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色の無い夜に・Colorless Night~最凶妖魔王を倒すため最強呪刀を継承した俺は、魔王に反旗を翻した妖魔姫とじれ恋学園生活しながら妖魔を討つ!  作者: 兎森りんこ
本編第1章 紅い夜に映り黒く墜つる刃

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若葉の風が吹く

 

「玲央!! 起きたの!?」


 父と母も大慌てで駆けつけた。

 病室にいなかったので急変でもしたのかと思ったらしい。


 麗音愛は2人に椿を自分と同じ高校に通わせて自由を与えることを提案ではなく

 取引の材料として使った。

 その代わり、白夜団の一員として今後命令に従い仕事をする約束をする。


「反抗期もない子だと思っていたのにな……」


「父さん」


「いや、お前は自分の気持ちを押さえつけるところがあるから

 父さんは成長したなって思っただけだよ」


「ごめんなさい……」


「謝ることじゃない。

 父さん達が悪かった……」


 そういえば、しばらく父とじっくり話をする事もなかった。

 仲が悪いわけでもなく、良い家族として過ごしていたけど

 父のことに詳しいわけではない。

 会社員で管理職でいつも帰宅も遅くて、働くのが好きな人なんだと思ってた。

 優しくて、もの静かで読書好きで、たまに麗音愛にオススメの本を聞いてくる。

 そんな平凡な父だと思っていた。


「それで……椿さんがどんな対応を受けていたかという事なんだけど

 まだ時間がかかると思うの。今、使用人の方達にも色々と事情を聞いていて……

 お金の事も調べなくてはいけないわ。

 それに学校も行っていないのは、彼女の精神的な理由と書類がきていて……」


「そんな事! 椿に聞けばわかるじゃないか」


「もちろんよ。

 あの日に屋敷から逃げた事も隠蔽されていたの。

 それで今後の住まいなんだけど

 しばらくは、他の一族から咲楽紫千が保護しておくべきと言われているので

 マンションの空き部屋に住んでもらうことにしたわ」


「おー良かったじゃん! な!?」


 隣にいる剣一がゲシゲシと肘でつついてきた。


「う、うん……」


 どうしても、猜疑心が拭えない麗音愛。

 だが自分の守れる範囲にいれば、もう辛い場所に戻されることはないだろう。


「ってか高校生なのがびっくり! 俺中学生? とか思ってた」


「兄さん……失礼……まぁ俺も最初思ったけど……」


「だろー!! でもめっちゃ可愛いよなぁ!!」


麗音愛の首に腕を回して、こちょこちょとくすぐる。


「ちょっと兄さんウザいって、アハハやめろって」


「玲央くん、母さんね

 あなた達は妙齢の男女だから……そこが、心配で……」


「何言ってんの!

 俺達、友達になったんだよ

 母さんのうまい料理も食べさせてやりたい

 ご飯の時は、うちに呼んであげようよ」


 麗音愛は笑い飛ばして言いながら兄を押しのけた。


「玲央くん……」


「椿、めっちゃ食うから!!」


「まじか! え? あの弁当5人前くらいあるの

 俺の分入ってない? 今から取りに行くけど」


「俺と椿の分」


「嘘だろ!」


 やっといつもの息子の笑顔が見れて

 家族団欒の雰囲気が戻り白夜団団長の直美もホッとした顔をする。


しかし椿の今までの対応を聞き、直美は相当に動揺していた。

 この後も対策会議に戻らなければならない。

 直美の仕事も山積みだ。

 そっと雄剣がそんな直美の肩に手を置いた。


  麗音愛は、また病室へ戻ると言いドアへ歩いたが

 ふと振り返る。


「母さん……父さん」


「なぁに?」


「心配かけて、ごめんなさい

  自分勝手なことばかりで……親不孝で……ごめん」


「玲央……」


 直美はすぐに麗音愛を抱き締めた。

 

