ダンスパーティー~それぞれの~ ◇
そしてダンスパーティー当日。
裏方は午前中に集合する。
白夜団団長でもある母親の直美が、スーツ姿の麗音愛のネクタイを結んでいた。
「自分でできるのに……」
「嘘おっしゃい、学ランでネクタイなんてしないじゃない」
「本部に行く時に着るし、覚えたよ」
「……そうね、そうだったわね……」
あの病院での一件は、雪春は完全に隠蔽したようだ。
伊予奈を椿が助けた事は知っているようだが、最近は顔を合わせる機会も少なく話には出していない。
直美は随分痩せたように感じる。
「ふふ、いい男よ!」
ポンと肩を叩かれる。
「おお~いいな、玲央。男前だぞ」
「父さんまで、やめてよ。俺はこんな派手なの嫌だったし……」
光沢のあるグレーのスーツにネクタイは赤。
麗音愛には恥ずかしいほど派手に思える。
「派手なもんか。剣一なんて水玉模様だったぞ」
「ドットって言ってよ父さん、玲央送っていかなくていいのか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
「おお、玲央君いいじゃないか~どれパチリ~」
「や、やめてくれよ。じいちゃん! どうせボヤケるのに!」
家族が全員揃って、まるで七五三気分だ。
結局、家族写真を撮らされた。
「しっかり、女の子の事エスコートするのよ」
「母さん、だから……」
「鹿義さんでも、加正寺さんでも、美子ちゃんでも
女の子はしっかりエスコートしてあげるのよ」
反論するのも、と麗音愛は言うのをやめた。
椿の名前を出さないのは、相変わらず家の事にこだわっているのだろう。
「はいはい、じゃあ行ってくるよ」
「楽しんでおいで」
「ありがとう、父さん達もたまにはゆっくり休んで」
今日は両親も久々の休み。4人でランチに行くというが
自分を見送るためだとわかっている。
「おう、玲央
真剣勝負! してこいよ!!」
ニヤッと笑う剣一。
手のひらを出されたので、叩くと良い音がした。
家族に見送られ、家を出る。
紅夜が復活して、麗音愛が同化継承し咲楽紫千家は変わってしまった。
だが、いい家族だと麗音愛は思っている。
学校へ着けば
今までの準備の成果とばかりに飾られた校内。
体育館でも、音響や余興のリハーサルなど沢山の人で賑わっていた。
あの土曜日から1週間、椿とは他愛も無い登下校の話で終わり
雪春の事も聞いていない。
「で~、ここの告白タイムの時に、音楽切るんでライト、ここね~!」
ステージでベタな告白タイムの説明をする放送係。
そこにサッカー部の川見がジーンズ姿でいる事に気がついた。
「あ、椿ちゃんのイトコ君……」
こちらにも気付かれてしまった。
告白タイムの参加者は飛び入り参加だ。
裏方でもない川見が何故……。
「川見先輩はどうして……」
「え? あ!!俺は、ちょっと手伝いだよ!!
じゃあ、俺も支度しないと! 裏方お疲れ様!」
川見は笑って、去っていく。
まだまだパーティーまで時間はあるが
無頓着な麗音愛とは違い、汚れないようパーティー前にスーツに着替えるつもりなのだろう。
椿には断られているのに、今でも椿にアプローチしている。
『いつまでも未練がましい情けない男』
そう思ってやりたいが、ブーメランとして刺さってくるような気がして考えるのをやめた。
「玲央! おーっす! まぁダンパ裏方やって、俺らも楽しもうぜ!」
「おう!」
「……そうだなぁ~やるか……」
石田の横で
美子に告白をして撃沈した西野も、笑顔を見せた。
◇◇◇
麗音愛は先日、美子に断りの返事をした。
今までとは違うカフェ。
もう少し落ち着いた喫茶店に自分から誘った。
珈琲の湯気が揺らめき、静かな音楽
春から2人での時間、色々な事があった。
家族だけではなく、幼馴染との時間も変化した。
「……うん、わかってたんだけどね」
「……ごめん」
「ううん、私の方がだよ……。
自分勝手ってよくわかってる」
「そんな事、俺は気にしてない。
俺に、好きな子がいるから。だからだよ」
その言葉が意味する事が美子にはわかる。
「……玲央……うん、良かった」
美子は微笑んだ。
誰が見ても、綺麗な笑顔だと思う。
「玲央と椿ちゃんが解放してくれた人生。
私も一生懸命頑張るね。ありがとう」
「俺も頑張るよ。ありがとう」
最後まで美子は笑顔で、麗音愛も微笑んだ。
それまでの、何をしても忘れられてしまう存在ではない。
確かに、美子の中に自分という存在を感じられた。
人として関わり合う意味がまた、わかった。
晒首千ノ刀を継承し、奪われた平和。
戻れない日常。
確かではない未来。
それでも、この道を選ばない選択肢はなかった。
◇◇◇
「おう! 美男美女!!」
高校生達を送り、そのまま家族ランチに行く予定の剣一は
着飾った梨里と龍之介を見て、拍手した。
梨里は小麦色の肌に合うマーメイドラインの真っ赤なスリット入りドレス。
龍之介はクロコダイル柄の黒のスーツだ。
「夜の街にいそうだな……まぁよく似合ってるよ」
「もっと褒めて~剣兄~!
剣兄も来ればいいのにさ~」
梨里は剣一に抱きつくが、まぁ剣一も拒絶はしない。
「すっげ~可愛いよ梨里。
俺が行ったら俺が主役になっちまうだろ~」
「にゃは、そうかもねぇ」
「うっぜ。玲央はもう行ったのか?」
「あぁ朝イチでな」
「ドレスの椿を俺の前に放り出すとか……あいつ敗走宣言か?」
「まぁお前もほどほどに頑張れよ。
んで……お姫様はまだかな?」
佐伯ヶ原が、椿の部屋から出てくる。
スーツを着ているが、中はセーターを着ておりネクタイも締めていない。
『こんなパーティーに興味はない』と言ってるようだ。
そしてその後ろを、慣れていない仕草で
ゆっくり付いて出てくる椿。
「お……」
淡い花畑のような色とりどりのシフォンが何枚も折り重なったドレス。
アップした髪も椿が似合うように、ほどよくカールした髪が下がり、
カメリアの髪飾りが光る。
それよりも少し薄化粧された椿は、
透き通る肌に、桜色の唇。何より瞳が憂いに輝き
魅了の妖魔王・紅夜と、絶世の美女と言われた桃純篝の娘として一瞬だけで
待っていた3人を、美しさに魅入らせた。
「……え? あ、ど、どうしたんですか?」
気付けば3人が自分を見ている事に気付いた椿は、いつもの笑顔で慌てる。
「姫~~~やばかわ! あとで写真一緒に撮ろうねん!」
「あはは。恥ずかしいよ……。剣一さん、今日はお願いします」
「あぁ……いやーこれは~俺がコーディネートした時の何倍もまた麗しくなっちゃって
誰の影響かな~??」
「やあだぁ剣兄、えろー」
「俺のプロデュース力ですよ
っていうか小猿お前リュック背負う気か! アホ!」
「ええ~!? だって荷物が……持っていきたい物があるし……」
いつもの通学用のリュックを持っている椿に、佐伯ヶ原がため息を吐く。
「全く! 用意しておいて良かった、もう靴はスニーカーじゃねえからな!」
「えええ!? もう!?」
「ざけんな!!」
ぎゃあぎゃあ言いながら、一同は玄関に向かう。
ぽーっとしたまま
椿を見つめてた龍之介を梨里が小突いた。




