バラバラデート当日!
デート当日の土曜日
るんるんで髪をセットする剣一の横を
気怠そうに麗音愛が通る。
「玲央、なんだよ辛気臭い顔すんなよ」
「俺、昨日塾の時
また緊急呼び出しで任務してきたんだよ……」
「ん?」
「俺の管理、兄さんがやってるんだろ?
嫌がらせかよって……12時過ぎまでやって……」
はぁ~と苛立ちが溜息からもこぼれてしまう。
「俺は知らん」
「え?」
「……まぁ、働くってそういう事もあるさ
んで、今日の俺どう? 今日のデートのために
美容室行ってきたんだよね~」
ポーズをとる剣一を無視してリビングでコーヒーを淹れる。
「玲央おはよう、今日デートなんだって?」
父の雄剣もパソコンを打ちながらコーヒーを片手に玲央に話しかけた。
「おはよう。デートじゃない……」
「剣一は椿ちゃんとお出かけだってな」
「父さん、そこはデートだろう!!
俺すっげー楽しみぃ~」
上着を羽織って、鏡を見て
ソファに座ると剣一は携帯電話をチェックし始める。
「兄さんさ……」
椿は川見先輩と、と言いかけてやめた。
『2人は付き合っているかも』と口に出したくなかった。
「今日の夜、川見って後輩に誘われてんだよね
椿ちゃんも連れてこいって。合コンかな?」
「え!?」
「ま、椿ちゃんが行くーって言ったら夜も出かけるから
じいちゃん勝手に夕飯食って?」
「あぁもちろんだ、
いいのう若いもんは。
玲央君はお小遣いはあるのか?
デートなんだから全部男が払ってやらんと……」
「じいちゃん古いな~、そういうのも相手を見てだな……
てか、お前まだ何の用意もしてないけど……」
「1時間あればできるよ、ていうか合コンって」
その時、玄関のチャイムが鳴る。
「あ、椿ちゃんだ!」
「えっ」
「どれ、私も挨拶しようかな。最近顔を見てなかったから」
「じいちゃんも椿ちゃんに挨拶するぞ~~椿ちゃ~~ん」
ドタドタと男どもが玄関に行く。
麗音愛もつい、玄関が見える廊下に出てしまう。
「あ、おはようございます」
玄関の前にちょこんと椿が立っていた。
椿はパンツスタイルばかりだが
剣一達の背中から少し見える今日の姿は
髪の先が丸まっていたり
小物やデニムの裾をロールアップにしたりと
可愛くおしゃれをしている。
それだけでいつもと全然違って見える。
「おしゃれして可愛いね、椿ちゃん元気だったかい?」
「はい、おじさま、
あのお友達に雑誌を借りて……勉強しました。
この耳飾りは、お友達とおそろいで300円で……
この髪は器具をつけて寝るとクルッとこんな風になるんです。
100円で買えて
支給されたお小遣いで買いました。
あとこの鞄はセールというもので1980円で買いました」
ひとつひとつ見せながら報告する椿。
「可愛い可愛い、報告しなくてもお小遣いなんだからいいんだよ。
今日は剣一が服を見立ててくれるそうだから
なんでも好きなもの買いなさい。
今まで君の保護費を着服していた分も回収して
君のためにきちんとあるから、ね」
「そんな……」
「子どもが遠慮するもんじゃない、美味しい物も食べてくるんだよ
じいちゃんも一緒に行きたいなぁ~~」
「駄目! 却下! じゃあ早く行こう!
椿ちゃん俺がもっと可愛いレディにする!
プリティ・ウーマンごっこ!男の夢じゃん!」
じゃあ、と雄剣と剣五郎はリビングに戻った
椿は麗音愛を見ないまま玄関から出ていった。
「あ、椿ちゃん! 先行ってて!
俺の車のとこ!」
廊下で立ち尽くしてしまった麗音愛の前に
剣一が立つ。
「お前さ、
今日の相手が俺じゃなかったらどうすんの?」
「えっ」
「俺だからって油断すんなよ
じゃ、お前は加正寺琴音とデート頑張れよ」
「なんなんだよ!」
「じゃあな~♫」
「おい!」
兄への苛立ち
最高に苛立つ。
が、それより
また胸が痛くて苦しい。
剣一のため?
それとも夜に会う川見のため?
オシャレをしてこっちを見ようとしない椿の横顔がまた
思い出される。
「玲央、時間は大丈夫なのか?」
「あ!うん、やばい」
自転車をとばして
待ち合わせの駅前に行くと時間丁度なのに
加正寺琴音が手を振って待っていた。
「ごめん! 待たせちゃったね」
「私が少し早く来ちゃったんです!
嬉しくて」
キラキラと嬉しそうに、自分の目を見つめてくる琴音に
たじろいでしまうが
態度に出してはさすがに失礼かと一応笑顔を返す。
秋とはいえ、今日は晴天で気温も高く
女の子らしくスカートの琴音。
見るからに上質なブランド品のようで
周りからも注目を集めていた。
「どうですかぁ?
今日のために新調したんですよ~」
「え? わざわざ?」
「そりゃ、玲央先輩とのデートですもん!」
「だからデートではなくて……」
「野外学習でしたっけ? は~い
じゃあ、どこに行きます?」
ニコニコと琴音は一歩、麗音愛に近寄り見上げる。
「え?」
「え? プラン考えてきてくれてないんですか?」
全く考えていなかった。
プランを考えるのが自分側の責任なのかとも
思っていなかった。
「……正直に言うと、何も……ごめん」
「ふふ、玲央先輩のそういうとこも好きです!
じゃあ、今日は私の行きたいところ! 行きましょう!」
琴音が、手を挙げると
高級車が一般車ロータリーに停車する。
ぎゅっと麗音愛の腕に自分の腕を絡めた。
琴音の柔らかい胸が思い切り当たる。
「ちょ、加正寺さん!」
「琴音! 琴音ですよ~玲央先輩」
そういうと、
琴音は高級車に麗音愛を引き入れた。
ゴツい運転手が麗音愛を見て一礼すると
琴音の『GOー!』という声と共に発進した。




