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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
第三部 第二章

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紅夜との対面・椿の叫び

 

 真っ白なドレスを着せられた椿。

 玉座へ一歩、一歩気丈に歩く。


「姫様、無謀な事はおやめくださいませね」


 後ろを歩くヴィフォが言う。

 椿が紅夜に勝つことができない事はわかっている。

 それでもあの悍ましい紅夜の望み。

 この身を穢される屈辱を受ける事になるのだろうか……。


 それでも最後まで抗い立ち向かう!


「どうか母様……私に勇気と力を……」


 先代の当主であり母である篝を想う。


「麗音愛……」


 そして愛しい恋人を想う。

 玉座の間の重々しい扉が開いた。


「……来たか」


「……紅夜……!」


 遥か先の玉座に座る紅夜を見ただけで全身が泡立つ。


「あぁ! 紅夜様と姫様がやっとご対面だ! やったぁ! おかえりなさい! 姫様ぁ!」


 いつもより華美な紅い軍服の闘真が喜びで飛び上がり、ルカに注意される。


「姫様、なんてお美しいー! 紅夜様の花嫁様の御入場〜!」


 どこからか音楽が流れる。

 籠いっぱいに紅い薔薇の花を入れたカリンが近づいてきた。

 微笑まれても椿は目を背ける。

 薔薇を撒きながら、真っ赤な絨毯の上を歩くように導かれ仕方なく着いていく。

 紅夜より一段下にある宝石と彫刻が施された豪華な椅子に座ることになるらしい。


 妖しく微笑む紅夜に一歩一歩近づいていく。

 気丈にと思っていもパンプスの足元が震えてしまう。


「寵 ……俺の可愛い娘よ」


 瞬間、皮膚が泡立つ。


「わ、私の名前は椿! 桃純家当主の桃純椿だ!」


 椿が叫び睨みつけ、ナイト達が凍りついた。


「ふふ……その瞳。麗しいな我が娘よ」


 紅夜は目を細め、嬉しそうに言う。


「姫様、どうかご着席を」


 紅夜の横に立つコーディネーターが跪いたまま椿に伝えるが、椿は動かない。


「お前の威勢はよくわかっている。俺はそういうお前も愛しているんだよ」


「やっやめて……!」


「さぁ、そろそろ席に座れ」


「あっ……」


 紅夜と瞳が合うと、まるで操り人形のように身体が言うことをきかなくなった。

 腕も手枷をされたように動かせず、もう武器を出すこともできない。

 しかし紅夜は椿に触れることはなく、自分の手前にある椅子に座らせた。


「わ……私を操って、無理やり手に入れて……それで満足なの……?」


「お前の意志で此処に戻ってきただろう」


「違う……! 私は戻ってきたかったわけじゃない!」


「なにが理由であったとしても、それが運命……導きというものだ」


「そんなの……」


「これから人間どもが新しい世界を築くのを神として俺は見届けよう」


「新しい世界……?」


「そこでお前は俺に愛される事を望み、俺に愛される喜びを知っていく……お前の母親、篝のように俺の子を産むのだ」


「いや! 私が愛してるのはあんたなんかじゃない!」


 紅夜に拘束されながらも、椿の炎が舞っては消え火の粉が舞っては消える。


「咲楽紫千麗音愛か……」


 ルカが二人のやり取りを緊張したように見つめながら、サイドテーブルのワイングラスに紅いワインを注ぐ。


「愛を知ると、女は美しくなると言う。だから許そう」


 紅夜を見ないように、椿はグラスを見つめた。

 ワインが映す、ゆらゆらと揺れる自分の顔。


「祝言の日はお前の誕生日にしようか」


「……や、やめて……」


「それまでにお前の美しさがもっと花開く、沢山の絶望を知って深い愛を知るだろう」


 紅夜の束縛はもう解かれて、椿はただ椅子に座っている。

 しかし紅夜の放つ禍々しい気が肌に刺さり、炎も緋那鳥も吸い取られてしまうような無力さを感じた。


 結局、なにもできない……!


