母と娘と恋バナと?その2
母の篝から、自分の恋人が誰なのか聞かれてしまった椿。
「あの……母様……実はあの、私達……えっとその……」
しっかり説明しなければいけない事だったのに、すっかり頭から抜けていた。
パニックになってしまう。
「あの……その……ええと……」
「うん。焦らなくていいわ椿。そうね二人の出逢いから、ゆっくり教えてくれる……?」
「……は……はい……あの、私と麗音愛は出逢った時はお互いに正体もわからないままで、私は麗音愛に斬りかかって、酷い事をしたのに……麗音愛は私を助けてくれて、紅夜からも守ってくれて……自由な生活をくれたんです」
夜の校舎での殺し合いから始まった出逢い。
紅夜に襲われた自分を必死で助けてくれた少年。
屋上での花火の誕生日祝い。
優しい時間。
激しい死闘。
自分で決意した別れ。
死を覚悟したのに絶望から目覚めた時には、もう死闘は終わってこの世界に戻ってきていた。
そして麗音愛から『友達になろう』と温かい手が差し出されたのだった。
「そうだったのね……すごいわね、さすが私の息子だわ~なんて、直美のおかげね」
篝の言葉からは、いつも直美を想う気持ちが感じられる。
「それから……麗音愛と私は親友になって、一緒に学校に行って勉強して……任務もあったけど、とても楽しくて素晴らしい毎日でした」
「学校楽しいわよね」
「はい! それで私は……優しくてかっこよくて、いつも守ってくれる麗音愛の事が……」
チラッと篝を見るが、瞳は優しい。
椿は深呼吸して、正直に話すことに決めた。
「麗音愛の事を……好きになってしまって……」
新しい生活での喜びにはいつも麗音愛がいた。
そして初めて知った、恋という切なさ。
「紅夜の娘の私なんか、恋なんかしちゃいけないって思って離れようとしたんです……」
あの時は、自分の故郷に帰る決意をしていた……。
「椿……」
その言葉に篝も初めて表情を暗くしたので、椿は逆に笑って見せた。
「でも、あの……すごく素敵なダンスパーティーで……変なこともあったけど……麗音愛がやっぱり助けてくれて」
「かっこいいわね」
「はい……! そ、それで……二人でダンスをして……あの……麗音愛も私を好きだって……言ってくれたんです」
ダンスパーティでの告白、夢のような時間。
愛しい人の腕のなかという幸せを知った日。
椿が頬を染めながら辿々しく話す様子を、篝は何も言わずに微笑んで見てくれている。
「でも……私と麗音愛が双子だったって知って……二人で悩みました」
「そう……直美もきっと悩ませたわね……」
「はい、沢山困らせてしまって……でも、麗音愛と沢山話して離れないって決めたんです。だ、だから……お兄さんだけど私は……麗音愛が……麗音愛と……あの……麗音愛と……」
すれ違いからの、麗音愛との逃避行。
その先で決めた二人の誓い。
両親の前での結婚の宣言。
誰よりも影から応援してくれていたのは、剣一だった。
咲楽紫千家での楽しい日々を思い出すと、また心が苦しい。
「……麗音愛と一緒にいたいんです……」
ただ自分の願いを言ってしまって、なんて説明下手と椿は情けなくなる。
「そっか~麗音愛と、お付き合いしてるのね……恋人として」
「は、はい……!」
また涙が溢れそうになった椿を見て、篝は優しく微笑む。
「いいじゃないの、あなた達二人は、この世の理などに縛られない存在よ。素敵なお話ありがとう」
「か、母様……」
否定する言葉は一言もなく、篝は頷く。
雄剣の言った通りだった。
「麗音愛の存在を隠すために、私が色々と仕組んだ事で皆を困らせてしまったわね……ごめんね」
「そんな! 仕方のない事です」
「母様はね、きっとあなた達は出逢うと思っていたの」
「えっ」
「あなた達が二人で双子として産まれてきた時からね……。そういう運命なんだろうなって……白夜威流神様が私の元で現世で蘇ると聞いたのに二人で産まれてきてびっくりしたんだもの」
「……母様、麗音愛は白夜様なのですか……?」
「私は、そう言われ、それだけを信じて生きて……死んだけど……」
少しだけ篝は声を控えめにして遠くの大きな窓から見える紅い空を見つめるように言う。
椿と同じ年頃に天命を受け、それを信じ紅夜との子どもを産み守るために死んだ母。
「母様……母様はあの……」
「ん? 私は幸せだったわよ、大切な素敵な人に囲まれて可愛い子どもも出来て……でも椿には幼い頃からとても辛い思いをさせたわね」
「いいえ、いいえ。母様に比べたら……」
「だからこれからは、あなた達が笑って過ごせるように紅夜は紅夜会もろとも滅ぼさないといけない」
篝の瞳に、強い炎が宿る。
「……麗音愛が白夜様だとしたら……どうしたら思い出すんでしょうか」
「神の領域は私にもわからない……でもあの子はまだ目覚めるべき事がある」
「え……」
「麗音愛を信じましょう。あの子はきっと、剣ちゃんも救ってくれる」
「は、はい……!」
「沢山お話して喉が渇いたわね、紅茶を淹れましょう」
新しい紅茶を淹れて、湯気が立ち上る。
椿も色々と聞きたい事はあったのだが、それでも今ではないと思い静かな時間に目を閉じた。
「そういえば母様……明橙夜明集に書いた麗音愛の名前にふり仮名を振ってくださればよかったのに」
「え? 読めるでしょ? れおんぬって」
「読めませんっ!」
いつもありがとうございます。
今回はちょっと過去を振り返り回でもありました。
此処までお付き合いくださった皆様に改めて御礼申し上げます。
最終回まで楽しんで頂けますように頑張りますのでこれからもよろしくお願い致します!