「女の子2人を守って、生きて帰ってきてくれて

 親不孝なこと、ありますか」


「そうだ、よくやった玲央、頑張ったな」


  雄剣も玲央と直美を抱き締める。


「へへ…………へ……うっ……うぅっ」


 色んな感情が溢れて涙になって、頬に伝う。

 恐怖も緊張も、生きる喜びも、変化した今も、身体の痛みも

 それが一気に解けたように涙になって溢れていく。


 止めることもできなくて、嗚咽するまま

 両親に抱き締められ、ただ泣いた。






 その日の深夜、麗音愛は弁当2個、椿は剣一にどうぞと言ったが

 食べなさいと言われ結局3個食べた。


隣同士とはいえ、お互い1人きりの夜。

 向かいの部屋で剣一が寝ずの番を申し出たことと

 処方薬が睡眠薬とは2人は知らず、すぐに眠りについた。


 大学を休んでいるので、ひっきりなしに友人や女の子達からメールがくる。

 そんな携帯電話を放り投げ

 術式の本を読む剣一。


 自分に何ができるのか考え

 自分のできる範囲で、それをやる。


 自分に何ができるのか考え

 自分のできる範囲で、それをやる。


 何度も心で唱える。それを守るのが死なないルールだ。


 今はできる範囲を増やしたい。

 強くならなければ。


子供のころの誓いを

 思い出したように剣一は、本を読み漁った。





 翌朝、麗音愛は美子が目を醒ましたと看護師に聞いて個室を訪ねる。


「はい」


「おはよう……」


そっとドアを開けると、美子がベッドにいた。


「玲央……」


「あ、あの今大丈夫かな?」


「うん……待って椅子を」


「あ! いい俺がやるから、安静にしてて」


 客用の椅子をガタガタと出して、座る麗音愛。

 若干、緊張しソワソワする。


「……来て、くれたんだね……」


「え? ……そりゃ、うんそうだよ」


「私、怪我一つしてないの!かすり傷もないんだよ?」


 あははと美子は笑う。

 だが、麗音愛は安堵の息を漏らした。


「そっかー良かった、良かった……怪我なくてよかった……」


 自分が椿を連れて抜け出る時、身体がバラバラになる痛みと戦った分

 不安があったが

 あの結界は美子を無事に戻してくれていた。


「だから元気なの、心配しないで」


「……でも、ごめん色々と怖い思いさせて」


「玲央のせいじゃないのに、なんで謝るの?」


「えっ」


「あの子が謝ることでしょ」


「……俺は」


 美子は麗音愛の方を見ずに、壁を睨んでいる。


「俺は椿が起こした問題は、白夜団の問題でもあるって思うんだ。

 あの子には一切責任のない生まれの事で

 幽閉して、いらない存在だって言って

 学校にも行かせないでさ、ハンバーグ食べたら目輝かせてさ

 誕生日は嫌いな日だって、生まれた事が罰だって言われて……そんな目に合わせて

 紅夜が生きてるって気付いたのに誰も聞いてくれなくて……」


「……」


「それで紅夜を殺すために、家を抜け出して継承者達に話をしに行ったら

 そこでも酷い仕打ちを受けて……男のフリして髪を切って

 俺が女なら聞いてくれるかもってその思いで来たんだよ」


「……」


「もし、美子が継承者だったら……女の子同士で仲良く話ができたのかな……」


「聞いたの」


「えっ?」


「私が白夜団の団員だって言わなかったけど

 何をされたのか聞いたの。朝に……」


 麗音愛の方を見ないで、窓の外を見た美子の瞳が潤む。


「酷かった……」


「え……」


「そんな奴らと同じ団員だと思いたくないほど

 残忍で……」


「なにをした」


「暴力、監禁、レイプ紛い……彼女が私達を殺そうとしてもおかしくないって思った……」


「椿が……」


 まだ詳しく聞くには落ち着いた時間がなかった。

 それに女の子として、言いたくない事があったとしたら自分が立ち入らず

 プロに任せた方がいいのではとの思いもあった。

 でもそこまで……白夜団で武器を扱う人間達がどうして……麗音愛は怒りで奥歯を噛みしめる。


「でも、でも私は帰りたかったんだよ

 死にたくなかったの!!

