闘真をお誘い!?
今日もカリンによって髪を結われ、ドレスを着せられる椿。
ハーフツインテールにつけるリボンをカリンが嬉しそうに選んでいる。
「えぇ!? 姫様、本当にですか!?」
「わかったら準備してちょうだい」
できるだけ突き放すような言い方をする椿。
紅夜会のナイトと仲良くはできない……と思って意識して話をしている。
「まぁ泣いて喜ぶでしょうけどねぇ。……あの男はどうするんですか?」
「あの男って?」
髪を結われながら疑問符を浮かべる椿。
「金髪のたらし変態野郎ですよ!」
「そんな変態野郎なんか知らないけど……」
「金髪の顔だけ男です!」
「え? 顔だけ男?」
グギギとカリンの顔が歪む。
それは椿に対してというよりは何かを思い出して、の反応のようだった。
「金髪で顔が良くて、ほんの少し強いムカつく男です! 姫様の部屋にいっつもいる男です! なんで今はいないんですか!?」
「あ、剣一さん? 剣一さんも少し用事があると言って出て行ったけど……どうしたのかな」
剣一の事など知らないような素振りをするが、これも二人で話した計画のうちなのだ。
「あの男、また好き勝手してっ! ……あ、失礼しました。では二人分のお茶とお菓子を用意しますね」
「頼んだわよ」
「はぁい。承知しましたぁ」
思い切り冷たい態度をとっているつもりなのだが、慣れない椿の演技などカリンには何も効いていない。
それよりも剣一に対しての呪いをブツブツと言っている。
――そして午後。
「ひ、ひ、姫様……お呼びいたいたいたいたあざますっっ」
薔薇の花束を抱えた軍服姿の闘真が、椿の部屋に一歩入った途端に固まっている。
「ど、どうしたの」
「いえ、し、失礼しました。ひ、姫様があまりにうううう美しいので、ここここれ」
「……あ、ありがとう」
今日はピンク色の薔薇だ。
椿は受け取ると、すぐに後ろのルカに渡す。
「姫様、闘真こちらへ。今日のお茶会のお菓子は……」
「闘真、私あなたの薔薇園が見たいの!」
「ひょっ!?」
ルカが用意していたテーブルへ案内しようとしたが、椿が遮って闘真に言う。
まさかの椿の言葉に闘真が飛び上がる。
「お、俺の薔薇園に!?」
「そう……薔薇園あるでしょ? い、いつも綺麗な薔薇を見せてくれるもの……あるよね!」
「もちろんですよ! マジですか!? わーい!!」
闘真は子供のように舞い上がって何度もジャンプする。
「じゃあじゃあ! 俺の薔薇園でお茶しましょう!」
「こら闘真、勝手にそんな……姫様はこの部屋で過ごされるという決まりが……!」
「うるせーよ! そんなのお前の考えだろ! 早くバスケットにお菓子入れろ!」
「お、お菓子なんかいらない。闘真、早く見に行きたいの! 行こう!」
「ひ、姫様……!! は、はい!! じゃあ、お手をど、どうぞ」
闘真が手を差し伸べてくる。
椿は躊躇しながらも我慢するように顔をしかめながら、そっと闘真の手を握った。
「姫様……!」
「きゃっ!」
闘真はそのまま椿の手を引っ張って横抱きにすると、紅い空の見えるバルコニーに駆けていく。
「闘真! 待て!」
「来い! ロッサ弐号機!」
「きゃああ!」
バルコニーから飛び降りた闘真と椿を飛行型の妖魔が受け止める。
「姫様、大丈夫です! お、お、俺にしっかり捕まってください!」
「や……やだ」
「え!?」
「ううん……こ、この紅い世界じゃないとこにある薔薇園へ行ける!?」
仕方なく椿は闘真の肩に掴まった。
手枷の鎖が揺れる。
ここ数日で手枷のなかに盗聴器はないと椿は確信したのだ。
「いえ! 此処のなかですよ! すぐ着きます!」
「……お外の薔薇園はないの?」
「あぁ~前に姫様とお茶したような薔薇園ですか?」
「そ、そう! あそこに行きたい……!」
椿の脳裏に浮かぶのは、闘真に連れられていった薔薇園。
あの時は麗音愛が追いかけてきてくれた。
あそこは元いた次元世界にあるのではないだろうか。
「ひ、姫様……そんなにあの薔薇園気に入ってくださってたんですか!」
「う、うん! 気に入ったから、あそこに……」
「あそこの薔薇園をそっくりそのまま、こっちに持ってきてあるから大丈夫ですよ!」
「……はぁ……そう」
思わずため息をついてしまう。
椿の長い髪とドレスが風にひるがえる。
「姫様、どうかしましたか?」
「ううん! じゃ、じゃあそのお庭を案内してね!」
「も、もちろんです!」
椿は、横抱きにされたまま辺りを見渡す。
外には出られなかったが、少しでも情報を集めなければ……。
巨大な紅夜城。
外壁は真っ白で無機質なシンプルな作りだ。
まだこの距離では全貌も見えない程の大きさ。
この城のどこにあの男がいるのか……。
「はい、姫様~着きました!」
闘真の言う通り、すぐに薔薇園には着いた。
ガーデンテーブルセットの前に降ろされる。
窓から少し見えていた庭だ。
紅い空の下、かなり広い薔薇園は全ての薔薇が咲き誇っている。
「姫様、薔薇を紹介しますよ!」
「うん……でもあの、お腹すいたな、やっぱり……」
「えっ」
「あ、あの……ムンバのケーキとか……ムンバのスペシャルココア飲みたいし、ハンバーガーとポテトが食べたい! あ~~食べたい!!」
大袈裟に身振り手振りで話す。
「姫様……残念ですけど、ここにはムンバはないんですよ」
そんな事は百も承知だが、椿は頑張って微笑む演技をする。
「そ、そうだよね……じゃあ一緒に買いに行かない? ちょっと出て買いに……ね?」
「行きたい! 行きたいんですけど……今は」
喜んですぐに、闘真は下を向く。
「闘真は此処からは出られないの?」
「はい」
個人の自由で、この城から出ることは不可能なのか……?
一体誰が管理し、どういう術で出入りをしているのだろう。
慎重に聞き出さなければ……と手枷をされたままの両手を握る。
「それに俺、謹慎中なんで」
「え……何をしたの」
「あー姫様の時に計画に入れてもらえなかったんで、ちょっと暴れたんですよ」
「人を殺したの!?」
「さぁ~? わかんないですけど。それで怒られて」
飛空用に使った妖魔はコウモリが巨大化したような緑の化け物だった。
口から植物のような触手を伸ばすが、闘真は嬉しそうに手に触手を絡めて撫で回している。
「もう、そういう事はやめて闘真」
「あは!もうしませんよ~だって姫様が帰ってきてくれたんですもん! これからはず~っと一緒なんですよね!」
「……っ!」
無邪気な笑顔。
まるで母親の愛情を疑うことがない幼子のようだった。
椿はその笑顔から逃れるように背を向けて、黒い薔薇を見つめる。




