俺達、友達になろう
ピッピッピッと連続する機械音
「ん……」
椿が目を覚ます。
白い天井
この音が出ている機械が目に入る。
「何が一体……わ、私は!」
ガバッと起き上がろうとすると
左手を誰か握っている。
ギョッとして、そちらを向くと
「れ! 麗音愛」
近い距離に置かれたベッドに麗音愛が寝かされ
がっちりとその右手で椿の左手を握っている。
「麗音愛……本当に……? どうして……」
もう二度と会えないと思っていた。
自害しようとして阻止されて……
そこからの今のこの状況は……
全く理解できない。
手は温かいから、もちろん生きてはいるようだが……。
「麗音愛! 麗音愛! どうなってるの!?」
紅夜のところに連れてこられて2人で眠らされていたんだろうか
もし、そうだったとしたら
麗音愛だけは解放してもらわないと……。
右手に刺されている点滴を歯で引いて引き抜く。
「目が覚めましたか!?」
シャーっとカーテンを引いて
看護師が現れる。
ハッ !と首元を確認すると
首飾りはそのままになっていた。
武器の珠とボタンはある。
細剣は……自分の中に感じる。
同化して存在している事に安堵した。
「動くな!!」
「きゃ!!」
右手に細剣を構え、ギッと殺気を放ったので看護師が腰を抜かした。
その後ろから兄の剣一が慌てて現れる。
「お前らは!? 麗音愛に何をした!!」
「待って待って!!!
椿ちゃん、でいいのかな?ここは紅夜のとこじゃないよ!
君を守る組織の方だから! 白夜団の病院
俺は玲央の、麗音愛の兄だよ」
「えっ」
「麗音愛が君を連れて、紅夜のところから脱出した
ここは病院だよ
大丈夫!! 元の世界だよ!!
麗音愛は、この通り、生きてる。無事だよ」
剣一がガーッと部屋のカーテンを開けると
もう夜ではあるが、紅くない。空に月が見える。
「あれから……どうやって……」
「それは、わかんないや
でも、玲央が君を連れてきて君を白夜団が守るように言ったんだ
その時からずっと手を離さないから、仕方なくこのまま……痛くない??」
確かにがっちり握られているが、その手は温かく痛みはない。
「大丈夫です」
「そろそろ玲央も起きるとは思うけど、死にかけてはいたからな。
継承同化してしまったから、刀のチカラですごい回復力だった。
椿ちゃんもね」
「私は……化け物の娘だから」
ざっくりと怪我を負った部分も、もうくっついているようだった。
すぐ治るとあの家では、よく殴られた。
白夜団……108の武器や自分を管理していた団体……。
「……白夜団がこれまで、君にしてきた事
同じ組織の俺達は、全く把握していなくて……
それは許されることではないけど、これからきちんとした謝罪と今後の君への対応の説明があるから今はとにかくゆっくり休んで……」
「よく……わからないのですが
謝罪って……?」
「君が今まで受けてきた対応には問題があったんだ」
「それは……私が罰姫だから……仕方ないことで……あなた達からしてみたら
悪い憎い存在だもの。生きてる価値がないってわかっています。
今回、色んな事をしたから……どんな罰があるのか……
でも麗音愛を守ってくれるなら
どんな罰でも受けます。殺されても仕方ない……」
「椿ちゃん……君……」
剣一は、椿の心が歪ませられている事を知って心が痛んだ。
「?」
「君への罰なんて、事にはならないよ。間違っていたのは白夜団の方だった。
もし何か償いがあるとしても人道的におこなうはずだ。
まぁ話は長くなると思うし、とりあえず今は休もう
悪い話じゃ絶対にないからさ」
「は、はい
ありがとうございます」
ぐーーー!
椿のお腹が鳴った。
「あわわっ」
「お腹空いた?
じゃあまず、医者を呼んでこようか」
「あ、あの」
「うん?」
「ご飯より……まだ少しこのまま……休んでていいですか」
「うん、じゃ何かあれば
そのボタン押してね。あ、点滴だけ一応刺し直してもらおうよ」
「あ……すみません」
剣一は看護師を呼んで、改めて看護師を紹介し椿も謝罪をした。
右手なので不便だろうがと、そんな話をしてまた点滴の針を入れた。
「色々とありがとうございます」
「いいんだよ、いつでも……玲央が起きたら呼んで?」
「はい」
「じゃゆっくり休んで」
そう言って、剣一はニコリと笑って出て行った。
空腹ではあるが麗音愛のことが気がかりだった。
握られた左手の先に、麗音愛が眠っている。
色々な機械に繋がれてはいるが、自発呼吸はしているようだ。
頬に大きなガーゼが当てられているが
改めて見ると綺麗な肌に、整った顔立ち、濃い睫毛。
「……やっぱり綺麗な人だな……」
あの時、もう自害しようと決意して
紅夜の部下に捕まって絶望した瞬間しか覚えていない……。
でも誰かに抱き締められていたような気もする……。
「麗音愛、麗音愛……」
上半身を起こした椿が声を掛ける。
「麗音愛……大丈夫?」
ピクリとも動かない。
「麗音愛……」
刀に心を飲まれてしまったんだろうか。
逃げられたということは、どれだけの戦闘をしたのか検討もつかない。
もし心を呪怨に食い尽くされたとしたら……。
晒首千ノ刀には詳しいわけではないが、闇堕ちなんて話をしていたので冷たい汗が出てくる。
「麗音愛お願い、起きて……」
無理に起こしてはいけないかもしれないが、どうしても不安だ。
長い睫毛が揺れた気がした。
「ん……」
「れ、麗音愛!」
「ん……う、、椿!!」
手が繋がったまま
ガバッと飛び起きる麗音愛。
「麗音愛!」
「つ、椿……!! ここは」
「病院だって、白夜団の?
