強くなる決意
刀が紗妃の心臓を柄まで深く貫いた。
ヴィフォと戦っていた麗音愛が
晒首千ノ刀を一直線に紗妃へと投げたのだった。
椿を殺す喜びに満ちた顔のまま紗妃は後ろへ倒れ込む。
食い込んだ晒首千ノ刀は
すぐに持ち主の麗音愛の元へ戻るが
椿もそのまま倒れ込んでしまったので
麗音愛はヴィフォに呪怨で追撃した後すぐ椿に駆け寄った。
倒れた紗妃に血溜まりができていく。
ぴくりとも動かない。
「闘真! 紗妃を連れて引くわ!」
「くそ! バカ女が! 姫様! 死なないでくださいよ!」
闘真は紗妃と華織月を適当に持ち上げると
妖魔を呼び、浮かび上がる。
ヴィフォも同じように妖魔に守られ去ろうとした。
あの笛を壊したいが
椿の怪我が心配な麗音愛は追跡を諦める。
椿が素肌に着た上着が血に染まる。
「椿、椿ごめん……ごめん!」
「麗音愛、大丈夫……大丈夫だよ」
そうは言っても、傷の治りは遅い。
呪怨の傷だからだろうか。
触手に這われただけではなく
華織月対策で傷をつけ、それでも椿は精神を揺さぶられる事はなかったのに
よりによって
自分が椿を傷つけるなんて……。
「ごめん……」
「麗音愛……」
麗音愛の涙が滲む顔。
自分が怪我をしてもそんな顔をする事はないのに。
「麗音愛、大丈夫……治ってくるから……」
「ごめん……」
そう言う麗音愛も、身体がボロボロで再生の煙があがっている。
「謝らないで……麗音愛は、何も悪くないよ……ぐっ」
こみ上げてくる血を吐かないように我慢したが
やはり吐いてしまう。
「すぐ助けがくる――!!」
ぎゅっと握りしめてくれる手は、とても冷たい。
秋の夜と同じように冷たい、
椿は自分の手が震えているのがわかった。
貧血で気が遠くなる。
「椿!!」
「麗音愛……」
「椿!!」
ふと……気がつくと
屋敷にいた。
あの広間に正座させられている
綺麗な着物を着せられて
ただ、そこに座って……。
庭に
笑顔の……幼い自分が通り過ぎた。
目が合って、怯えたように去っていく。
こんなのは夢だ。
もう屋敷もない。
私は天海紗妃じゃない。
私は椿だ。
天海紗妃は死んだ。
麗音愛が殺してくれた。
麗音愛はあの死闘の時にでも、直接
人間を殺した事はなかった。
自分が躊躇した事を
人を殺す事を、麗音愛にさせてしまった。
あの時、躊躇しなければ
あんな風にならずに
麗音愛を傷つけずに済んだかもしれないのに……。
夢の中なのに……涙が溢れてくる……。
『……椿』
温かい声がする……。
私の大好きな……優しい声……。
「……れ……おんぬ……」
また薄暗い病室。
うなされだした椿に、麗音愛が声をかけると
一筋の涙が頬から溢れ椿が目を覚ました。
呼吸器がつけられていたが、椿はすぐに外して
起き上がった。
「椿、まだ起きちゃ」
「麗音愛」
麗音愛の傷ついた瞳。
『姫様があいつと一緒にいるからですよ』
闘真に言われた言葉が、椿の胸をえぐる。
「麗音愛……ごめんなさい」
「どうして……俺が怪我をさせた
謝るのは俺だよ」
「ううん、私が……」
麗音愛にも椿が言おうとしている言葉はわかっていた。
『私がいるせいで、ごめんなさい』
「椿は何も悪くない、俺が――」
「麗音愛」
「俺が弱いから、椿に怪我をさせた」
『私がいるせいで、ごめんなさい』
そんな言葉をもう二度と言わせたくない、思わせたくない。
「私も……私が弱いから
……天海紗妃のことも……」
「ううん」
「ごめんなさい……
私があの前に討てるはずだった時に……討てなくて」
「俺が怪我をさせたせいだし、椿が無事で良かった。それだけだよ」
「……でも」
「誰に言われたわけでもなく、俺が自分で選択した
後悔なんて微塵もしていない」
椿の瞳から涙が溢れる。
「そんな思いをさせたのも、全部俺が弱かったからだよ
俺はもっと、強くなる」
涙の跡は消え失せた――強い意志の瞳。
「麗音愛……私ももっと強くなりたい」
「椿は、十分強いよ」
「ううん、まだまだ……全然足りないよ」
「俺ももっと、強くなるよ」
あなたを守れるように――。
知らぬうちに握り合っていた手。
お互いの温もりが戻っている事に安堵したが
視覚で把握して、慌てて離した。
「あ、ごめん!」
「あ、わ、私こそ!」
クスッと照れて笑った椿に、麗音愛も頬が緩んだ。
血に濡れない朝は、いつかくるのか――。




