涙椿
椿は麗音愛から借りたままのマフラーをしたまま
佐伯ヶ原のアトリエをノックする。
自販機であったか~いココアとコーヒーを2つ買った。
追いかけてくる男子達も、美術部の佐伯ヶ原のもとへ行くと言うと
皆が顔を引きつらせ逃げて行ったのだ。
可愛いカッコいいで騒がれている琴音や龍之介よりも
権威的な面では佐伯ヶ原が1番なのかもしれない。
彼の作画を邪魔すれば、世界の宝が生み出される邪魔をする事になると
佐伯ヶ原にぞっこんの美術教師がいつも言っているからだ。
「おせーぞ小猿」
木炭デッサンをしていたらしい佐伯ヶ原は、木炭を置き
手を拭うと
クッキーの箱を出す。
とりあえず2人で甘味補給をしていると
佐伯ヶ原が小さな箱をカバンから取り出した。
「なぁにそれ」
「お前の髪飾りだろーが!!」
「ええ?
そ、そんな、いいのに」
「頭が重要なんだろう! 黙ってこっちに頭向けろ」
言うとおりにすると、じゅわっと椿の頭皮に上質の豚毛のブラシがめり込む。
何も気にせず過ごして散らかった髪が綺麗にブラッシングされ
そこから櫛を通され、編み込みされていく。
「ドレスは届いたか?」
「うん……でも、あんなに可愛いの……」
「この俺が選んでやったんだ
心して着れ」
「はぁい……」
「当日は、お前の家に行って髪をやってやる」
ダンスパーティーは午後から行われるが
麗音愛は裏方という事で朝から行くと言っていた。
本来なら、一緒に行く2人であれば男子が女子を迎えに行くのだが……。
お互いに、もうダンパの話はしていない。
「へへ……佐伯ヶ原君と、一緒にいようかな」
「バーカ、冗談じゃねえよ」
「だよね、へへ」
力ないような笑いをした椿の頭に
ゴンと、佐伯ヶ原はチョップを落とす。
「いたーい!! どうして~!?」
「猿の脳みそで考えろ!」
「だ、だって~……」
「お前は……
ん?
お前そのマフラー、サラのだろう!」
首から外した後、握りしめていたマフラーをまさか指摘され
ボッと赤くなる椿。
「ど、どうしてわかるの」
「当たり前だろ!?
去年と同じだ」
「そうなんだ……」
「俺にも貸せ!」
「なんかやだ!」
「バーロー!!」
編み込みが終わり解放された椿はぴょんと飛び上がり
佐伯ヶ原から距離をとって笑った。
それに佐伯ヶ原がまたマフラーに手を伸ばすが交わしてみせる。
「あはは!」
「猿め!」
楽しそうに笑うのに、また椿の歪む哀しげな顔。
それを見て佐伯ヶ原はため息をついた。
「今度はなんだ」
「え?」
「何、考えてる」
「な、なにも~」
「嘘をつけ、話せ」
「……佐伯ヶ原君には、なんでもわかっちゃうのかな」
「猿の浅知恵なんか、すぐわかる」
「えへへ、ちょっと前に話した。私の家……」
「あー……」
「小さな家を建てて、あっちで暮らそうかなって思ったりしてるんだ」
「……はぁ? ……はぁ?
そんな先の事……お前考えられないとか言うだろう」
佐伯ヶ原は目を丸くしながらも、怒ったように言った。
「……先だけど、先じゃない……」
「いつ」
「冬休みに遊びにって思ってたけど……その機会に
学校もあっちに~でもいいかなって」
「な、何言ってんの? お前」
「小夏さん覚えてるでしょ?
向こうの高校の話聞いたりしてて、いいなぁって」
「そういう話じゃねーだろ
サラは知ってるのかよ??」
先に椿が視線を外す。
「……言ってない……」
「なんのためにそんな事するんだよ
わざわざ、サラと離れてお前何がしたいんだよ」
椿はぎゅっと、麗音愛のマフラーを抱きしめた。
「麗音愛を……」
「うん」
「麗音愛を……騙したくない……」
「騙す……?」
「親友の絆も、嘘だったかもしれない……」
「はぁ?」
「それに……」
キャーと楽しそうな女生徒達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「麗音愛が……他の女の子と仲良くなっても……親友でいられたら
それでいいって思ってたのに……」
椿の頬を涙が伝う。
「……耐えられなさそうだから……」
ぎゅうっとまたマフラーを掴みながら
椿は涙を拭って、ハンカチを取り出してサッとまた頬を拭く。
スンと鼻をすすると、椿はまた取り乱した事を恥じるように笑った。
「……座れ」
「え……? ……うん」
言われた通りに、また椅子に座る。
また涙が溢れてしまうが、佐伯ヶ原は何も言わない。
髪を巻くコテアイロンを出して
シュルシュル……と器用に椿の髪を巻いていく。
いつもは鏡を持ってろ、と言われるが今日は言わない。
「……当日は学校までは一緒に行ってやる」
「……うん……」
アップにされた髪に、
クリスタルガラスで出来たカメリアの髪飾りが綺麗に輝いた。
いつもありがとうございます
麗音愛との別れを考え始めてしまった椿。
言わない佐伯ヶ原は何を思ったのか……。
皆さまの応援で頑張れております。
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