剣一と白夜団初仕事!
剣一と約束の金曜日。
学校が終わり、夕飯を食べる二人と珈琲を飲む剣一。
「本当は軽くとるくらいのほうがいいけど、君達は関係なさそうだね」
「お腹空く方が怖いよな」
「うん!」
いつもと同じように二膳目をパクパクと食べる。
「仕事終わり、お腹空きそうだよ兄さん」
「帰りに牛丼でもおごっちゃる」
「やった! 牛丼!」
「ぎゅうどん? ギュードン?」
「美味しいよ楽しみにしときな」
「はーい! ギュー、ドン? どんな食べ物?」
ぎゅうっとしてドン! とするジェスチャーをする椿。
「牛の丼って書いて牛丼だよ。牛肉と玉ねぎを醤油と砂糖とかで煮込んだのをご飯にかける」
「牛の! 美味しそーっ」
「泣くべきなのか笑うべきなのか……」
苦笑いしながら剣一が携帯電話を見る。
時間だと、家を出てエレベーターに乗った。
「つーか
よっちゃん来るって話になっちゃってさ」
「よっちゃん?」
「美子が?」
もちろん剣一にとっても幼馴染の美子。
昔から、よっちゃんと呼んでいる。
「そうなんさ大丈夫?」
「椿、平気?」
「うん、ちょっと緊張するけど、だ、大丈夫……だ、大丈夫……」
「本当に?」
「大丈夫だろーよっちゃんだって実際わかってるって。本部派遣だから断れなくてさ」
剣一が車の鍵をくるくる回して二人を愛車のもとへ連れてきた。
大きな白いRV車だ。
「大きな車~!」
「俺の愛車だよーん」
「椿ちゃん、とりあえず助手席座って」
「は、はい」
「よーし夜の恐怖ツアー! 隣町の廃墟へレッツラゴー!! レリゴー!」
「ゴー!」
「勇者剣一とぉ~~♫」
と歌い出したのも束の間すぐ近所の美子の家に着き、剣一がワンコールすると出てきた。
出てきた美子は、ジーンズに皮のジャケットを羽織ってる。
美子の好きな格好とは思えないので防御のためだろう。
「剣一くん、お迎えありがとう」
「いやいや、お疲れさん。後ろでいい?」
「あ、はい……」
美子の好きな相手の剣一の隣に、椿が座っている状況。
三人で後ろに座った方が良かったのでは? と麗音愛が少しソワソワしてしまった。
「玲央、椿さんもこんばんは。今日はよろしくお願いします」
「よろしく」
「は、はい! よろしくお願いします!」
美子はリュックサック一つ。
そうだこの人も継承同化しているんだ、と椿は思う。
「退院してすぐなのに大丈夫なの?」
「うん、怪我はないって言ったでしょ」
「よっちゃんに夜の仕事は、あんま振り当てないようにしてるんだけどな。今日はなんか本部から特別な指示があったの?」
「私がお願いしたんです」
「そうなの? ふーん、なんで?」
剣一に会いたいからじゃないのか……と麗音愛は思った。
「玲央達がいる事聞いたから……椿さんともお話したかったの」
「え!! ……美子さんが私と……?」
そんな事を突然に言われ驚く椿。
「あんな風に始まった縁だから、こういう場の方が話もしやすいんじゃないかと思ってね……」
「美子……ありがと」
麗音愛を見つめ微笑む美子。
美子もまた麗音愛を見つめ微笑む。
見つめ合う二人の気配を助手席にいながらも感じる椿。
隣町までしばらくかかる。
椿は車内という密室で美子がいることに緊張していた。
「椿さん、私ね申し訳なかったと思っているの。色々なこと……本当にごめんなさい」
ふと、美子のほうから話しかけた。
麗音愛も驚く。
「え!? そんな、私は何も気にしていないです!
