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「んん…」
外がなんとなく明るくなってる気がする…。
たしか昨日は伊吹と……っ!? そうだ! 伊吹と会って――
「んー……くーくー」
私は隣のベッドに寝続ける伊吹を見てホッとする。
もしかして夢だったんじゃないかって思ってしまった。
それくらいビックリさせられた。
あのあと食堂内は大騒ぎになってしまった。
どうも伊吹がウェイトレスを泣かせたらしいという話になって…
姉弟ですって伝わってなんとか収まったけど、
まぁ知らない人が見たら驚くよね。
あの後二人でいろんな話をした。
こっちに来る直前のこと。こっちに来た後の事。
私はみてないけど、黒いモヤのようなものに包まれて
こっちの世界に来たらしい。うーん…なんなのかな…。
幸い私も伊吹もこっちの世界に来たけど、
変なトラブルに巻き込まれなかったみたい。
まぁ苔人間に襲われたことは黙ってたけど…。
変な心配させてもしかたないしね。
伊吹の方は騎士団の人達に保護されて、
全然危なくなかったっていってたからよかったよ。
そういえば伊吹とは三日以上離れ離れになった事なかったんじゃないかな。
修学旅行で会わなかった時以外…ずっと一緒にいた気がする。
だからなのかな…食堂で目の前に立った時、
この子こんなに背が高かったっけと思ってしまった。
男子三日あわざればかつもくして見よって言葉があるけど、
ほんとなんだなぁと考えてしまうね。
「んっ…ううん…」
私がガサゴソしていたせいか、伊吹も起きたようだ。
「おはよう、伊吹」
「んー…うん……おはよう、姉ちゃん」
ごく当たり前の姉弟の挨拶。うん、でもなんだかホッとする。
伊吹も同じ気持ちなのか、ちょっと照れ臭そうだ。
「それじゃあ着替えて下に行こうか。女将さん達にも改めて挨拶しないとね」
町までの獣車が来るまでまだ日があったけど、
私は伊吹と一緒に町まで送ってくれることになった。
伊吹は私を探すまでの間騎士団の人達にお世話になってたみたいで、
どうせ町まで行くのならという話になったみたい。
一週間くらいだけど、お世話になったしちゃんと挨拶しておかないとね。
「いいけど…むこう向いててくれよな」
そう言って伊吹は背中を向けて着替え始める。
あぁ、前に私が着替えてる時に部屋に入って来たの気にしてるのかな。
あの時はびっくりしたけど、もう異性を意識しだす年頃なんだよねぇ。
なんとなく感慨深いな。
私も後ろを向いて着替えることにする。
「おはよう、マイ」
下に降りると女将さんとリベルさん達のパーティ。
それに騎士の人達が数名集まっていた。
伊吹がお世話になってる人達かな。
「君がイブキの言っていたお姉さんか。確かにどことなく似ているな。
私の名前はバイカル。グレムの町に駐屯している王国騎士団の小隊長をしている」
「マイと言います。弟を保護して頂きありがとうございます」
「いや、いちおう保護ではあるがこちらのほうが
手助けしてもらっていることが多くてな。
弟さんにはこちらのほうが感謝するくらいだ」
ん? 手助け?
そういえば騎士団の人達に保護してもらってると言ってたけど、
どうしてここにいるんだろう?
私がここにいるなんて知り様がないことだし…
チラリと伊吹を見ると、なんとなく視線をそらされた。怪しい…。
「お姉さん! 俺、イブキの親友のラハンっていいます!
お姉さんもイブキみたいに凄い魔法使えるんですか?
イブキの魔法って凄いっすよね! あの土地喰らいにもモゴォモゴォ!?」
「ラハン、ちょっとあっちで話があるんだ」
伊吹と同じくらいの騎士さんに挨拶されたと思ったら、
伊吹があせったように口をふさいで引っ張っていこうとする。
でもちゃんと聞こえたからね。
「伊吹…? ひょっとして騎士の人達と一緒にたたかってたりするの?
