死闘!黒と紅
麗音愛が名を叫ぶ。
「椿っ……」
ルカもカリンもいなくなった場所に横たわる椿。
刀を握った右拳で結界を打ち壊して、そっと抱き起こす。
椿の髪が伸びている事に気付いた。
自分のいない間に何があったのか……。
「椿……椿……」
「お前はさっきから、一体誰の名前を呼んでいる?」
「!!」
一瞬で肺から空気が無くなったような悪寒。
後ろに紅夜が立っている。
「なぁ? 椿って、誰の事だよ」
心臓を鷲掴みにされたような、動物として、最悪の敵
睨まれたら死ぬと、細胞が知っているような。
だがしかし、
此処で怯え死ぬために、自分は戻ってきたわけではない!!!!
ふーーーっ深く息を吐く。
椿を守る――!!
結界を……椿も美子も、こいつらも使っている結界、自分にもできるはずだ!!!
「おい?」
自分の身など、どうでもいい!
振り向きざま、刀を紅夜に突き出す。
その瞬間に、結界を生み出そうと念じる。
「出ろ!!」
呪怨がまた弾け飛び、そのまま化学反応のように棘が無限に繰り返し伸び
茨の森のように、椿の周りを囲っていく。
出来た!! 出来たぞ!!
自分には力がある!!
確信できた、そのまま紅夜に斬り込んでいく。
「なに! あいつ!! 紅夜様に!!」
ジャリーーーーン!!!
何も持っていなかったはずの紅夜が晒首千ノ刀と刀を交える。
肉塊と鮮血から生み出されたような、真紅の刀。
「恐れ多い……」
紅夜のナイト達は、みな青ざめ狼狽える。
「紅夜様!!」
それでも紅夜の元へ向かおうとするナイト達に、麗音愛が吠える。
「邪魔を……するなぁあああああ!!」
麗音愛と紅夜の周りに次々と黒い棘が地中から突出し行く手を阻んだ。
「地獄ですか……」
ルカが慄く。
「ハハハハハハ!!」
「!」
「面白い! 面白いなぁ!!!」
紅夜の柘榴石のような瞳と、麗音愛の黒曜石の瞳が睨み合う。
「面白くもなんともない、この子の名前は椿だ!!
椿を、返してもらう!!」
ドーン!!と天から紅い雷が落ちる。
「こいつは俺の娘、寵だ」
「それでも、この子はあんたの道具じゃない!!」
ジャリっと紅夜が手首を翻すと、斬撃が生まれ
それだけで麗音愛の胸から血が流れ落ちる。
「なぁ……? お前達人間も、道具として子孫を残す
お前も例外ではないだろう……? お前も道具だ、白夜団の道具として生まれたはずだ」
一撃をまた二撃、三撃で返され、えぐられ、蹴り飛ばされる。
「ぐっ」
「ほら」
腕が裂け、血が吹き出す。
「道具がただ、壊れていく……ただ血と肉の道具……」
「あんたには、あんたにはそうでも俺には違う!!!」
紅夜に対して牙を向いていた呪怨が黒い霧のように飛散する。
「毒だ!」
手当を受けていた闘真が叫ぶ。
「ふふふ……ははは……毒か」
「俺が死にゆく者で、あんたが肉を生み出す者なら効くはずだ」
「まぁ、心地よい刺激だ」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
麗音愛は飛んだ!
呪怨の翼で突っ込んでいく。
二度、三度、四度斬り込む。
その度に自分の肉もえぐれていく、それでも。
紅夜がどうとか、もう、そんな事はいい――。
過去も未来もどうでもいい。
今、椿を助け
次の今も生きていく。
その次の今も、椿が選んだ今を見せてやりたい――!!!!
食い下がることはなく、斬り込んでいく。
跳ね返され、血が吹き出ても、その次を撃つ。
「誰1人道具なんていない!!」
「ほざけ」
ドーーーーーーーーーーーーン!!!
紅い雷と、紅夜の斬撃がクロスして麗音愛を直撃した。
爆音と爆炎と、肉の焦げた臭いと、紅い煙が辺りを覆う。
その真ん中に、倒れ込み、裂け焼け焦げたように動かない人間の体があった。
「ふん」
コーディネーターが紅夜に駆け寄る。
「紅夜様」
「行くぞ、余興は終いだ。あの刀だけは回収しておけ」
「は、はい」
さすがに動揺を隠せないコーディネーターだったが、数名の部下に指示を出す。
散々な初仕事だ。
紅夜は、そのままコツコツと歩いて
茨に囲まれた椿の元へ歩く。
「まだ、迷うか亡者どもめ」
出したままの真紅の刀を茨に一振りしようとした、
その時
ヒュル……!
