突然の同居
「今週末に、椿ちゃんの部屋に下宿という形で
鹿義梨里さんと、釘刺龍之介君が住む事になったのでよろしくね」
学校帰りに迎えに来られ
1人で白夜団本部に来た椿に、団長の直美がそう告げた。
「え……わ、私の部屋に……?」
「えぇ、転校するって本人達から聞いてなかった?」
「それは聞いてました……」
「あちらの親御さんから見てもひとり暮らしはまだ心配でしょうしね。
椿ちゃんには決まってからの報告になってしまって、ごめんなさい」
「……いえ、あんな部屋に住まわせて頂けるだけでも
ありがたい事なので……」
確かにファミリータイプの4LDKの部屋は
椿の部屋として1室しか使われず、リビングもほんの少しのスペースに
テレビやソファなどこじんまりと置いているだけ。
でも、そのスペースは
麗音愛と2人でゲームをしたり、勉強をしたりと
椿にとって大切な場所になっていた。
そこにあの龍之介と梨里が……。
心臓が痛むが、にっこりと微笑む直美に椿も微笑み返した。
「あの、龍之介君って
かっこいいわよね、ちょっとワイルドで」
「えっ?」
「同じ年齢の男女が一緒に暮らすということで
きちんとルールは守ってもらわないといけませんけどね~。
なんだか、鹿義さんのお嬢さんが玲央の事を気に入ってくれてるみたいだし困ったわね」
そうは言うが、直美はずっとニコニコと微笑んでいる。
「は、はい……」
「知ってた?
この前の旅行で玲央と梨里さん何かあった?
椿ちゃんも応援してあげてね」
頷くしかできない椿。
「受験生にはなるけれど、少しはね。高校生の楽しみというか。
剣一と違って、あの子は真面目過ぎるから」
そう言うと、直美はふいに立ち上がった。
つられて椿も立ち上がる。
「今度、学校でダンスパーティーがあるんでしょ?
これ、カタログなのよ。
お友達と選ぶならそれでもいいんだけど、ここのドレス
とても可愛いって評判なんですって。何を注文してもいいのよ」
「でも高いですし……」
「何も遠慮しなくていいの」
ふいに、直美に抱きしめられ驚く椿。
「あなたを大切に想っているのよ、椿ちゃん……」
「おばさま」
いつだったかも抱きしめてくれた事を思い出す。
スーツごしでもふんわりと、柔らかい温もり。
優しい良い香り。
母の篝の事を思い出した。
カタログの入った紙袋を下げて
事務所を出ようとすると、秘書の佐野さんが困ったように
麗音愛が下に来ている事を教えてくれた。
「やっぱり何回考えても……
どうかと思う」
「仕方ないよ……ね」
2人でラーメン屋のカウンターに座り
大盛りの野菜とんこつ味噌ラーメンをすすりながら
直美に言われた事について話した。
「あの家は椿の家だし
あいつらは、勝手にどっかに住めばいいだけなのに……」
よりによって、あの2人。
「しかも龍之介なんて男だぞ。おかしいだろ……。
あ、ごめん椿に言ってるわけじゃないんだ」
「うん、わかってる
私も釘差君はちょっと苦手……」
苦手と聞いて、少し安心する。
何度も椿に対して手を出すような言動や行動をしていた。
そんな男が椿と一緒に暮らすだなんて
言葉にした以上に麗音愛も動揺している。
「ご飯もね、3人分宅配で今度から頼むって」
さっきのドレスのカタログには、その宅配弁当のカタログも混ざってた。
「え……じゃあ、朝とか夜も……」
「うん……もう大丈夫って」
ついカウンターに横並びに座っているのに、
麗音愛は横の椿の顔を見てしまった。
椿も麗音愛を見て、えへへと悲しそうに笑う。
「夜は、うちに食べに来たらいい。
弁当あるなら、それ持ってさ」
「でも」
「どうせ、母さん達はいないんだし
じいちゃんは喜ぶし。いいよ」
「う、うん」
じわっと嬉しさが滲んで、椿はラーメンを啜る。
「俺、今度の給料出たら部屋にテレビ買おう」
「え? どうして?」
「あいつらがいて、見張られるようになったら
2人でゲームもしにくくなるし」
「でも、決まり守るようにって……寮生活みたいなルールを
団のほうで作ったって言われちゃったんだよ
夜の外出があんまり……」
『多分、麗音愛とあんまり遊ばないようにという事だと思う』
と椿は思ったが言わなかった。
そして、それは麗音愛にも分かっていた。
「そんなの、守ってられないよ」
「麗音愛」
「バレないように……迎えに行くから
バレないように俺の部屋でゲームしよ」
「う、うん」
「うん」
ジリっと椿の心が嬉しさで燃えて
目の前のラーメンが輝いて見えた。
そのまま麗音愛も無言になって、2人でラーメンを啜り続ける。
慌ただしく周囲が変化していっても
それでも麗音愛が椿に対する態度を変えた事はない。
ずっと変わらない。
椿がニコニコとラーメンを啜る姿を見て、ラーメン屋の店主はニヤける。
ドレスのカタログをうっかり忘れてしまって
次の日ラーメン屋にまた取りに行った。
「やっほ~玲央ぴぃ~姫~」
引っ越し当日、ラフな格好の梨里がまた胸を揺らし抱きついてこようとする。
2人で横飛して逃げるが、梨里は気にせず笑った。
その後ろから龍之介もマンションのロビーに入ってくる。
麗音愛は直美に対して文句を言ったが
もちろん、子供の意見など聞いてはもらえない。
龍之介が同居する事についての管理はもちろんしっかりすると
強く言われ
逆に自分と椿の友達付き合いに口を出されそうになったので
とりあえず黙るしかなかった。
「よう椿」
椿を見て、にこりと笑う龍之介。
「よう、龍之介。元気だったか」
椿が隠れるように、前に立つと麗音愛の方がにっこりと龍之介に
挨拶した。
それに応えるように意外にも龍之介はにっこりと笑う。
「あぁ、元気だった。これからよろしくな玲央」
「もちろんだ、ははは」
「ははは」
笑顔で笑い合う、男2人だがもちろん背後には殺気が渦巻く。
困惑する椿に、それを見てまた笑う梨里。
こうして、椿と龍之介と梨里との共同生活が始まってしまった。




