痛みのなかで
紅夜城。
もう今日が何日かわからないが、麗音愛の誕生日はもう過ぎただろうと感じる椿。
今日もまた紅い月が昇る。
「ごちそうさまでした」
「椿ちゃん……もう、いいの?」
「はい」
今日は和食のコース料理だったが椿は少し口にして、食べるのをやめてしまった。
塞ぎ込んでいるのがすぐにわかる。
剣一も日本酒を飲み干して、ナプキンで口を拭く。
「もう眠ります……」
「うん、添い寝しようか?」
「あっあんたはぁ! 姫様になれなれしくし過ぎなのよ!」
横にいたカリンが剣一を睨みつける。
「大丈夫です、剣一さん。いつも傍にいてくれてありがとうございます」
「俺も傍にいられて嬉しいよ」
「なっ……! きっしょ! きっしょ!! 不敬! 死刑!」
「なんだよ」
カリンの言葉にうんざりした顔をした剣一は、またお猪口に日本酒を注いで飲む。
「剣一さん、私が簡易ベッドで寝ます。剣一さんより小さい私が大きなベッドで寝てるなんて……」
「ん? 何も気にしなくていいよ」
剣一は椿のベッドルームのソファで眠っていたが、椿の願いで簡易ベッドが置かれた。
「姫様! そうですよ~簡易ベッドですらもったいない! こんなやつ床で十分なんですから!」
「カリン、剣一さんは私のとても大切な人です。そんな言い方はやめて」
「ぐぐぅ~姫様ぁ……ぐぐぅ……」
メイド服のエプロンを噛むカリン。
やれやれと剣一は苦笑いした。
椿は湯浴みのあと、ヴィフォからの化粧水やオイルの手入れを拒否してネグリジェに着替えてベッドに潜り込む。
「麗音愛……」
枕を抱きしめて涙が滲んでいく。
「麗音愛、お誕生日お祝いしたかったよ……会いたい……」
優しい手のひらが椿の頭を撫でた。
何も言わず、剣一は椿が眠るのを見守った。
そして真夜中に城の外廊下を歩く剣一。
紅い月。
神殿のように柱が並び照らされて影が伸びる。
「お散歩ですか」
軍服姿の雪春がニコリ微笑む。
高い位置で結んだ髪が揺れた。
「あんたと待ち合わせをしたつもりはなかったんだがな」
「……あまり好き勝手にされると困りますので」
「あんたに好き勝手だとか言われるとは思っていなかったね」
眼の前にいるのは散々、白夜団を弄んだ男だ。あざ笑うように雪春を見る。
「身体が辛いでしょうと思いまして」
「あぁ……あんたに刺された心臓が痛むよ」
「痛むのは……」
外廊下に響く、金属音。
剣一が話の途中で斬りかかったのだ。
その手には綺羅紫乃が握られている。
雪春も『雪春』を瞬時に抜いて、剣一の斬撃を跳ね返した。
「くっ……ぐぅっ」
お互いの斬撃の衝撃で後ろに跳んだ剣一。
無傷だが、苦しそうに顔を歪め頭を押さえて倒れそうになる。
その身体をソッと支えるように現れたのは一人の少女。
黒い髪が美しい瞳に力強さをたたえた紅い着物姿の美少女だ。
「……君は……?」
「……今は眠って……身体に響く……」
「……でも……うっ……俺は」
また激しい痛みに耐えるように剣一は顔を歪める。
「大丈夫、あの子の元へ戻してあげるから……」
優しい声に、母の胸元で眠る幼子のように剣一は眠るように意識を失った。
そのまま聖母のように優しく剣一を抱き締めて少女は座る。
「……そろそろです」
二人を見下ろしながら雪春が囁く。
「……そうね……」
抜かれた綺羅紫乃が剣一の手元でキラキラと輝いていた。




