不気味な廃屋敷!麗音愛と美子で
車のヘッドライトしか明かりのない山の上。
そこに寂れた洋館があった。
「旧稲多邸……こちらに、妖魔の気配を確認。10キロ圏内に民家があることから依頼がきました、が
詳しい事は未確認。そのためランクB……」
美子がアプリを読み上げる。
チラリと剣一、麗音愛、椿の3人を見ても、誰も不気味とか怖いとか言わない事が美子には不思議で仕方がないほど、旧稲多邸は不気味で恐ろしかった。
「玲央、お前ホラー平気だったっけ~?」
「兄さん、俺今どういう奴らと同化してるかわかってる?」
「それとこれとは別かなーってさ」
車のトランクから、一本の刀を取り出す剣一。
「わぁ、それは……もしかして妖刀・綺羅紫乃、ですか!?」
「おお!!なんでわかるの!?椿ちゃん」
「明橙夜明集の本が、私の暇つぶしの絵本だったから……」
「めい……なに?」
椿から出てきた言葉がよくわからない麗音愛。
「108の武器のこと、そう呼ぶの。わかりにくいから108の武器って私は
言っちゃうけどね」
「へぇ」
「見よ!」
ビシッと構えるとスッと刀を抜いた。
「俺の愛刀だぜぃ、これを所有する家がもうなくて保管していたのを
俺が使うことにしたんだ。俺のように天才だと桃純家の力がなくてもある程度は使えるわけ」
剣一の綺羅紫乃は、名前のとおりに少ない光の元でも煌めいている。
「いいな兄さんは、俺はこんな名前も中身も気持ち悪い刀なのに」
「あはは! 気にするな!!」
バシバシ! と威勢よく背中を叩かれ、剣一はリュックも背負って歩き出す。
「……麗音愛……晒首千ノ刀も……あの……えっと」
なんとかフォローをと考えながらも
言葉がすぐ出てこない椿の額にツンと指で優しく触れた。
「キモいのわかってるから、いーんだよ」
「き、きもくなんか……だって……」
その刀と麗音愛に何度助けられたかわからない
椿はそう思うが
なんて言えばわからず考えていると遅れた事に気付き、麗音愛達を追いかける。
屋敷の周りは全員で周った。
玄関に入ると大きなホール。ゲームで見るようなお屋敷だ。
真正面に階段があるが朽ち果て
シャンデリアはとっくに落ちて床に穴が開いている。
もちろん真っ暗だ。
だが、麗音愛と椿は夜でもかなり見える。
剣一と美子はヘッドライトを装備した。
「よーし、ここから
チームで分かれるぞ右と左、だな
なにかあればトランシーバーで、よっちゃん」
「はい」
「勝負だな! 椿」
「麗音愛の10倍始末しちゃうもんねーだ!!」
拳を突き出し合う2人。
「相変わらずね、2人とも……」
「ボロボロだから、足元も気をつけろよ、よっちゃん頼むね!
じゃあ行こう椿ちゃん」
促すように、椿の肩にそっと手を触れる剣一。
「はい!」
去っていく剣一と椿を見つめて、ぼけっと立ったままの麗音愛と美子だった。
「あ、行こうか……俺でごめんな」
「なんで? 玲央のこと頼りにしてるよ……」
「え」
そんな事を言われると思っていなかった麗音愛は驚きつつ
美子が震えているのに気付く。
「美子、大丈夫?」
「うん……ごめん、怖くってこういう場所」
女子高生としては当然な反応だ。
荒れ果てて、転がる壊れた家具や散らばった日用品……
割れたガラス
不気味しかない。
「いつもこんな無理して仕事してるの?」
「無理っていうか……強がってるっていうか……幻滅されたくないから……
あ、ううん、なんでもない」
美子は一途に剣一への思いで白夜団に入り、継承同化までしたのだろうか。
「俺は幻滅もしないし、素でいいよ。背中とか好きなとこ捕まってていいから」
「玲央……」
「ってか兄さんも幻滅なんてしないよ。さ、行こう」
ぎゅっと美子が麗音愛の左手を握った。
「……」
特に何も言わない美子。
なんとなく子どもの頃を思い出す。
でも過ぎ去る風のように流れていく。
「行こうか」
麗音愛もそのまま歩き始めようとすると
「麗音愛!」
と後ろから声が
「つ、椿か、びっくりした!!」
何故か椿も驚いたような顔をして、2人を見た後
「これ、私の炎。思った以上に暗くて照らした方が見やすいと思ったから
5匹、2人の周りに付かせてあげようと思って戻ってきたの……」
ポポポッと手のひらサイズの炎がふっと、2人の周りを照らす。
ぎゅっと、美子は麗音愛の手を握ったまま腕にもしがみついた。
「お、明るいな!助かる!ありがとうな」
「ううん、じゃあ。もし必要なくなったら消してね」
椿はすぐに、ぴょんと飛び跳ねて暗い不気味な屋敷を走っていってしまう。
「すごいジャンプ、はは……良かったね美子」
「う、うん。明るいと少しは……」
「俺らも負けてられないな、無理ない範囲で色々と教えてくれる?」
「あ、うん……妖魔にもランクがあって……」
ボロボロになった絨毯を歩いて行くと、じゅるじゅると廊下の先に気配がする。
