剣一と椿!落下の先に
落ちる!!
おわっ!! と、その瞬間剣一は椿を抱きしめ庇おうとしたが
それより先に椿が剣一の頭を包むようにして抱きしめた。
剣一は身動きがとれなくなり、そのまま
2人分の体重でドーンと落下する、想像以上の落下距離。
「ぐあっ!!!」
激痛が走る!
が、剣一は自分が椿の上になっている事に気付き心臓が止まるほど焦る。
「椿ちゃん!」
「ん……いたたた」
木材やらと落ちて、着地したのはまたゴミが散らばる石畳のような硬い地面。
ダラダラと額から血を流す椿だが、すぐに起き上がる。
剣一のヘッドライトが当たったのかそれを見て剣一の血の気が引いた。
「剣一さん大丈夫ですか!?」
「何やってんだよ! 俺を庇う奴があるか!」
剣一は聖水をばら撒き、リュックから救急キットを取り出した。
「ご、ごめんなさい……! 私が落ちたから、私のせいで!!」
「あ~~~こんな……女の子が顔に……他は痛いところは折れてたりしてないか!?」
「大丈夫ですよ、どうせ治るし……あは。剣一さんは? 怪我大丈夫ですか?」
ゴシゴシと溢れる血を
まるで汗を拭くように手の甲で、無造作に拭く椿。
「私のことなんかどうでもいいんですよ! すぐ治るし剣一さんが大丈夫で良かったですー!」
ニコニコと笑う椿。
しかし左腕はだらりとぶら下がり、すぐ立ち上がれそうにもない。
「どうでもいいわけないだろ!!
俺は、確かに君より弱いよ! 身体もな!
だけど下敷きにして怪我させて
自分だけ怪我なくて良かったー! なんて思うわけないだろ!!」
「あっ……あ……う……」
「あ、怒鳴ってごめん」
泣きそうな顔で下を向く椿。
「すみません……ごめんなさい……」
「そうじゃない、そうじゃなくて」
その数分前
椿の炎がボッと消えたのを麗音愛が見たその瞬間。
「えっ!?きゃっ!!」
美子を抱きしめ、担ぎ上げ
瞬時に来た道を走り出す。
「玲央っ!?」
「椿に何かあったんだ!!!」
「だってそんな!? わかんなっきゃーっ!!」
あまり強く床を踏むと抜けそうでハイスピードは出せない
「椿ーーーーーっ!!!!」
麗音愛の叫びに集まってきた妖魔を、斬り走り抜けた。
「怒鳴ってごめん、怒りたいんじゃなくて……
あーもう、ごめん」
俯く椿の前で言葉に詰まった剣一は
ぎゅっと座ったままの椿を優しく抱きしめる。
「け、剣一さん……」
「治るからって俺を庇う事ない!
自分を大事にしてくれよ
君はみんなの大事な椿ちゃんなんだから……
俺が守れなくて、
怪我させて、ごめんな。本当にごめん」
「剣一さん……そんな、私がバカで落ちたから……」
ひゅっと風が吹いて
ドン!と呪怨を纏った麗音愛が2人の元に降り立った。
「「あ……」」
椿は剣一に抱きしめられたまま
麗音愛は美子を抱きしめたまま
2人は目が合う。
「麗音愛……」
「な、何やってんだよ! クソ兄貴!」
「あぁん!? なんだその言い草!!」
「なにセクハラしてんだよっっ!」
「イケメン無罪だバカやろー!
お前もよっちゃん抱えてるだろがー!」
「お、俺は急いできたから必要があって」
「俺も必要だったんだよ! 緊急事態だ!」
「あ~~~もう、そんなことより怪我だ! 大丈夫か!?」
美子を降ろした麗音愛は椿に駆け寄る。
「私は大丈夫、私がヘマして落ちちゃって」
「上から? 切ったのか……打身もしてるよね」
「うん、大丈夫
私が思い切り床を踏んで踏み抜いちゃったの……剣一さんも助けようとしてくれて」
「見事に庇われたってわけ、これとりあえず額の傷に貼ってあげて」
「何やってんだよ、兄さんがついてて!」
それからどうしてあんな事になる!?と
何故か腹が立つ。
「弁解の余地はない。俺の失態だ」
「麗音愛! 剣一さんは悪くない!!
