第二章開始 椿の可愛い新生活!!
「ど、どうでしょうか?」
セーラー服姿の椿が咲楽紫千家のリビングでくるりと回った。
「おぉー! 椿ちゃん最高JK!」
「椿ちゃん、マブいぞぉ~」
剣一と剣五郎がはしゃぎ
「とても似合ってるね」
「本当にね……とても可愛らしいわ」
と雄剣と直美が微笑む。
「は、はい」
みんなに褒められ頬を染める椿。
椿は無事に、麗音愛の通う『私立水環学園』に転入が決まった。
「玲央からも、なんかないのかよ」
剣一に小突かれ、ハッとなる麗音愛
「……あ、あぁ、うんピッカピカの1年生って感じだ」
「もう! 2年生だよ!」
「アハハ!」
やんややんやと始まり、大賑わいの咲楽紫千家。
久々の家族団欒だった。
「なんか妹が出来た感じだなぁ」
と剣一が笑いながら言う。
椿の調査も始まったばかりだが、今後は咲楽紫千家での保護だけは決まった。
椿は咲楽紫千の家が大家であるマンションの空き部屋に1人で住むことになったのだ。
だがまだ1人暮らしに必要な事が何もわからない椿なので、当分はここに出入りをすることに雄剣と直美が決めた。
脱走と武器強奪の件も、まだ調査は続いている。
紅夜側が今後どう動いてくるのかも不明だが観察したいならすればいいと、麗音愛は普通の生活をする事を選んだ。
「今日から久々の学校だ!!」
びしっと新品の学ランを着る麗音愛。
「お前もピッカピカの1年生って感じだな、玲央」
「俺はまだ2年生って風格があるし!」
「麗音愛だってな~~いよ! 1年生にしか見えなーい」
「なにをー!」
「いひひ昨日のお返しだもーん」
そう言ってお味噌汁をよそう椿。
「椿ちゃん、おばさん付添できなくて申し訳ないけれど玲央くんになんでも聞いて
もし、学校でなにかあったら私の秘書の佐野さんにお電話してね、じゃあ行ってきます!」
直美がジャケットを羽織り、バタバタと腕時計をしながら出て行く。
「はい! 行ってらっしゃいませ!!」
慌てて玄関まで追いかけようとする椿の肩を掴んだ。
「母さん行ってらっしゃい! 椿、行ってらっしゃいでいいんだよ。ここで言えばいいから」
「でも……」
「いいんだよ、さ、俺もご飯支度するよ、味噌汁ありがとう」
椿は、暮らしていた家でさせられてきた癖が出てしまう事がある。
紅夜の娘ではあるが、名門桃純家の最後の継承者。
世が世ならお姫様。
今でもお嬢様として扱われるべき存在。
なのに桃純家を支えてきた側近の一族が椿を虐待し、使用人のような挨拶をさせたり軟禁していた事実。
それを思うと麗音愛の胸は痛む。
でも椿は明るく笑うのだ。
「椿ちゃん、なにかあったら爺ちゃんにも電話するんだよ~~??」
入院から十日あまり。
剣五郎は孫が増えたように椿を猫可愛がりしており椿もすぐに懐いた。
「はい!」
「椿ちゃん、剣一兄貴にもいつでも連絡くれよー!じゃいってきまーす」
「はい! 行ってらっしゃい!」
剣一もまた、ほぼ手ぶらで出て行った。
なんだか、椿と出会ったあの日の朝を思い出す。
でも不思議なことに、今は椿が横でふりかけご飯を食べている。
「おかわりしなよ」
「うん! ありがとう」
入院中は麗音愛が色々と配慮してお腹いっぱい食べていた椿。
それが咲楽紫千家に来た途端、連れてこられた猫のようにご飯を食べなくなった。
みんなとても心配したが、極度に遠慮した結果だったので『もっと食べなさい』『おかわりしなさい』が全員の口癖になった。
麗音愛は剣五郎のためにお茶を淹れる。
「おぉ、ありがとう」
「じいちゃん、行ってくるね!」
「あぁ行っておいで、気をつけてな」
「「行ってきます!」」
新品の制服を着た二人。
麗音愛の第二ボタンももちろん復活しているが、椿はいつも大切にお守りとして持っていることを麗音愛は知らない。
「クラスは別れちゃったけどさ、一時間目の休み時間に行くから」
「うん……子どもがいっぱいの中なんて初めてだよ。やっぱり緊張する」
「子どもがいっぱいって……面白いな、大丈夫だよ」
「名前は渡辺椿、でいいんだもんね? 麗音愛の従姉妹ですって言えばいいよね」
一緒に練習した挨拶を頭のなかで思い出す。
椿の出生は機密事項になった。
白夜団内部でも桃純の名を出せば出生がすぐバレてしまうので隠すことになっている。
「聞かれたらでいいよ、俺のことは」
職員室の前まで送ったが不安そうだ。
「中に入って、転校生の渡辺ですって言えばすぐ対応してもらえるよ。あとでメールもするから」
「うん……」
椿は初めての携帯電話を与えられたが、メールはまだ苦手だ。
「麗音愛……」
ピカピカの制服を着た椿。
あの時過ごした校舎は、明るく生徒がわいわいと朝の挨拶をしている。
それすら見てビクビクしている椿。
また借りてきた猫だ。
「じゃあ先生のとこまで一緒に行くよ」
「うん!!」
麗音愛はギリギリまでは椿といたが、椿の担任に教室に行きなさいと言われ仕方なく従う。
「すぐ休み時間行くから」
「うん……! 頑張る」
不安そうながらも頷く椿。
椿の担任から心配しないでと肩を叩いてくれた。