麗音愛のお兄さんがさっき来たよ
ここは安全だって」
「あ……あ!」
麗音愛が飛び起きたので手を繋がれた椿が自分のベッドからずり落ちそうになっていた。
「ご、ごめん!!」
パッと離すと椿はまたバランスを崩してベッドから落ちそうになるが
そこは持ち前の運動神経で手すりに捕まり回避した。
「ほっ」
「ごめん! 俺なにやって」
麗音愛は手を伸ばしたが色々な機械に繋がれて、あまり動けない。
「大丈夫!
大丈夫! こんなの全然なんでもない」
「ごめん」
「いいの、ありがとう」
「椿は元気……?」
「うん……麗音愛は」
「俺も元気だよ」
じっと見つめ合う2人。
と言ってもお互い無意識に無事レベルの確認をしていた。
目はある。手はある。足もある。
そんな事をしてしまう戦いを越えて今、生きている。
とりあえず、怪我も治りつつあるようだ。
麗音愛は頬のガーゼを取ると、そこには傷もなにもなくなっていた。
やっと安堵の微笑みが出る。
「……わざわざ私を助けに来てくれたの?」
ぽつりと椿が話しだした。
「うん……」
「……ありがとう」
椿は目が熱くなるのを感じる。
あんな状況から……やっぱり戻ってきてくれたと思うと胸にこみ上げてくる。
「あの時先に行って、ごめん」
「あのままで、良かったんだよ。お別れも言ったのに」
「そんな事できなかった」
「ごめん……今……嘘ついた
あそこから逃れて嬉しい……。
本当に本当にありがとう
たくさん怪我させたんだよね
たくさん痛い思いさせて……。
どれだけ御礼を言っても足りないよ
どうやって何をして御礼すればいいか……」
椿の瞳から、涙が溢れる。
「そんなものいらないよ
椿……俺の方がありがとうなんだ」
麗音愛は辺りを見回してティッシュの箱を見つけると手を伸ばし
椿に渡した。
「麗音愛が私に?
御礼言われる事なんて何もしてないよ」
「そんな事ないよ。椿がいなかったらあの世界から抜け出せなかったし
椿のおかげで色んな事がわかった……。
俺からの感謝も受け取ってほしい……ね?」
「……うん」
ティッシュで涙を拭くと、椿は少し微笑む。
「椿、
俺達、友達になろう」
「友達……?」
目を丸くする椿に、今度は麗音愛が微笑んだ。
「そう、そして
これから普通に学校に行くんだ」
「学校……」
「そして勉強したり美味しい物食べたり
色んな物を見たりしよう」
「学校……美味しいもの……」
椿の目がキラキラと輝くが、すぐに下を向いてしまう。
「でも……牢屋に入れられるかも……」
「そんな事させないよ。椿にも権利がある
あの世界から出た時に白夜団の団長にその話をした。
そして認めさせたから紅夜達からも椿を守っていくよ」
「そ、そうなの?」
「うん、大丈夫
安心して、生きていこう」
「いいのかな? 私は……人間じゃないのに……」
「俺だって、もう人間なのか
わからない
でも、俺は犠牲になんてならない
椿も、だ。
だから友達になって
これから色々勉強しようよ
椿はどうしたい? 椿のしたいように、俺も協力するから」
「罰姫なのに?」
「罰なんて、椿が受けることない。もう、そんな呼び方は絶対誰にもさせないよ
友達の俺がそんな風に椿を呼ぶやついたら、許さない」
「いいの……?」
「もちろん椿の望むように。無理強いはしないから」
「う……うん!!
友達! 私、初めてだよ
勉強したい!!
麗音愛と学校に行きたい!」
「行こう!」
「うん!」
パァッと椿が笑って
麗音愛も笑顔になった。
「これからもよろしく!」
「よ、よろしくお願いします」
ベッドに正座して、深々とお辞儀をする椿。
「そんなかしこまる必要ないよ」
「えへへ……」
だが、座り直した椿の顔がまた曇る。
「でも……脱走して、武器を奪ったり
美子さんや麗音愛に怖い思いさせて学校壊した事は償わないと」
「……椿だけの責任ではないと思うけど
その時は、俺も一緒にいるから」
「麗音愛……」
「白夜団にも償わないといけないことはある」
「……」
少し重苦しい空気になったその時
ぐーーーっ!
とまた、盛大に椿のお腹が鳴った。
「ご、ごめんなさい。お腹、すいちゃった」
それにつられたように、麗音愛のお腹も鳴った。
ふふっと2人で笑う。
「俺も!! ご飯食べよう! 腹が減っては戦はできぬだ」
「うん!」
「そういえば、髪すごい伸びたんだね」
「ん? あ、本当だ」
椿の赤茶色いキレイな髪がサラリと揺れた。
現実世界に戻ってきた2人を月が優しく照らす。




