淡い期待は打ち砕かれる?
美術部内の自分のアトリエで、デッサンをする佐伯ヶ原。
ノックの音がして、返事をする。
「なんだ……藤堂か」
「なぁに、その言い草は。お疲れ様、はい、夕飯」
美子が夕飯時用に搬入された出来たてピザとコーヒーを見せる。
「夕刻からのダンパ始まってんだろ」
「うん、もう大盛りあがりだよ」
「踊る相手もいねーのかよ、図書部長さんは」
「美術部長さんと同じでね」
「はっきりフラれたんだなぁ、お前……」
「ちょっと、少し協力したからって、お前呼ばわりはやめて。
あなたも同じようなものでしょ。
もう、汚いわね、机の上……」
机の上に積み上げられた美術書を適当にまとめスペースを作る美子。
「おい」
「加正寺琴音のドレスの件、もっと詳しく聞かせてよ」
「調子に乗るな……ったく、小猿は?」
「わからない……でも、玲央がいるから、大丈夫よ」
美子は優しく微笑んだ。
「……そうだな……」
麗音愛を見送った後
アトリエでデッサンに夢中になり、カーテンも締めないままだった。
いつもは真っ暗な校庭が見えるだけだが、今日は暖かな光と笑い声と音楽が耳に入ってくる。
佐伯ヶ原は木炭を置くと、美子の用意した夕食の前に座った。
その下の階では丁度、椿がスリッパも履かずに走り回っていた。
何やらイベントかと勘違いして追いかける生徒もいたりと、更に鬼ごっこのような状況が悪化していたのだ。
「お、お腹空いた~~!!
そういえば、引き換えてない食券がいっぱい……」
椿フレンズはドレス姿の体型を気にして、紅茶やクッキーをつまむ程度。
逆に椿は、ダンスパーティーで楽しみといえばご飯くらいだったので
色々な食券を買っていた。
「椿ちゃん! こっちこっち!!」
麗音愛に似た声、背格好に思わず立ち止まる。
サッカー部部長の川見だ。
サッカー部の催しがやっていた保健室の隣の教室の前だった。
「川見先輩っ、私今……」
バサリ……とドラキュラが羽織るようなマントを上から被せられ
サッカー部の1年生が椿があっちへ行ったと嘘の誘導をする。
バタバタと皆がその言葉に釣られて去っていく。
「……はぁ……」
「災難だったね、椿ちゃん」
「ありがとうございます……あはは、なんだか……疲れちゃいました……」
「そのまま
マントはかぶっていた方がいいよ。秘密の隠れ場所があるから
そこにはご飯もいっぱい用意してあるよ」
「……隠れ場所、ですか」
「うん、まずはゆっくりそこでご飯を食べてゆっくりしてから
ダンパを楽しもうよ」
「で、でも……私は麗音愛を探しに体育館に……」
「そう、今から行くのがそこだよ、体育館の音響室」
「え! 本当ですか」
「うん、じゃあこれをかぶって、俺が手をひくよ」
少し椿は迷ったが、そこに行けば麗音愛に会えると
頷いた。
椿の手を川見が握ろうとしたが、スリッパを履いて椿は
『歩けます』と
マントを自分でかぶり直し
まるで布を巻いたような姿で川見の後をついて行った。
◇◇◇
裏方の決められていた範囲を飛び越え雑用をしていた麗音愛。
決められた仕事をするために体育館へ戻ると
既に優雅な音楽に乗せて男女ペアでのダンスが始まっていた。
いつも見る同級生や、先輩後輩が皆
別人のように踊っている。
「お、石田……くく……緊張し過ぎだ……」
ダンスの輪のなかに、石田を見つけた。
埴輪のように踊る姿は笑えたが、自分も人を笑えるレベルではないだろう。
自分が踊りたい女の子――。
ダンスを踊ろう、なんて誘えるとは思ってはいない。
今頃、椿は何をしているのだろう。
少しでも会えるだろうか、帰り道……一緒に帰る事はできるだろうか。
とりあえず足早に体育館の音響室に入る。
「お疲れ様です。外の照明もろもろ、やってきました」
「あー咲楽紫千君、お疲れ様!
外の手伝いまでありがとうねー! 君ってすっごい頼りになるんだね!」
「いえ、そんな」
実は何かと裏方や手伝いをしているのだが、もちろん呪いで
皆の印象や記憶は消されてしまう。
「うん、それでさ!
これから休みに入っていいよ!」
「え? でも、どう考えても……人足りないんじゃ……」
「いーのいーの!
ちょっとこっちも……うん。んで、君にお客さんがそっちで待ってるよ」
「えっ」
麗音愛の胸が高鳴った。
あの梨里のお茶会の夜に、椿に言った言葉……。
もしかしたら、その言葉通りに会いに来てくれたんだろうか。
いや、困った事があったのかもしれない。
それなら全力で力に……。
色々な想いが一瞬で駆け巡る。
「あの、ごめん……お待たせ……」
音響室の中に作られた休憩用や着替え用のカーテンを
少し緊張しながら開き覗いた。
「玲央先輩っ」
「加正寺さん」
和服をモチーフにしたようなゴージャスなドレスをまとい、笑顔の琴音がそこにいた。
麗音愛の緊張が一瞬に解ける。
自分の中で、人を前にしてガッカリするという経験を初めてした。
どういう表情をしていいのか、困り沈黙してしまう。
「先輩、休憩しましょう!」
「え、っと……俺まだ、仕事が」
と言った背後に、音響の2人が立っていた。
「いーよいーよ!
ずっと働いてもらって、加正寺さんがお迎えに来てもらって
行かせないわけにはいかないよ!!」
「そうそう!! さぁさぁ!! 楽しんで! いってらっしゃい! 早くどうぞ!!」
「え、でも……わっ」
「はい、いってらっしゃーい!!」
急かすように音響室から追い出された。
「あれ、琴音ちゃんじゃない?」
「あ、ねぇ加正寺琴音だよ」
体育館にいた生徒達が朝から噂になっていた琴音の出現に注目しだす。
「えへ、玲央先輩~」
ぎゅうっと、琴音が腕を組み、
麗音愛にも一気に視線が集まり、更に会場がどよめき始めた。
「ちょっ……!! 加正寺さん、まずいって!」
麗音愛は、さっと振りほどくと一直線に廊下に向けて走り出した。
「あ~ん……先輩~」
琴音も困ったように、麗音愛の後を追いかける。
一瞬
『あのイケメン誰?』『加正寺琴音が連れてきた芸能人?』
など盛り上がったがすぐに次のダンス曲のなかに消えていった。
女生徒達と、楽しみながら踊っていた龍之介も2人を見ていたが
特に何も言わずに踊り続ける。
その耳に、次の予定の『告白タイム』参加者集合のアナウンスが流れた。
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