「やばい! 俺が遅れる!」
麗音愛が行くのを見送った椿はポケットのお守りを握りしめる。
急いで教室に向かうが5組でふと足を止める。
覗くと美子が、皆に囲まれてワイワイと話をしていた。
麗音愛に気付いて、微笑みながら手を振ってくれた。
麗音愛も頷いて手を振ってまた走り出す。
「おはよー!」
「おぉー玲央」
「サラキン来たか!」
「玲央!」
「あー咲楽紫千くん」
「サラ! おっす!」
お、俺のこと気にしてくれていたのかと麗音愛は少し感動する。
世間のニュースでは悪質ないたずらで窓ガラスが割られた事件の被害者として入院していたのでクラスでもみんな心配していたようだ。
「なぁ! 転校生くるんだって!」
しかし速攻で話題は変えられる。
「女の子が2組に!! 俺さ! さっき見かけたんだよ
めっちゃくっちゃーーー可愛かった! やばい! やばかわーーー!!」
その横に麗音愛もいたのだが
「カッツー、その子は……」
「そんな可愛かったの?」
と口を挟まれる。
「まじだってーーー! 俺惚れた! 一目惚れしちゃったよ!!」
「あー私も見たよ~~でも男子もいなかった? 隣にいたような? あの人も転校生?」
それは麗音愛なのだが……。
「知らん! 男は興味なし! 可愛かったよな!?」
「うん! 可愛かったぁ」
二人の話にワイワイとクラスメイトが群がってくる
「玲央、もう体調はいいのか?」
真面目な西野が、麗音愛に聞く。
石田も大丈夫かーと肩を叩いた。
「うん」
「心配してたけど、メールしていいもんかって考えてさ」
「まじか、ありがとう」
「大変だったな、藤堂さんもだって?災難だったな。なんかあったら言えよ」
「うん、ありがとう」
二人の優しさに素直に感動する麗音愛。
「玲央~俺はあの天使と目があったから!! あの子ともうフォーリンラブしてるかも!! 俺今年こそ脱童貞~~~かなぁ!? 俺、俺、俺さーあんな可愛い子見たことないから! すげすげすげコーフンしてやべぇギャアアアああああ!!」
「カッツーうるせーよ!!」
ワイワイと賑やかな教室。
麗音愛が無事復帰した事が担任から伝えられ、一時限目が始まり終わる。
「転校生見に行こー……って玲央どこ?」
カッツーが言い終わる前に、麗音愛はすぐに二組に向かっていた。
が、二組はいつも以上にワイワイと賑わっている。
話が耳に入ってくるのを聞いていると、どうやら転校生を見に来ているらしい。
人をかき分け二組の教室に入るが、一角がまた人混みだ。
「すみません、今日転校してきた、渡辺さんはどこですか?」
「そこの人混みのなか」
「え!?」
なんと、ごちゃごちゃした人混みのなかに、椿がいると!
「椿! 大丈夫かー? すみません、ちょっと」
遠慮しておられず、突っ込んでいく。
「あ! 麗音愛ー!」
抱きつく勢いで、椿が麗音愛の元にきた。
「れおんぬ?」
「なになに?」
「れおんぬ?」
とガヤガヤと周りが騒ぎ出す。
「麗音愛!!」
「椿、なんかすごいな大丈夫?」
「うん、なんだか、皆さん親切にお気遣いしてくださって……」
「椿ちゃんの彼氏ー?」
「だれだれー?」
「彼氏????」
「二年?」
「あの、俺は椿の従兄弟の9組の咲楽紫千玲央と言います。彼女はこことは違うかなり田舎で過ごしてきたから色々とわからない事も多いと思うので、俺も心配なんです」
椿の周りにいる女子達に伝えなければ! と一気に喋ったら、急にしーーんと静まり返ってしまった。
その場にいる全員の視線が集中する。
麗音愛演説のような雰囲気だ。
「あ、な、えーっとなので二組の皆さん、椿をよろしくお願いしますっ! えーと……椿もとても緊張しているけどっ! ここでの楽しい高校生活を過ごしてほしいので! 何かあったら呼んでくださいっ!!」
「麗音愛……」
緊張のなか喋り切ったが汗が吹き出てきた。
「うぉー! お前のいとこぉ!? なんで黙ってるんだよーーーーー!! そりゃ応援するぜー! 椿ちゃーーん!!最高!!」
カッツーが端っこで飛び跳ねながら手を叩くと、つられたように何故かみんなも拍手をする。
拍手!? と驚くがペコペコと周りに礼をした。
「私達もう椿ちゃんの友達だから、さら……なんとかくん?安心してね!」
「咲楽紫千ってさー伝説生徒会長と同じじゃない?」
「任せて任せて」
「あー渡辺さん、ロリ可愛い」
「椿ちゃんっていうんだ」
「心配いらないからー」
「なにやってんの2組」
「もうみんな、椿ちゃんと友達だよねー」
ワイワイと場は盛り上がり、
椿と麗音愛は2人で呆然としてしまうが
ハッと椿が我に返る。
「麗音愛、ありがとう」
「よ、良かったね」
「これは……普通なの?」
「普通では、ない」
つい麗音愛は断言してしまう。
「でも、みんな椿が来て喜んでるよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
歓迎ムードが信じられないようだったが最後には椿はにっこり笑った。
それを見て安心する麗音愛。
可愛さに悶えるカッツーや男子達であった。




