・宵闇の追撃者 - 捕縛→エスコート -
「はい、ご命令のままに」
『で、ですけれどっ、このままでは……っ』
やはり敵は僕の変装に気付いているようだ。
往来の中であろうとお構いなしに、ヤクザ者たちは僕の目の前にやってきて取り囲んだ。
「おめーっ、変装するなら変装するって言えよーっ!」
「い、意外とっ、かわいいじゃねーかよーっ、おめーっ!」
そこにはあの愉快なチンピラコンビの姿もあった。
僕は帽子を脱ぎ、髪を整えていつもの自分に戻った。
「おじさんたち久しぶり。それで、僕に何か用?」
「俺たちに着いてきてもらうぜぇ……! エドマンドの兄貴のところによぉーっ!」
さっきはつい小心者ゆえに焦ってしまったけれど、それは好都合だった。
それならこちらから訪ねる手間が省ける。
僕たちはどちらにしろ、正面からロートシルト家を訪ねるつもりだった。
「俺ら紳士だからよーっ、素直に従うならよーっ、手荒なことはしねーぜぇー? なんか、かわいいしよ……」
「わかった、おじさんたちに従うよ」
「あ……? あ、ああ……おう? 意外と、素直じゃん……? なんか、こえーくれーに?」
「僕、おじさんたちが恐いんだ。エドマンドさんに降伏したいから、僕をお屋敷まで連れていってくれる?」
我ながらなんて薄っぺらい嘘だろう。
でもおじさんたちはかなり単純な考え方をする人たちみたいで、偽りの降伏にとても気をよくした。
「おじさん許さないよ?」
「おめーのせいで、俺たち兄貴にガチ殴りされるわっ、パンツはカビるはっ、大変だったんだからよぉーっ!」
パンツのカビは、僕のせいじゃないような……。
「おじさんたち、怒ってるんだよーっ!?」
「けどよーっ、エドマンドの兄貴に突き出すまでは、殴らねーでやってやんよーっ! なんか、かわいしな……」
「てかフロリーはどこやったよーっ!?」
「それはエドマンドさん本人に会ったら直接言うよ」
彼らはフロリーさんが町のどこかに潜んでいると思っている。
僕は彼らの仲間の家に預けられ、居心地は悪いけれどまあまあの夜を過ごした。
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ちなみに彼らヤクザ者たちは夜遅くまで、見つかるはずのないフロリー・ロートシルトを探した。
僕の力って、僕の気質に反して、凄く意地悪な側面を持った力だった。
「いねーっ! どっこにも、いねーしぃーっ!」
「おいガキィーッ、フロリーはどこやったんだってばよぉーっ!?」
「だからそれは、エドマンドさん本人に直接言うよ」
「おめーっ! 自分の立場っ、わかってんのかヨォーッッ?!!」
「吐けーっ、吐かねーとっ、カビたパンツ履かせんぞーっっ!!」
まさか既に勝負が決しているとは、彼らは想像もしていない。
殴っても蹴ってもちっとも痛がらない不気味な少年から、情報を引き出すには夜も更けていたので、彼らは折れ、うかつにも最悪の悪手を打ってしまった。
ナユタ・アポリオンをロートシルト家に近付けてはならない。
彼らは僕をイエローガーデンから遠ざけるべきだった。
「このクソガキ、もうやだ……兄貴に任せよーぜ……」
「兄貴はこえーんだからなーっ! 兄貴は殴るって言う前によーっ、殴る男だからよーっ、覚悟しとけよーっ!」
捕まっても、捕まらなくても、僕たちの作戦に変更はなかった。
だって、屋敷に運ばれると決まった時点で、既に勝負は決しているのだから。