 震える手で白いドレスを椿は握った。


「紅夜様、今日は此の城に姫君が戻った祝いの席です。新たな姫君の騎士をご紹介致します」


 雪春が一歩進んで、紅夜に跪く。

 それに習って、ナイトも全員が跪いた。


「……新たな騎士……?」


 先程、椿が入ってきた扉……。

 その扉がまた開かれ、足音を響かせながら歩いてきた男。


「……嘘……」


 白いワイシャツ、白いズボン。

 しかしその上にまとった白い軍服は、紛れもない紅夜会の軍服。

 ネクタイだけが紅色。

 白い軍帽に白いマントをまとった剣一は、静かに椿と紅夜の玉座に近づいてくる。


「剣一さん……」


 剣一はナイトの前で跪いた雪春よりも前に出て、跪く。

 一筋の光が彼を照らし、光り輝く騎士のようだ。


「紅夜様、咲楽紫千剣一参上致しました」


 しかし彼の口から出た言葉は椿の心を激しく切り刻む。


「剣一さん!?」


 剣一は何も答えないまま、頭を垂れたままだ。


「俺の娘との会話を許す。咲楽紫千剣一」


 許しを与え、紅夜は余興が始まるのを眺めるようにワイングラスを手に取った。


「寵様……この城に来てからの数々のご無礼をお許しください」


「剣一さん? 何を言ってるんですか! 寵なんて言わないで! 私は椿です!」


「……つば……うっ……」


「剣一さん!」


 剣一から漏れる苦しそうな声を聞いて椿は立ち上がろうとしたが、すぐに座らされてしまう。


「剣一さんに一体何をしたの!? わ、私の大切な人にまた酷い事を! 許さない!」


「それは少し違うな……寵」


「違う……?」


 睨みつける椿に、紅夜は微笑む。


「この男をこうしてほしいと願ったのはお前だ、寵」


「……私が?」


「この男の蘇りを願ったのはお前なんだろう……?」


 一瞬で思い出されるあの惨劇。

 剣一を失う恐怖、受け入れる事のできない現実。

 泣き叫んで願ったのは、彼の命。


「違う……違う……私は……」


「姫様、感謝しています」


「剣一さん、こっちを見て! 頭なんか下げないでください!」


「はい、姫様……」


 その言葉を聞いて、剣一は顔を上げる。

 覇気のある自信に満ちた、咲楽紫千剣一という男の顔そのままだ。

 白い軍服はまさに聖騎士の名に相応しい格好なのにも関わらず、彼はこの闇の軍隊に所属してしまったのか……。

 剣一の瞳を見て、椿の瞳からは涙が溢れる。


「剣一さん……どうして……ううん、違う! 剣一さんは紅夜会になんて絶対に入らない! 操られているんだ!」


「彼は、姫様の血によって蘇ったのです」


 雪春が静かに言った。


「私の血……?」


「はい、ですので彼は姫様の眷属なのです」


「私の……眷属って……」


 理解できない(おぞ)ましい言葉。


「はい、私は姫様の血によって蘇りました。私は姫様の眷属です。私の命は姫様のもの。姫様のために使われるべきもの……貴女のための騎士(ナイト)です」


 剣一は覇気と優しさのある声で椿に語る。

 さっきまでの紅夜を前にした震えとは違う震えが椿を襲う。


「うそ……私の……じゃ、じゃあ紅夜は敵のはずです!」


「……私は姫君の父君である紅夜様に逆らうことはできません」


「そんな……そんな……どうして」


 椿の頬を涙が伝う。


「お前の血だけでは不完全。命の縫合に俺の血の糸を使ってある……」


「糸……? 剣一さんの身体に!?」


 いつか闘真が言っていた『イト』とは、紅夜の糸という意味……?


「紅夜様への謀反の感情は、大変な苦痛を生みます。常人には姫君を『寵様』以外の名で呼ぶ事も不可能でしょう」


「……え……っ」


 雪春の言葉に椿は絶句する。


 椿は、剣一がたまに見せた苦痛の顔を思い出した。

 全身の痛みに耐えながら、何も変わらない様子で『椿』と呼び続けてくれていたのか。

 激しい痛みに襲われながら、自分の事を気遣い脱出計画の話をしていたのか……。


「酷い……酷いこんな……剣一さんの事をもてあそんで……許さない」


「そうかな? この男の幸せそうな顔を見ろ寵」


「幸せそう……?」


「はい、姫様。私は貴女様の不死身の騎士になれた事を幸せに思っています」


 剣一はにこり微笑んだ。


「……剣一さん……」


「どうかお心を傷ませないでください」


 涙を流す椿に、剣一はいつも通りのように優しく話す。

 それが一層、椿の心を切り裂いていく。

 自分の選択が、この状況を生んだ。

 その事実に、心が潰れそうに痛む。


「寵……お前の花嫁姿、そのドレスが白いのが何故かわかるか?」


「え?」


「そしてこの男の軍服も白い……」


 そう、椿と剣一はずっと白い服を着せられている。

 白は白夜の色――紅夜会で白い服を着ているものなど、いない。

 

「どういうこと……」


 紅夜は涙を流す娘の顔を見て、一層楽しそうに笑う。


「剣一、お前は白夜団では特務部長という地位にいたんだな」


「はい、紅夜様」


「それではお前に紅夜会でも特務隊長に任命しよう。特別な任務をお前に命ずる」


「特別な……任務……?」


 嫌な予感が、恐怖が更に押し寄せる。


「咲楽紫千麗音愛の血でお前の軍服を紅く染めろ。寵の花嫁衣装を咲楽紫千麗音愛の生首の鮮血で紅く染めあげろ」


 言葉を失っている椿の後ろで、じゅるり……と紅夜が長い舌を出した。


「愛する男の首の前で、お前と愛を交わそう……寵」


 ワインの入ったグラスを紅夜は放おった。

 シャリーンと鈴の音のようにグラスは弾け飛んで、剣一の頬をかすめて血が流れる。


「俺と娘の祝言に、お前の弟の首をもってこい。特務隊長・咲楽紫千剣一」


「御心のままに、紅夜様」


 頬から血が流れたまま、剣一は静かに頷く。


 紅夜の笑い声が響き、拍手が鳴り響く。

 絶望に泣き叫んだ椿は、そのまま意識が暗転する。



 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私の剣兄になんてことを‥
[良い点] うわあああ 剣一さん(゜´Д`゜) やっぱり何かされてた……命が助かったのはよかったけど……よかったけど(´;ω;`) 紅夜様、寵様って呼称が悲しすぎる このまま麗音愛と戦うことになって…
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