火揺れる華2人恋想い ◇
あの日、椿の誕生日。
死闘の前夜に花火をした屋上で
2人スーツとドレスで踊るなんて考えもしなかった。
椿の手を握る。
緊張して、ステップも何もできているかもわからない。
ただ壊さないように
手を椿の背に添えて
大切に、大切に一歩ずつ踊った。
椿の炎も2人を守るように舞う。
自分の胸の中にいる、女の子。
ふと、上を向いた椿が
照れながら微笑んだ。
可愛くて、切なくて胸が痛くなる。
この距離が、
この友達以上の距離が欲しくなってしまった。
椿が親友の関係を望んでいても
やはり止められないと、強く感じる。
いつでもこの胸の中の距離でいたいと望んでしまう。
誰の傍でもなく、自分の傍にいてほしい。
ゆっくりと、闘いの時のよう自然にお互いの呼吸を読んで
思いやり足を踏む事もなく……。
そして静かに、曲が終わった。
「えへ……麗音愛とっても上手だね
ありがとうございました……」
離れてしまった手。
椿はお姫様のようにスカートを持ち上げてお辞儀した。
「……椿……お姫様みたいだ」
「え?」
罰姫なんて呼び方をされている事を知ったあの時を思い出す。
そんな呼び方をする奴は許せない。
椿を傷つける全てを、滅ぼしたくなる……。
「……童話に出てくる、お姫様みたいに、綺麗だ……」
「……麗音愛……そんな……」
「本当に、そう思う」
驚いた顔をした椿の瞳が……潤んで輝いた。
「じゃあ……麗音愛は王子様みたい」
頬を隠すように、恥ずかしそうに言う椿を見て
また溢れる愛しい気持ち。
「……椿」
麗音愛が手を差し出すと、椿も気付いて手を差し出した。
でも踊るつもりではなかった――。
麗音愛は跪いて片膝をつき、その椿の手をとった。
いつかこんな絵本を見た気がしたから。
今日なら、今なら、許される。
こんなに素敵なお姫様の前なら……。
「麗音愛……?」
揺れる、椿の瞳を下から見つめた。
手は触れたままだ。
許してほしい、という混ざる気持ちもまだあった。
それでも全部吐き出そうと、そう決めたのだ。
真剣な瞳で見つめる。
「椿……」
「……はい……」
炎が、揺れる。
「俺は、椿の事が好きだ」
「え……」
「俺の、恋人になってほしい」
「れ、麗音愛……」
戸惑う椿の瞳が、胸を刺す。
「……椿の本心で返事がほしい
振ってくれても構わない。
その時でも親友として、椿を幸せにしたいと思う。
どんな立場でも、絶対に守り続けると誓うよ。
……だから椿の心のままに、返事を……してほしい……」
そう言い終えるまで、真剣に椿の瞳を見つめていたが
言い終え、冷たい風が吹いて……
麗音愛は色々な想いで、下を向いてしまう。
沈黙が……2人を包み
その短くても長い沈黙が、麗音愛の心を切り刻もうとした……。
「麗音愛……」
椿は、麗音愛の手を握ったまま
ペタンと座り込んだ。
跪いていた麗音愛より、下から椿が涙目で覗き込む。
「……本当に……?」
「……嘘なんかつくわけないよ……」
「……でも、でも……私……私は……惑わす……」
「魅了の力だって……?」
「ど、どうしてその事……」
「俺は、魅了の力のせいだって別にいいと思ってる」
「……麗音愛……」
「それで、俺達どれだけの事一緒に乗り越えてきた?
どれだけ一緒に闘って……一緒の時間いたんだよ」
あの日から、ずっと……。
2人の記憶が一気に流れ
椿の瞳から、涙が溢れる。
「俺と椿の時間が、幻惑だの嘘になる事なんてない」
「……うん……」
「でも俺は、本当に無力で
紅夜を倒すにも、まだまだなんにもできなくて」
「……っそんな……」
「紅夜を討つまで、告げられないと思ってた……でも」
紅夜を討つまでは……そう言わずに言おうと思った想い。
「でも今、傍にいてほしい……
2人で……一緒に……」
紅夜を討つ、
それまでの時間を独りで耐えられなかっただろうは、椿だ。
「……麗音愛……」
ポロポロと涙が溢れる椿が、握っていない片方の手を麗音愛に向けて伸ばした。
「椿……」
想いが溢れて、その手を握り引き寄せ
包み込むように、抱きしめて座り込んだ。
溢れる温もり。
「麗音愛……本当に……夢じゃないの……」
「……本当だよ……椿が、好きだよ……」
腕の中にいる、椿がとても小さく感じて……とても愛しく思った。
「でも……魅了の呪いかも……」
「今の俺の気持ちが魅了だの呪いだって言うのなら
これから先何十年かけてでも、俺の気持ちだって証明していく」
「麗音愛……」
「……椿の気持ち……教えてほしい……」
そうは言いながらも、腕の中にいる事実だけでも……幸せに満ちていた。
「……わ……私も好き……」
「……椿……」
心に、暖かい灯が点る。
「ずっと……好き……大好き……。
恋だって……わかったの……
でも……私なんて……好きになってもらえるわけないって……思ってて……
親友だから……壊したくなくて……でも苦しくて……」
辿々しい椿の言葉は
まるで自分の気持ちを代弁しているかのようで。
「親友でいたいのに……
麗音愛の傍に女の子がいたら、苦しかったり……悲しかったり……
でも……友情が……壊れたら……麗音愛に嫌われたら……
私、生きていけないから……」
こんなにも自分と同じ気持ちでいたのかと、
麗音愛も涙が一筋、溢れてしまう。
「……椿、泣かないで……」
「麗音愛……うん……」
「俺もずっと同じように思ってた……
大事な親友の関係を壊して……ごめんね」
椿が麗音愛の胸でぶんぶんと首を振った。
「俺の……恋人になってほしい……」
「……わ、私……化け物の……娘なのに……
こんな……のでも……いいの……?」
「俺だって、もう化け物と同じようなもんだよ……
それでも、いい……?」
「麗音愛が……好き」
「俺も……椿……椿が大好きだよ……」
ぎゅっと抱きしめると、椿も麗音愛を抱きしめた。
あの日の花火の時を思い出す。
暖かくて、暖かくて……
自分が此処にいて、いいと思えるこの温もり。
あぁ自分は
あの時からもう、ずっとこの子が好きで
なんだのかんだの理由をつけていたけど
ただ、この子に恋をしていただけだったのかもしれない……
いや、そうなんだ……。
胸元で泣く椿の髪を、そっと撫でると
椿が上を向いた。
涙で滲んだ瞳で微笑む、また頬を涙が伝った。
麗音愛の瞳も潤んで、でもつい微笑んで、長い睫毛が揺れた。
そしてまた2人、抱き締め合う。
白い月が、椿の炎が、揺らめいて、2人を照らした――。