 あんな可哀想な子でも、一緒にいたら殺されるって思ったら私!私!!」


 美子の瞳から涙が溢れる。

 そうだ、また美子の気持ちを置いてきぼりにしてしまっていた。


「美子! 俺が頼りなかったから、ごめん……!!」


「怖かったの、死にたくなかった……!」


「いいんだよ、それが普通だよ

 美子は悪くない」


 泣きじゃくる美子に、立ち上がり少し手を伸ばしたら


「玲央……!」


 引っ張られ、美子を抱き締めてしまった。

 ベッドで泣く女の子と前かがみの男子のバランスは悪いがなんとか転がらないように、幼馴染の背中を撫でる。


「悪いのは紅夜だ。

 美子は何も悪くないよ」


 子どもを慰めているような感覚で自分は恋愛感情も、もう死んでしまったのかもしれない。


 ずっと抱いてきた恋心は寂しい孤独な自分に、少しでも目を向けてくれる女の子への憧れと感謝だった。


 ただただ大切な存在。

 今までも、これからも……。


「玲央……」


「自分を責める必要はないから……ね?」


「あの人……私を恨んでない?」


「椿が? まさか、またお話できたらいいなって言ってたよ……」


「……そう……優しいね……」


「うん」


 そっと、美子を支えたまま離れる麗音愛。


「椿も学校に行くことになると思うんだ」


「え……うちの?」


「うん……勉強頑張ってもらって試験に受かればだけどねアハハ

 白夜団にも入ることになった」


「そう……なの」


「だから……話せるようになったら、いつか話してみてよ」


「玲央」


「うん」


「…………また図書部にも来てくれる?」


「当たり前だろ!」


「良かった」


 離れた腕がまた引かれる。

 今度はもっと抱き合うように、麗音愛の背中に腕が回される。


「美子……」


「もう少し……こうしてて……


 約束守ってくれてありがとう……」


「……うん……」


 温かいぬくもり、変化は止まらないが

 この生命の温かさは変わらないことを感じ、知った。





「おーい椿いる?」


「はーい」


 麗音愛が椿の個室に入ると窓の壁を利用しながら腕立てをしている椿がいた。


「え! 安静にしてないと!」


「ん? もう治ってるし」


「だめだって、ベッドに入って」


「はーい」


「お互いずっと事情聴取で疲れたよな。ほら、差し入れ」


 売店の袋を椿に差し出す。


「あ! サイダー!!! に、これは? ポテトチップス? 芋?」


「食べたことない?」


「うん、ない!! 袋がパンパン! 開けてもいいの?」


「もちろん」


 珍しそうに袋を見る椿だが縦に開けようとしたので

 麗音愛が開けてあげた。


「わっガサっと入ってる……

 いただきます!!

 え! 美味しいーーー!!! パリパリーー!!

 美味しいーー! わー美味しい!!

 ありがとう!! これって特別なものだよね!? いいの!?」


「いや、売店に売ってる」


「えーーー! すごい!! 美味しい!!」


 何度言っても止まらないらしい。


「ね、椿」


「はい」


「あのさ、ちょっと気になったことがあって」


「なぁに?」


「椿って名前、俺もとっても綺麗だなって思うんだけど

 罰姫って、呼び名を知らなくて……似てるからさ、大丈夫かなって」


「……麗音愛、そんな事気にしてくれてたの?ありがとう」


 サイダーも開けて、嬉しそうに飲む。


「だって傷つくだろ。もう絶対そんな呼び方させないけど

 思い出したら……嫌だろ」


「似てるから」


「え?」


「あんな可愛くて綺麗な花が椿っていう名前で、罰姫って呼び名に似てて

 私もびっくりしたの、

 でもね! 椿って名前にしちゃったら、今まで罰姫って呼ばれた過去が

 椿って言われたって思えるかなって」


「……」


「みんな私の事、椿って呼びたかったんじゃないのかな?って

 罰姫って呼ばれた過去を全部変えちゃったの

 えへへ、1人よがりの、こじつけなんだけど……」


 恥ずかしそうに、椿は笑った。


「椿……」


「これからきっと過去も変えられるよね?」


「えっ」


「だから、椿って呼んでほしいの」


 とても綺麗な笑顔。

 花を見た時のように、見惚れる笑顔だった。


「……うん、とっても綺麗な名前だよ」


「えへへ……麗音愛もね! 私1人で食べちゃうよ! ポテトチップス」


「あ、それは食い過ぎ!」


 慌てて手を伸ばし、

 病室で騒ぎすぎて看護師に怒られた。


 過去が変えられるなんて

 そんな事を言う人は今までいなかったから

 麗音愛はとても驚いて

 そして、新しい始まりを感じた。


 たった

 たった数日前のこと

 何も知らなかった

 それで幸せだった。


 知ってしまった今


 怖さも不安も沢山ある。


 でも知って良かったと思えるように生きていく。


 自分で自分の行く道

 を選んでいく。


 戦いのなかに幸せがあるなら、戦うまで。


「学校楽しみだね」


「うん……!」


 青い若葉が揺れる、爽やかな風が吹く。

 始まりの季節を煌めく太陽が祝福しているかのように見えた。


 でもまた、その影で蠢く紅い闇は2人を更に過酷な闘いへと誘っていく――。







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― 新着の感想 ―
[良い点] ただただ椿が健気、れおんぬが健気…(泣) 2人とも超過酷な運命を背負っているけど、これほど幸せになってほしいカップルはいません [一言] 遅読ですがのろのろと読み進めさせてもらいます!
[一言] 色々驚きの連続でした! 美子さんに、ご両親………無事帰って来られたと思ったら………謎は深まるばかり! でも椿ちゃんよかったぁ(*´∀`*) もう一時はどうなることかと! ほんといい子で、涙…
[良い点] ポテチ食べる椿ちゃんかわいいねえええ(*´艸`*) 過酷な目に遭いながらもがんばる椿ちゃん、応援したい…! 美子ちゃんも、椿のあれこれを少し理解しても厳しい目で見てしまうのは仕方ないかも…
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