……ぐっ……白夜団警戒レベルE6の……うっ……発令を……するんだ……』
「イーシックスって……」
レベルE6は白夜団最高警戒レベルの非常事態を意味する。
『っ……ぐぅ……はぁっ』
「兄さん……!? 大丈夫なのか!?」
苦しむ兄の声に、麗音愛の不安は募る。
『……明日の夜……学校で会おう……』
「兄さん!?」
静かな兄の最後の声。
電話は、そこで切れた。
ビジートーンがただ虚しく響く。
残酷な夜は、何度でも訪れる――。




