罪報告と祖父の涙
「玲央! お前!!」
麗音愛が起きたと、呼び出された剣一が、思わず麗音愛に抱きつき涙を拭った。
「心配かけやがって……」
そんな兄を見るのは初めてだったので麗音愛は少し驚いたが、愛情を感じて嬉しく思った。
すぐに離れると、ポンポンと麗音愛の肩を叩く。
「無事で良かったよ」
「兄さん……ごめん。兄さんのおかげで帰ってこれたよ」
「ん!?」
「紅夜の腹に、穴開けてくれただろ」
あれがなければ、紅夜を斬り落とすことはできなかっただろう。
「おー!! なんたって俺は! 白夜団最強ナンバーワン術剣士だからな!」
そう言って笑う剣一の腕には包帯が巻かれているし、顔にも絆創膏が貼ってある。
剣一は、傷の治らない身で必死に白夜団として戦ってきたのだろうか。
確かに、今思えば部活の助っ人でだの、喧嘩だので生傷が耐えない時期があった。
あれは白夜団での仕事での傷だったのか。
「……これから、色々教えてよ」
「んーそうなっちゃうな、これから。でも心配するな。俺が色々教えてやるよ! 椿ちゃんも! 大丈夫だからね」
「はい」
なんだか剣一がいるだけで、場の雰囲気が明るくなる。
麗音愛がホッとしたように笑っているのを見ると椿もつられて笑みがこぼれた。
「椿ちゃんも、やっと笑ったね。腹減ったみたいだけど、一応診察受けてだな。あと、色々と話しもあるから二人はそれぞれ個室に移る話をしてる」
「別々に……?」
麗音愛の表情が曇る。
「お前らのその、たくさんの繋がれた管とか、色々とらないといかんだろ? お前は良くても椿ちゃんの気持ち考えろよ」
「あ……」
同室でも仕切りはあるだろうが、確かに女の子に対しての気遣いがなかった……。
とは言ってもまだ信用はできない部分もある。
「隣にはしてくれよ。俺まだ信用してない部分もある」
「おう! 任せとけ」
「美子はどうなの?」
「まだ目を醒まさない、お前の事心配してたぞ。自分だけ戻ってきちゃったって動揺していた」
「戻るって伝えたんだけど……嫌な思いさせてしまったな……目を醒ましたらすぐに会いに行きたいから教えてくれる?」
「もちろん」
椿と目が合って、少し気まずい気持ちになる。
美子が椿を置いていったのは一目瞭然だったから。
「椿、美子は……」
「全然、何も。美子さんの行動は正しいと思うもの」
明るく笑う椿。
本当にそう思っている。
あそこで置いていく判断は100人いたら100人がするだろう。
麗音愛は101人目の逸脱した存在だったのだ。
「美子さんが良ければ……またお話できたらいいな……」
「そうだね……きっとできるよ」
麗音愛も色々と美子と話をしなければと思った。
どれだけ怖い思いをさせたか、帰ってはこれたが最後まで一緒に戻らなかったことも謝りたい。
「父さんと母さんは今対応に追われててさ、でも急ぐって」
「わかった。……あの、兄さん、椿が校舎壊したこと気にしててさ」
「すみません……」
「あー窓ガラスと中の教室仕切る壁が穴開いたくらいだし、なんとかなるだろ」
剣一があっけらかんと言う。
「死人が出たわけじゃないし、いいんだよ。物なんか直せるんだし……」
フォローの言葉が麗音愛の胸に引っかかり、下を向いた。
「どした?」
「……兄さん、俺、向こうで人を殺したと思う」
「玲央……」
美子が処置で眠らされる前に、救急車の中で話した事を剣一も報告として聞いていた。
校庭で殺し合いをさせられ、化け物達に襲われながらも敵を倒してくれたと……。
「命を獲らないようにと思って行動したけど、
怪我をさせ結果的に紅夜の化け物に襲われて死んだと思う
その罪はどうなるんだろう……」
「……玲央……人が下せる罰を越えた業をお前は背負う事になって、誰もお前に罰なんか与えられないよ。 俺にも見える。お前の晒首千ノ刀の呪縛が……」
同化してしまったら、二度と解除はできないと言われている。
これから命が尽きるまで麗音愛は晒首千ノ刀と生きていくしかない。
「一秒の隙きもなく、俺に呪怨を囁いて堕とそうとしてくる……でも別に騒音だと思えばいいだけだから」
麗音愛は兄に心配させまいと微笑むが、その後ろにも呪怨はひしめき合っている。
