黒い天使~脱出の先、驚愕の事実~
そこは、麗音愛の現実の高校の校庭。
爆発事件のため警察消防、野次馬が集まるなか。
封鎖され目隠しされた一角で救出作戦のために集まった白夜団、麗音愛の祖父、兄、両親も集まっていた。
現実世界では美子救出から、関係者達は恐ろしく時間が経ったように感じていた。
男子の救出失敗という報告で絶望の中にいたからだ。
「なんで玲央だけ脱出できなかったんだよ!? もう一回できないのかよ!?」
「剣一落ち着け! あれは中からも術者がいてこそ……」
「俺がそっちに行くことはできないのか!?」
麗音愛の兄、剣一は取り乱し叫ぶ。
突然、ザワザワと動揺の声が聞こえ始めた。
「な、なんだ」
「何か現れたぞーーーー!!!」
美子が出現した、グラウンドの土の地面。
真っ黒く時空が歪み
そこから異形の者が現れた。
黒い翼の……なにか。
禍々しく身体は呪怨に覆われ闇が蠢くように見える。
椿を守りながら結界を抜け出し、衝撃でまた身体は無数の傷を負ったためだった。
ただ少し見える顔半分は天使のようだ。
何かを庇いながら、這いずり出たあとも立ち上がることなく倒れ込む。
「黒い天使……」
「玲央だ!」「息子よ!!」
麗音愛の家族が声を上げる。
「救助しろ!!」
「咲楽紫千の次男だ!!」
「救助対象者だ!」
絶望のなかからの奇跡の出現。
わっと皆が集まる。
だが!
「来るな!!!」
麗音愛は必死に、晒首千ノ刀を駆け寄る人間達に向けた。
「玲央!?」
「俺たちに近づくな!!!」
刀を向けた腕から血が流れ落ちる。
「玲央! 俺だ! 剣一だ!」
「お前らはなんなんだ!? 白夜団か!!」
じわじわと羽の周りから呪怨が滲み出て鎌首をもたげる。
それを見た者は恐れで一歩、二歩と後ずさりをした。
「玲央……やはり晒首千ノ刀と同化……なんてことだ……お前が」
祖父の剣五郎が悲痛な顔をする。
「玲央、俺たちはお前を」
「何故! 椿を……紅夜の娘にこんな仕打ちをする!?」
「な」
その時、麗音愛が片手で抱きしめているのが少女だと気付く。
少女もボロ布に包まれ、意識はなさそうだ。
「あの少女が罰姫?」
「こんな場所に? 何故」
「罰姫なんて呼び方するな……!!」
息も絶え絶えのなか、叫び声が響く。
少女はぴくりとも動かない。
死んでいるのだろうか……と思う者もいた。
「紅夜の娘に生まれた事はこの子の罪か!? お前らが正義の味方を語るなら、何故こんな事をした!?」
「玲央! 落ち着けよ!」
「落ち着くもなにもない!! 何故か聞いている! 幽閉して、虐待を繰り返し、こんな子にそんな事をしていた白夜団を俺は信じる事もできないし、許さない!!!」
「幽閉? 虐待?」
「そして、俺に全てを隠し続けていた家族も許さない!! 返答次第では、白夜団を滅ぼす!!」
少しずつ再生されていく麗音愛の顔が悲痛に歪む。
美子には、守るためだったとは言われたが、それを素直にありがとうと言える気持ちは今の麗音愛にはなかった。
白夜団への猜疑心と、家族全員に隠し続けられていた重い事実がただ胸に突き刺さる。
死闘のあとで精神ももう限界をとっくに超えていた。
「玲央……」
愕然とする剣一の横から、すっと女性が一人前に出た。
「玲央!!」
「……母さん……」
それは麗音愛の母だった。
「玲央……」
一歩ずつ、そっと麗音愛に優しく語りかけながら近づいていく。
「卑怯だ!! 母さんをよこして説得するっていうのか!! 白夜団の責任者が出てこいよ!!」
麗音愛は母親に対しても睨みつける。
悲痛な顔をする母。
「玲央……母さん達がね、白夜団の責任者なの」
「……え?」
「そんなに酷い怪我をして……」
近づくと一層、麗音愛の怪我の様子が見えた。
「母さん??」
「母さんがね、白夜団の団長、咲楽紫千直美なの」
「なにそれ……母さんは法律事務所で働いてって……なんで母さんが……」