「ずっと……形なんてない、最低ランクの……呪いを清めたりそんな仕事ばかりだったの
剣一くんは違ったと思うけど……私は……」
カハーーーッコフーーーーーッと
気持ちの悪い呼吸が聞こえ、蠢く腐った肉塊達が目玉をギョロつかせ牙を向いた。
「キャーー!!」
「美子、大丈夫。椿の炎と一緒にいて」
「玲央!」
すっと雨雲がひいて
寂れたボロボロの洋館の汚い絨毯を月の光が照らす。
スーッとその光は麗音愛も照らす。
照らされても、映されたのは、絶望の黒。
麗音愛がふっと右手を優しく降ろした先にそれはあった。
能力のないものでも見える、黒い霧。
そして晒首千ノ刀。
黒い刀は煌めかない。ただ濁った刀身を、黒い血が滴る様を不愉快に見せつける。
不安に見つめる美子に
麗音愛は微笑んで見せた。
チャキッと構えて飛び立つ。
1,2,3,4,5,,,,,,,
「6っと!!」
6匹斬っての行き止まりだった。
汚らわしい妖魔の残骸を、呪怨が汚らしく啜るのを
刀の一振りで律する。
「玲央……」
汚い廃墟、崩れ落ちそうな不気味な廊下。
そこに立った男は、月明かりに照らされ
刀をすっと自分のなかに取り込んだ。
美子自身がわかる、武器を取り込む時の違和感。
声が出そうになるあの瞬間
ぐっと
右手を握った麗音愛は、声を殺して自分に仕舞う。
「……うっ」
そんなのは一瞬、
そしてすぐ、何もなかったように
麗音愛は、ボサボサに散らばった髪をかき上げ、また美子に微笑む。
呪いが、一瞬剥げたのかのように
月明かりに照らされた麗音愛の一連の動作は美しかった。
憂いを帯びた麗音愛の表情に、美しい横顔に
美子は心臓が高なった。
「美子、浄化を頼める?」
「……」
「大丈夫?」
「あ! うん」
槍鏡翠湖を出した美子は、屈んで札を散らして
呪怨が食い尽くそうとした妖魔を浄化していく。
「すごいね」
「そんな事ない……何もできないよ」
「できてるよ、俺にはできないもん」
妖魔の赤黒い、緑にも見えるヘドロのような汚れがキラキラと水色の光になっていく。
麗音愛も屈んで光を眺める。
「綺麗だ」
じっと麗音愛の視線を感じまた心臓がドキリとした。
「えっ!? あ……」
「ん?」
「そ、そうだね、光、綺麗だね」
「うん、さ、他の部屋も行こう」
すっと立ち上がると麗音愛は手を差し出した。
ぎゅっと握って立ち上がる美子は微笑んでいる。
怖いのが少しは落ち着いたかな、と麗音愛も微笑む。
「椿はうまくやってるかな」
椿の炎はゆらゆらと揺れた。
「うらぁーー!!」
「数、把握しといてなー」
床の穴を飛び越え、細剣を繰り出し次々と妖魔を退治していく椿。
麗音愛と美子、手を繋いでくっついていた。
モヤモヤを払うように斬っていく。
「いつ、む、なな、や!!」
「思ったよりいるな、でも俺の出番ないか?」
後ろから歩きながら、聖水を撒いて浄化する剣一。
一通り倒して、ぴょんと戻ってくる椿。
「それ、聖水ですか?」
「ん、そう。俺お手製のね。効くぞ~~~!玲央にかけたらヤバいかも」
ぶしゅぶしゅと泡立ちながら、妖魔の残骸が溶けて消えていく。
そのまま床まで溶け出してしまいそうな威力だ。
「剣一さんすごいですね」
「君の方がすごいよ」
「私は……人間じゃないから……妖魔とおんなじ」
あははと苦笑いする顔が、炎に照らされる。
「椿ちゃんは、可愛い女の子だよ」
「えっ?」
「元気で強くて可愛い、とっても素敵だよ」
「えぇ何言ってるんですか!」
「本当さ、可愛いよ」
そんな事を突然言われ、頬が紅くなる椿。
「な、なに言って……」
「それに頼りにしている」
「頼り」
「助かってるよ!」
「……はい!」
これは弟の役目なのかもしれないが
色々と話したい事もあるし、聞きたい事もある。
いつも笑って明るいのに、彼女は自分に価値などないと
自己肯定感も低いのが剣一にもわかった。
ずっと否定され続けてきたのだから、それも当然だ。
こうして明るく笑える方がおかしいくらいだ。
「そういえば、私のお友達が剣一さんとお話したいって言ってましたよ」
「お!まじか~可愛い子?」
「もちろん、みんなすっごく可愛くて優しい人達です!!私に1番に話しかけてくれた
みーちゃんは、お料理が上手でクッキーをこの前……」
こうやって人の事は素直に褒めて認めることができるのにと剣一は切なく胸が痛んだ。
「いい子だな……」
「え? あ!! いた!!」
突き当りのドアが揺れるのを覗いた椿が声をあげ
飛び込んで行く。
「おい! そんな飛び込んだら!!」
斬り込み、妖魔は退治したがドスッと着地した床がミリミリと音を立てる。
「え」
「言わんこっちゃない!!」
床が抜け、椿が吸い込まれるように落ちていく。
剣一が腕を伸ばして、椿を掴み抱きしめた。
落ちると言ってもたかが知れて……と思った予想以上の高さを2人は落ちていった。