「俺、多分おかしくはなってると思う」
「麗音愛……」
「大丈夫。ただ、死ぬこと生きることをこの刀と同化して……色々と感じたよ。昔と全く違う、死の感覚が……」
同化したあの時の繰り返された恐怖と苦痛の死の瞬間。
あれを感じて、今までどおり無邪気な高校生にはもう、戻れない。
そしてそれを感じて、きっと彼らは死んでいった。
「あそこにいた全員、死ぬことを覚悟してあの場所に来て死んだんだ。玲央達は生き残った。お前が背負う必要なんてないさ。これからも沢山の命を救うために生きていこうな」
「うん……そうだね」
「カウンセリングもあるはずだから、辛い時はすぐ言えよ」
あ、と思い出したように剣一が水のペットボトルを二人に渡した。
水を喉に流し入れると、ふーっと知らぬうちにため息が溢れる。
「私が余計なアドバイスをしたから、麗音愛はその刀と一緒になっちゃったのかな……」
「椿が気にすることないよ。あの修行の前からも、俺はもう染まってたし、同化も俺が望んだんだから」
「じいちゃんと俺も誤算だったんだ……同化の前に、使役して使える段階があってそれでも戦えるから……同化なんて簡単にできるものじゃないからな」
「あ、じいちゃんは?」
「だからさ、椿ちゃんのことも確認に行ったあとお前のこともあって落ち込んじゃってさ……」
「!! なんで! じいちゃんどこ!?」
「えっと……ってお前、まだ動けないだろ」
「は、早く先生呼んで!じいちゃんが……」
「呼んでるよ、今来るから」
「そ、そっか……」
ぐっと布団を握りしめる。
「麗音愛、お祖父様のこと大好きなんだね?」
「両親とも忙しかったから……2人ともただの会社員だと思ってたけどね
じいちゃんが面倒見てくれて小さい頃から可愛がってもらってた……」
そういえば、祖父も自分が中学生になる頃には忙しく動き始めるようになった。
本当は両親と同じくらい忙しかったのかもしれない。
医者が来て、措置が終わると麗音愛は病院に設けられていた白夜団関係者に用意されている部屋に向かった。
椿が1人で大丈夫だと言うので剣一も後を追う。
ドアを開くとソファに座った剣五郎がいる。
「じいちゃん!」
「おおお、れおんぬちゃん」
立ち上がろうとする剣五郎に麗音愛は手で止め向かいのソファに座った。
「なんだよ! 俺のとこにも来ないで」
「向ける顔がなくて……すまないな……本当に……」
剣一はお茶のセットを見つけて、煎茶とコーヒーを淹れ始める。
多分、剣五郎は飲み物すら口に運んでいないだろうと気遣いだ。
「何も気にすることないよ」
「……言い訳になるが、あの学校敷地内は土地的に守られている場所で、儂らが戻るまであそこで刀と共にいてくれれば普通の日々がまた続くものと思っていた」
「そうだったんだ……」
あの日の朝を思い出す。
剣五郎は今は、下を向き悲痛な顔をして、酷く小さく見える。
「すまない……お前に……過酷な運命を……」
「謝ることないよ。俺が全部、自分で選んだ道だよ。じいちゃんが気にすることないし、刀を持たせてくれて良かった。 美子も椿も守れて帰ってこれたよ」
「……玲央……」
「だから、どうか何も気にしないで」
「……」
「これから、戦うよ。俺は刀の継承者として、じいちゃん達と」
ぐっと拳を握って力強く笑った。
「れおちゃん……大きくなったな」
「そうだよ。まだまだガキだけど、俺だって成長してる。だから元気出して!!色々教えてくれないと困るよ!」
「あぁ……あぁそうだな、ありがとう玲央……」
やっと剣五郎の険しい顔も少し和らぐ。
「かっこいいじゃんか! さすが我が弟!」
「剣一もお前には継承させられない、と中学生の頃から修行と手伝いを始めてな……大した歳も離れてないのに怪我もしながら、よく頑張ってくれてる……」
「え」
「じいちゃん!俺のイメージ逆ぶち壊しすんのやめてぇー! 重い話イヤーーー!!」
「兄さん……ごめん」
「お前が謝る話じゃないだろ。隠されてたってのもショックだったろうし気にするな。玲央が言ったように、俺だって全部自分で選んだ道さ」
「立派な孫二人、幸せ者だ儂は」
剣五郎はそう言って、涙を拭った。