直美は、麗音愛の瞳を見つめて涙を溜める。
「ごめんね」
「なにがだよ!!」
「ごめんなさい」
「なんで黙ってた!? 守るためなんて……そんなの言い訳だ! ずっとずっと騙してきたのか!! 俺は、俺は……俺は……家族じゃないのかよ」
「違うわ!!」
「俺は……ずっと1人だけ知らなくて……どうしてさ……生贄だったのかよ……」
「大切な大切な私の子供よ! あなたが生まれて、みんなとーっても喜んで、とてもみんなを幸せにしてくれた。でも、あなたが特別な呪いが掛けられて生まれてきたってわかったの」
「……見てもらえない……呪い……」
ぽつりと麗音愛が呟く。
「玲央……それも知ってしまったのね……可愛くて、可愛くてたまらない、可愛いあなたを誰もすぐ忘れてしまう、心に残らない……。
何をしても、解術できなかったの……。だから、母さんね、少しでも、誰かの心に残ってほしくて……。 キラキラした名前を付けちゃったのよ。名前だけでも覚えてほしくて……。
麗音愛……ごめんなさい……」
「そんな……」
麗音愛の名前にそんな母親の想いがあったとは、気付けるはずもなかった。
「こんな呪いがあるだけでも辛いあなたを守りたかったの。みんなで決めたのよ! これ以上みんなの宝物のあなたを巻き込みたくない、守りたいって小さい剣一ですら、そう言ったのよ! だから、秘密にする事にしたの!! 大切だから以外、本当に理由はないのよ」
泣き崩れそうになる直美を、直美の夫、麗音愛の父親の雄剣が支えた。
「父さんも、じいさんも、剣一もこんな闇の世界をお前には見せたくなかったんだ。紅夜も滅んだとして白夜団も縮小され……そんな時だった」
「父さん……」
「でも、私達の失態よ、紅夜は滅んでいなかった……そして最悪の形であなたに知られ、同化継承まで……させてしまった」
ジワジワと再生してくる身体。
いつの間にか、麗音愛の頬を涙が伝っている。
家族に向けた刀も、もう地面に落ちていた。
だけど、ボロ布に包まれて眠っている椿を見るとまた怒りが沸いてくる。
「でも! じゃあ何故この子はこんな仕打ちを受ける! 俺には優しい家族が、なんでそんな差別するんだよ!! 母さんが責任者なら答えてくれよ!」
「それは……ごめんなさい。許される事ではないけれどその子がそんな事をされているということを知らなかったの……本当よ……母さんもそれを聞いて今……動揺しているわ」
「彼女を任せていた一族にすぐに確認をとらせる! 玲央、その子も怪我をしているんだろう? 早く病院に連れて行こう! お前もボロボロじゃないか」
雄剣も麗音愛に手を差し伸べる。
「椿が普通に生きる、普通の子供のように生きる。それを約束しろ。またこの子に今までのような事をすれば俺は、許さない」
「わかっているわ、もちろん……もちろんよ! とにかく治療を受けて、そしてきちんとお話しましょう」
両親より前に、兄の剣一が玲央を恐れることなくまた一歩踏み出し近づく。
攻撃されないか一瞬緊張が走るが、麗音愛は黙って兄を見つめた。
「玲央、俺もじいちゃんも証人だ。俺だって女の子をそんな風に扱っていたのが事実なら許せない」
「じいちゃんもすぐに確認に向かうからな!!」
剣五郎も叫ぶ。
「だから、玲央、心配するな。もう戻ってこい」
「玲央、お願いよ!!」
「……わかった……白夜団が今度は椿を守る誓いをしてくれ……」
「あぁ、そうしよう! お前のことも必ず守るから」
「美子は無事……?」
「もちろん無事だ。今病院にいる」
家族全員と目を合わせ、ふーっと止まっていた呼吸が戻ったかのように肺に空気が入った気持ちになった。
本当に今、肺が再生されたのかもしれない。
安堵感が胸を包む。
「……よかった……」
目眩がして、椿を抱いたまま倒れ込む麗音愛。
「椿……もう大丈夫……だか……ら」
また闇へ誘われるかのように意識を失った。
「玲央!! 早く病院へ……!!」