私が失敗したんだって!」
「玲央! やめなさいよ
不測の事態なんていくらでもあるでしょう」
「う……」
女子2人の前で兄と喧嘩しても
自分に勝ち目はない……。
大判絆創膏を剥がして付けようとしたが暗くて出血場所が見えにくい。
「椿、炎出せる?」
「あ、うん! 消えてたね」
ポポポポポポと炎が周りを囲む。
「きゃっ!?」
美子が声をあげる。
「なんだ……」
麗音愛が椿の照らす炎で周りを見渡し言葉をなくした。
「!」
椿が炎の数を増やしていく。
ボォっと照らされていくと
ぐちゃぐちゃに荒れた研究室のような部屋が浮かび上がって見える。
割れた水槽に沢山のカビや苔が生え滑り
骨のようなものが散乱している。
デスクやイスはバラバラに倒れているが、書類など紙類は一切落ちていない。
床は血飛沫のようにところどころ赤いシミがあった。
「ここは……」
麗音愛は呪怨の結界で、3人を取り囲む。
「妖魔の数が多すぎると思っていたが……ここは紅夜会の傘下だったのか……」
「どういうことだよ? この研究室みたいなのが? なんで」
「紅夜をどうして、人間でもてはやす奴等がいるのかって事だが……
お前もわかるだろう? あいつの能力を、血肉を生み出す力をさ」
ポタポタと椿の額からまた血が流れ出す。
麗音愛がガーゼで押さえるように渡した。
「何もないところから、臓器、血液、色んなパーツを生み出せたら……」
「それができたら、正しく使われるなら、それは沢山の人を救う素晴らしいことだと思うけど……」
奥で、ぐちゃぐちゃと蠢く音がする。
この屋敷の妖魔はここから生まれ這い出てきたのだろうか。
「それがそういうわけにはいかないよな……昔から、交換臓器だの不老不死だの、死なない兵士だの
悪者の夢じゃん。この世界でも違法な実験を何百年と続けているんだよ奴等は……」
椿は麗音愛の結界を出ると
引きずる足で
一歩、一歩ガラスを踏みながら研究室を歩いて眺める。
水槽に貼られた日付と「個体名M」という文字にギクッとしてしまう。
襲いかかってきた妖魔を細剣で切り捨てた。
いつも採血をされていた事を思い出す。
まさかあれも何かに使われて……心臓が嫌な音を立てた。
朽ちた骨は小さい。
ゾクリと皮膚の表面が泡立つような不快な気持ちになる。
「椿、もう見ない方がいい」
「こんな……こんな事までしていたなんて……
燃やしてやりたい、気持ち悪い!!」
「椿」
「落ち着け、色々と手がかりになる事もある。お手柄大発見ってとこだからさ
きちんと調査に入ってもらおう。
椿ちゃん、よっちゃんは俺の車に戻って。椿ちゃんの治療して待ってて
俺と玲央で、ここは一掃する」
「!! 私はまだやれますよ!」
「俺のせいで怪我もしてるし」
「こんなのなんでもないです!!」
紅夜の名を聞いて、椿は冷静さを失っているように見えた。
「気持ち悪いの全部、消す!」
「椿」
炎がバチバチと色が白っぽく変化し揺らめく。
「だって! あいつが関わってる場所なんて! 私が全部始末しないと! こんな事!!」
「椿」
ポンと優しく、椿の肩に手を置く麗音愛。
ポンポン、とまた優しく繰り返した。
「……でも……」
気持ちは少し落ち着いたようだが、不満はあるようだ。
「兄さん」
「ん~~~……」
「玲央も椿さんも、こういう行動の時はリーダーに必ず従って!!!
個人の欲を満たすためのものじゃないのよ!!」
美子が2人に叫ぶ。
「す、すみません……」
「あ、あ~~いや、その怪我が心配でさ、信用してないんじゃないんだ。
じゃあ俺サクッと行ってくるからさ
よっちゃんサポート頼むわ。玲央、お前椿ちゃんについて」
「わかった、じゃあとりあえず、みんな上に運ぶ」
「オッケー! ま、和やかにな! 剣一班は楽しく朗らかがモットーでいこうぜ!!」
剣一の後を美子が怯えながらも着いていった。