私の方が巻き込んじゃって、怖い思いさせて……しまって、ごめんなさい」
半分後ろを向きながら頭を下げる椿。
「私も白夜団の一員だからあなたを恨むのも筋違いなんだって……。玲央の事頼まれてたから……ただ、あんな事が起きるなんて思ってもいなかったし覚悟もなかったから……」
「えっ……そうだったのか……美子知ってたのか……」
「あぁ一応そばにいてって俺が頼んだんだよ。図書館の仕事もあっただろ、ついでにと思って。だから頼んだ俺の責任もあるんだ」
あの日、あんな事が起こりうるとは誰もが考えもしなかった。
「剣一くんのせいじゃないよ……玲央、言えなくてごめんなさい」
「ドタバタしてたから、俺も玲央達にきちんと話できなくて悪かった」
「いや、考えればわかる事だし」
「ごめんなさい。私、椿さんのせいにして、自分の弱さを棚にあげたの……」
「美子……」
「そんな美子さん……私があの時……麗音愛のとこに行ったから……私が巻き込んでしまったんです」
「だから椿は何も……悪くないよ、仕方なかったんだよ」
車内が謝罪の嵐になる。
「はいはい! もう君たち全員良い子だから! ね!? みんな謝った! みんな友達! みんな悪くない! いいな? オッケーな? この話は終了ーー!!」
ポチッと今、流行りの曲をかける剣一。
「玲央、なんか話変えろ」
「えぇ!? 俺? えっと……あーじゃあ聞きたかった事でも……こんな時代に化物退治の仕事が公務員として残ってるとは思わなかったよ」
「結局、白夜の話かよ~~まぁ説明するって言ってたからな。 公務員たって、誰もやりたがらない仕事だよ。これからはキツイ・キタナイ・コワイ・コロサレルって益々なるだろうしな」
美子が苦笑いする。
「紅夜が滅んだと思われた時から、妖魔も激減して縮小傾向になってたからな……。引退したり、もう引き継ぎをやめる一族も沢山いた」
「引退? そんな事できるんだ」
「こんな仕事、子どもにさせたいなんて誰も思わんだろ。あ、ここ右かよ~わかりずれーなぁ。ちょっとUターンするね」
運転事情のわからない高校生三人はただ、はい、うんと頷く。
ポツポツと小雨がフロントガラスを叩く。
夜の街から離れ、山道に入った。
「だから今めちゃくちゃ忙しいんだよー! よっちゃんいてくれて助かってるよ」
「そ、そんなぁ」
「高校生に働かせるのも忍びないんだけどさー……ま、給料は出るから。玲央と椿ちゃんも、もちろんな」
「じゃあ兄さんは大学卒業後は、白夜団にそのまま入るの?」
「ま、そうだな。俺が辞めたら白夜が困るからな~~~両親が幹部なのに逃げるわけにもいかないし中学の時にもう決めたから」
隠されていた麗音愛が何も気負う事はないのだが、それでも知らずに生きてきた事が申し訳なく感じてしまう。
「おい、暗いのやめろよ。就活もしなくていーじゃんって思ってるし
貯金もすっげーあるから俺。その金で好きなことできるし俺には合ってるよ」
ひゃひゃひゃと笑う剣一。
そういえば、免許をとってすぐ剣一は車を買った。
俺が自分で買ったんだ。と言い張るが、そんな大金どこにあるんだ。
どうせ両親に買ってもらったんだろう……と思っていた。
「この車も?」
「あ、そうそう。お前疑ってたな、そりゃそうだよな~白夜団での給料でした!お前も稼いで自分で買えよ? 車あったほうが大学生活も楽しいぜ?」
「え……あぁ大学ね……」
自分は椿を俗世に巻き込んで連れてきたのに
麗音愛自身は、なんだか俗世と離れてもう普通の生活が遠くなっていく感覚しかなかった。
「俺が大学に行ってるのもさ、普通に楽しい人生があってもいいじゃんって思ったわけだよ。
今はこんなおどろおどろしい仕事してるけど、いつか平和になったら職なしになるわけだし……。
だから、お前も勉強はやっとけよ。こっちの世界にばかり関わってないで、きちんと一般社会にも足踏ん張っとけ」
「……うん、わかった……」
やっぱり兄さんには敵わないな、と思う麗音愛。
大して年齢も離れていないし、軽くて笑ってばっかりなのに周りから絶大的に人気で……頼りがいがある。
腕を引っ張って俗世に戻してくれた気分になった。
「あ、忘れてた」
「んあ?」
椿の友達に剣一との連絡をせがまれていた事を忘れていたが、まさか美子の前で言うわけにもいかない。
「いや、なんでも……」
「よーし、もう少しでつくぞ。電波なくなるかもしれないから、アプリ入れておいたな?」
「はい!」「うん」
三人とも携帯電話を取り出す。
「よっちゃんお願い」
「はい、じゃあ選択していってね
今回の仕事のコード"REKHy0二57"。
リーダー名スクロールして、咲楽紫千剣一。
人数編成四人。グループ構成……A咲楽紫千剣一、渡辺椿B咲楽紫千玲央、藤堂美子……そうなんだ今回はこのグループ……」
「あーうん、ノウハウ教えるのに、よっちゃん玲央のこと頼むよ。そこだけ入れておけば、後は俺が撃破数やら詳しい妖魔の種類とか報告するから」
「わかりました……」
麗音愛と椿は美子の画面を見ながら、ポチポチと選択を進めていく。
「ゲームみたいだな……って兄さんと椿で俺は美子とか」
「そんな距離離れるわけでもないし、兄さんを信じなさいよぉ
うーんこの山道、いいねぇ!!」
「剣一くん、ちょっと怖い!」
曲がりくねった森の夜道を、剣一は飛ばして登っていった。




