呪怨暴走!椿刺す
紗妃の鎌・華織月は芳しい香りを発し
その香りに魅入られたものの動きを止めたり
自死へと誘う自害鎌。
椿は槍鏡翠湖を錫杖のように構えた。
槍鏡翠湖は明橙夜明集の中でも最強の結界力を持つ。
同化している椿は
その最大限の力を使い自身に結界を張り
緋那鳥も出現させ
服をめくると自分の腕を傷つけた。
血が流れ落ちる。
「! お前!!」
「香りはもう! 効かない!!」
鋭い痛みと、冷静さを心の中で結びつける。
同化剥がしを成功させた事により
椿の戦闘における精神力は格段に成長していた。
そして緋那鳥では届かなかった不利の距離が
今は槍の長さで対等に戦える。
薙刀では重さで遅れをとっていたが
同化していれば、自分の腕の重さと同じように扱えるのだ。
「ふん! どうせ切腹させるだけでは私の気は済まなかった!」
「!」
「半殺しにして、連れて帰って
妖魔の群れに落としてやる!
そこで生きたまま好きにされたらいい!」
「いい加減にして!」
確かに紗妃の運命は残酷だ。
思い出すだけで身の毛がよだつ、あの息子に何をされていたのか
考えただけで吐き気がする。
だが、それは――。
「私があなたを酷い目に合わせたわけじゃない!!」
「お前が、この世に生まれたせいだ!」
「!」
麗音愛が放った呪怨の矢が紗妃を追撃する。
「闘真! この役立たず!
その黒男どうにかしろ!!」
「クロオじゃない!!」
そしてすぐに、麗音愛が椿の元へ駆けつけ椿の前へ立った。
「咲楽紫千!! 俺の相手をしろぉ!!」
「椿、この女とは戦うな」
先日の椿の動揺を考えると、紗妃と会話すらさせたくない。
「麗音愛」
「俺が殺す――!」
「黒男っ! おい!! ヴィフォの言ってたのはまだ!?」
その言葉で椿は
一瞬に、此処に浄化結界が張られていないか見極める。
結界作用の気配はないが、
何か、麗音愛にしようとしている――!
「麗音愛!」
「椿、俺の傍にいろ」
麗音愛の片手に抱き上げられた椿は
ぞくりと戦慄する。
麗音愛がそこにいる
自分と椿以外のものを殲滅する気を放ったからだ。
槍鏡翠湖から緋那鳥に持ち替えながら
椿は麗音愛に抱きついた。
死体のように冷たい身体を温めるように。
「浄化されようが、構わない
その前に全員殺す」
「そんな、ダメだよ。浄化されて、もしも……」
遠くでは
紗妃と闘真が言い争っている。
仲間割れなどいい気なものだ。
その瞬間に隙きを狙い、麗音愛は椿を抱いたまま
斬り込む――!!
「ヴィフォ!!」
「!!」
罠か!!
細い、細い、笛の音が聴こえる……。
すぐに呪怨を使ってその場を離れたが
耳に入る笛の音。
「……これはっ」
毎秒、襲いかかる呪怨
怨霊の叫び。
その力が強くなる……。
憎しみが増し
狂気が増し
叫びが牙が膨れ上がり
一気に、吹き上がる!!!
「くっ……!!」
統制していた力が効かなくなる!
そう思った瞬間に
呪怨の牙が、椿の腹を刺し貫いた。
「あっ……」
「椿!!」
麗音愛は刺し貫いた呪怨を引き戻したが
その呪怨は次は麗音愛を刺し貫く。
麗音愛の足元から湧き出る呪怨が
次々と麗音愛に絡みつき、刺し、噛みつき、食い千切る。
溢れ出る黒の中に飲み込まれていく。
「うぉおおお!!」
「麗音愛ーー!!」
麗音愛に遠くに飛ばされた椿に、闘真が駆け寄る。
「姫様!」
「やめて! 笛の音を止めて!」
「姫様! 無理です!」
「ヴィフォーーーーーーーーーー!!!」
紅夜の血統の椿の恫喝に
一瞬ヴィフォの笛の音が止まった。
ほんの数秒。
その瞬間に、呪怨は消え麗音愛の姿はない。
「――!!」
ヴィフォの目の前に晒首千ノ刀を振るう麗音愛の姿。
だが千切れかけ、回復が間に合わない腕では
ヴィフォの心臓には刃は届かない。
しかしヴィフォが逃げたその先へも呪怨を追撃させ
笛を吹く隙は与えない。
「麗音愛!」
麗音愛の反撃を見て、自分で傷つけた腕と腹部から出血したまま
椿も闘真に斬りかかった。
「姫様!」
「お前らはもう、いい加減にしろ!」
「姫様もいい加減に自分のお立場を考えてくださいよ!!」
「うるさい! 麗音愛を傷つけるな!!」
「だって、姫様があいつと一緒にいるからですよ!!」
「!」
緋那鳥の斬撃が虚しく宙を舞う。
「手足をぶった切ってやる!」
闘真の横から紗妃が飛び出してきた。
「お前! ヴィフォはっ!」
「仲良しごっこしてるんじゃないんだよ!」
「てめぇ!」
闘真から見ればヴィフォは劣勢で麗音愛の攻撃からやっと逃げ、銃で応戦している。
麗音愛が心配な椿は、紗妃の攻撃に槍鏡翠湖で受け流しそちらへ走り出した。
「ぐっ」
しかし傷の痛みで、椿は力が出ない。
予想以上の怪我で足がもつれ後ろから
紗妃が襲いかかった――。
「! 姫様ーーーー!!!」
華織月の鎌が椿の首を落とす。
誰もがそう思った。
しかし、それで落ちたのは華織月。
晒首千ノ刀が紗妃の心臓を貫いた――。