「なっ」
紅夜の、腹に空いた穴に後ろから黒い一本の線が打ち込まれる。
ビュル
ビュルビュル……ッ!!
それは一瞬で、どんどんと太い線となり増殖していく!
「!! これは」
振り向くと、死体と思っていた焼け焦げた指先からそれは伸びていた。
「咲楽紫千!!」
焼け焦げた掌がぐっと握りしめると、椿を守っている茨の棘も、周りに突出した棘も一斉に紅夜に向かい癒着し腹部から絡めとれられる!
「紅夜様!!」
腹から繋がれた紅夜は一瞬身動きがとれなくなる!!
「紅夜あぁああああああああああああああああああ!!!!」
麗音愛は身体を一瞬で再生し立ち上がる!
呪怨に包まれ、紅夜に斬り込んだその時、露わになった身体と
顔も左半分が黒い渦に包まれている。
魂が飲み込まれる!
それでも!!!
呪怨が絡まった
空いた腹の穴から刀を紅夜の右肩へと斬り上げる。
「紅夜様あぁああ!!」
そのまま
翻し
心臓から左腹部めがけて斬り落とした。
ドサッと紅夜の上半身が切り落とされ地に落ちた。
瞬時に呪怨が絡みつく。
「お前は……」
落ちた上半身のまま、紅夜は地に落ちたまま麗音愛を見上げる。
黒に包まれ支配されつつある、少年。
もう全て再生され、元の美しさが右顔でだけ判別できる。
「やはり、どこかで逢っているような気がするな……」
「椿を連れていく」
「寵は、お前ら白夜団に幽閉されていたんだぞ……」
「……俺が、そんな事させない……」
「今も俺はお前を殺せるということをわかっているのか」
「わかってる。
お前との計画とやらを彼女が望むなら、それでいい
無理強いは許さない。
そして俺だってお前を殺せる」
「ハハハハハハハハハ!!!」
見え透いた嘘に
紅夜の笑いが紅い空に響く。
「じゃあ、お前は何ごっこをするつもりだ?」
「彼女が望むように……。
どうせ、あんただってこの世に戻ってきたんだ。人間ごっこに混ざるんだろう?」
「……調子に乗るなよ」
「じゃあ、未来永劫戦おう、
俺の呪怨に俺もお前も、お前の部下も取り込んで
この闇が食らい尽くす
快楽もない、無もない闇に漂って永遠に殺し合いをしようか
何百何千何万と死ぬ瞬間の夢を何億回も繰り返し
何度死んでもまた蘇る、この刀の胡蝶の夢に
この場にいる全員を道連れにする」
麗音愛はそう言うと美しく微笑んだ。
紅夜はいくらでも、できただろう。
激高し攻撃することも、部下を使うことも、
だが、ただ麗音愛を不気味に感じた。
こんな感情は初めてだった。
そして紅夜達のような存在からして、それは称賛に値した。
紅夜が笑う。
「それと寵を天秤にかけるというのか?」
「そうだ。椿を元の世界へ帰す。そして……彼女の選んだ道へ」
「つまり、世界平和より寵を選ぶと……?」
「…………」
「世界平和のためなら寵の命より俺の殲滅を選ぶだろう?
その胡蝶の夢へ俺を誘えよ」
「…………」
麗音愛の刀は動かない。
「お前自身が生きたい欲があるということだ!!」
「……!」
「ハッハハハハッ!!!! 面白い! 面白い! 咲楽紫千の若造
いいぞ、お前の観察日記をつけよう」
「ふざけるな!! 俺たちに二度と近づくな!!」
「そういうわけにはいかない……俺の娘だ……
俺を求めて……帰ってくるさ……
ふふふはははははその時が楽しみだ
連れて行け!
放牧するさ、寵はそっちに帰ったら、白夜団に殺されるだろうがな」
「そんな事はさせない!!」
「お前の瞳が濁るのを見るのが楽しみだ
寵を選んだことを後悔する時がくるだろう」
ぎりっと紅夜を睨みつけるが、紅夜は笑ったままだ。
「紅夜様ああ!!」
包帯を巻いた闘真が突っ込んでくる。
「邪魔をするなっ!!」
麗音愛は叫び、覇気をそのまま呪怨の攻撃に変えると闘真が吹っ飛んだ。
そのまま歩き進んで、落ちていたボロ布も拾い
茨の中で眠る椿を抱きかかえる。
「この子の名前は、椿だ。この子が決めた
これから、この名前で生きていく」
「ほう」
「俺は椿を守って生きていく
白夜団が、椿を苦しめるなら、潰す
お前らも、わかったな。次は殺す」
闘真が麗音愛を睨みつけたが
答えを待たないまま、麗音愛は黒い翼で紅い空へ飛び立つ。
振り返ることもせず、この紅い世界から。




