摩美の忠誠心
西野は正式に白夜団団員に認められた。
摩美への対応も少し緩められ、部屋でも時間ごとに宿目家の術者が二人で時間での交代制になり、机と書棚が与えられ自由に過ごせるようになった。
「え……外に?」
麗音愛達が来ると、宿目七は察して一礼後はすぐに部屋から出ていく。
直美の話では七も摩美と会話する場面も出てきたという。
「あぁ。紅夜会への対策として、椿と一緒に外を歩いてほしいんだ。
椿と一緒にいるのを紅夜会に見せれば摩美の立ち位置を判断するのは難しくなる」
「わかった」
久々の外出だ。
用意された服を見て摩美は驚く。
シックな色合いのトップスにロングスカート。
摩美が好みそうな服を椿が剣一と一緒に選んで買ってきたものだ。
「……こんなに素敵な服をありがとうございます姫様」
「せっかくだから!西野君と、麗音愛と一緒に四人で……って私達おじゃま虫なんだけど
ダブルデートしようって思って」
えへへと椿が笑う。
「えっ……栄太まで」
「西野は一時間後に来るから。まぁこの本部の庭でお茶飲むだけだけどさ」
「お茶とお菓子も用意したよ。今日はとってもいい天気だから気持ちいいと思うの!」
「……はい、ありがとうございます」
「じゃあ、麗音愛は出て出て! わ、私ので良かったらお化粧もする?
私もお友達に教えてもらったので……プチプラコスメなんだけど……」
麗音愛を部屋から追い出した椿は振り返って微笑む。
摩美が白夜団に入ることを決めたのは椿の存在も大きい。
純粋な優しさが染み込み、紅夜とは違う神々しさを感じる。
「姫様、私のような半端者にお心遣いをしてくださり、ありがたき幸せに存じます」
摩美は土下座しようとするのを、椿が慌てて止める。
「姫様なんかじゃないから! やめてよぉ、ねっ?
お友達になれたらいいなって思ってるんだよ」
「お友達……」
「うん! 色々お手伝いしていくから、みんなのために頑張っていこうね。
そして西野君と幸せになれるように頑張ろう! 私も頑張るね」
「……姫様……」
輝く椿の可愛らしい微笑みは、残酷さも陰湿さも穢れもない。
ただ彼女の綺麗な心がキラキラと輝いて光をまとっているように摩美には見えて眩しかった。
「本当にありがとうございます。
直接は……言いにくいのですが、あの咲楽紫千玲央……君にも感謝しています」
「うん、麗音愛はわかってるよ。麗音愛はすごく優しいのー! えへへ」
麗音愛の名前を出した椿は幸せそうで、より一層に輝く。
摩美にとっては初めてのことばかりの愛に溢れた白い世界。
「さぁ一時間で可愛くおしゃれしようね!」
伸びていた紅いマネキュアの爪も短く切って、白いパールのマネキュアを塗り直した。
「じゃーん! 可愛いでしょ!」
「ひ、姫様」
外で待っていた麗音愛が『おお~』とおしゃれをした摩美に拍手をした。
恥ずかしさで逆に麗音愛を睨んでしまう摩美。
宿目七も横目でチラと見たが、特に文句などは言わずにそのまま待機室へ行ってしまった。
三人で玄関から出ると、椿が思い出したように叫んだ。
「あ! ティータイムで食べるお菓子とお茶を置いてきちゃった!」
と同時に強い風が吹く。
摩美はロングスカートだったが、椿はミニのプリーツスカートを履いていたため翻って露わになるパンツ。
「きゃー!!」
「つっ椿っ!!」
「姫様!」
「や、やだー! と、と、取りに戻るね」
すぐに手で押さえて真っ赤になったまま、椿はまた屋敷の中へ入っていった。
ピンクでレースがわちゃわちゃとしていて、ツヤツヤした生地で布が小さかった……!!
一瞬のことだが、椿のパンツ事情を脳内にインプットした麗音愛だったが隣の殺気に気付く。
摩美が目をひん剥いて睨みつけていた。
「姫様を卑猥な目で見るんじゃないわよ……。
あ、あんな可憐な美しく可愛らしい姫様になんてスケベな視線を……!」
「そっそんな目してないぞ俺は!」
そこまでは! と反論する麗音愛。
「大切な姫様の純潔は、私が御守りする……!」
「なっ余計なお世話だって!」
「まさかもう既に……」
「う、うるさいなっ! 関係ないだろ!」
麗音愛の態度ですぐに察した摩美は安堵の息を吐く。
「良かった、安心した」
「じ、自分は西野とあれこれしてるくせに余計なお世話じゃないのかっ!?」
「は、はぁ!? なによそれっ! あんた何を聞いたのよ! 変態!」
「お待たせ~!!」
「姫様」「椿」
お菓子の入ったバスケットを抱えた椿が戻ってきた。
「二人とも、すっかり仲良しなんだね~」
言い合いしていた二人にニコニコと椿が言う。
すると目の前でワゴン車が停車し、西野が顔を出した。
「こんにちは! 摩美ちゃん今日すっごく可愛い!」
「え、栄太……馬鹿!」
照れもせずに摩美を褒める西野に、摩美の方が頬を染める。
「バカップルめっ」
いつも言われている言葉を麗音愛は呟いたが、椿に腕を組まれドキリとした。
「私達もバカップルだもんね~麗音愛」
「はい」
バカップルとバカップルのダブルデート。
敷物を敷いて、お菓子を並べて、お茶を配る。
「梨里ちゃんと焼いたんだよ」
「姫様、ありがとうございます」
椿の料理の腕も格段にレベルアップしている。
アップルパイは甘酸っぱい林檎と香ばしいパイがサクッと口いっぱいに広がる。
「もう驚いたよ。美子ちゃんに鹿義さんに釘差、佐伯ヶ原まで白夜団とかさ! 白夜団クラスじゃん!」
「はは、驚くよね」
白夜団に所属するメンツを聞いて西野は相当に驚いた。
クラスで周りに聞かれないように皆が挨拶をしたのだ。
美子は微笑み、梨里はちょりーっすとピースし、龍之介には肩パンされ、佐伯ヶ原には無駄に侮辱されたのだった。
楽しいお茶会の時間。
しかし、これは紅夜会に摩美を見せる儀式。
麗音愛も椿もいつでも剣が抜けるように笑顔の裏では緊張し気を張り巡らせていた。
それは摩美も同じだったが……。
「こんにちは、僕にも一杯頂けるだろうか」
声の主は、絡繰門雪春。
紅い軍服のままで彼は微笑み、そう言った。
空気が凍る――。