あなた昨日は危ないことしてないっていってたよね?」
「いや…アブナイコトハシテナイヨ。ぜんぜんだいじょうぶ」
やけに棒読みな口調で弁解する伊吹。
いや、土地喰らいとか言ってたし無理があると思う。
「すまない。私が止める立場にありながら、弟さんを危険な場所に連れてきてしまった」
バイカルさんがそう言って頭をさげてくる。
「いえ、隊長さんが謝ることじゃありません。
伊吹がどうせ無理やり付いて行きたいとかいったと思いますし」
「うんうん、なんかポイントたくさん入るかもしれないとか言ってたよな。
そういやポイントってなんだ?」
ラハンさんの言葉にジト目で伊吹を見る。視線をあわせようとはしない。
あとでちゃんとお話をしておかないとね。
自分から危ないことに首を突っ込んでるみたいだし…。
「マイさんよかったわね。なんだか表情も明るくなったみたい」
リベルさんがそう言って柔らかく微笑む。
んっ…そんな気持ちはなかったんだけど、
どこか表情にでてたのかな。焦ると言うか…不安な気持ちが。
「私達もグレムの町のギルドに所属しているから、また町で会いましょう」
「はい!」
リベルさん達は土地喰らいの素材解体の手伝いをして帰るみたい。
採取の依頼は大丈夫なのかなと思ったけど、
そちらは騎士団の人達がギルドに責任を持って渡してくれるんだって。
かわりに臨時依頼を騎士団の人にお願いされたみたい。
リベルさん曰く「臨時依頼は報酬が高いからラッキーなのよ」とのこと。
でも同じ町にいるならすぐに会えそうだよね。
「リベルさん達には騎士団から恩賞が出ている。
ギルドの方にその旨を伝えておくので、
町に戻ったらギルドで受け取っていただきたい」
「はい、ありがとうございます」
そういえばそんな話もあったね。大変だったけど、頑張った甲斐があったよ。
「そういえば五人目の手伝ってくれた冒険者というのは…?」
「あぁ、それはこのマイさ…あっ!?」
リベルさんが私の名前を出した瞬間、
何かを察したように言葉を止めたけどちょっと遅かったみたいだね…。
「姉ちゃん!? 足止めを手伝ったってどういうことだよ?
昨日はウェイトレスをしてたから危ないことはなかったよっていってたよな!」
伊吹がジト目で追及してくるが、私は視線をそらせて聞こえないふりだ。
うん…そんなこと言ったかなぁ…
「ふむ…たしかに姉弟だな。似ている」
「そうですね。そっくりだと思います。マイさんごめんなさいね…」
バイカルさんとリベルさんの小さな声が聞こえたような気がした。
「すごいね、伊吹。まるでバスみたい」
私は今、馬車ならぬ獣車? の上の人となっている。
流れていく景色。ちょっと視線が高いから、見晴らしも良いんだよね。
バイカルさん達本当は他の騎士さんたちと一緒に昨日帰る予定だったんだけど、
私達の為に一日遅らせてもらったみたい。
村のみんなには挨拶できたけど、結局ホイフクローさんには挨拶できなかった。
騎士の人達に見つかると、色々とややこしい説明をしないといけないとかで
一緒に村に帰ってすぐに別れたんだよね。
町で落ち着いたらまたここに戻ってこようと思う。
私が伊吹にあれこれ話をしていると、綺麗な女性が声をかけてきた。
耳が長い…ひょっとしてエルフとか?
「はじめましてマイさん。イブキの言ってた通り、素敵な女性ね。
私はジュナ。この小隊で魔術師をしているの。よろしくね」
「ちょっ!? ジュナさん!」
このエルフはジュナさんというのか。
というか、私のいないところでどんな話をしていたんだろう…
聞きたいような、なんだか恥ずかしいような…
「イブキって毎日姉ちゃんのことを話してたもんな!
まるで恋人の事でももごぉもごぉ!?」
「ラハンー、ちょっとだまろうぜ!」
うん…なんとなく聞かないほうがよさそうだ。伊吹の慌てようから…。
「ところでマイさんもやっぱり魔法が使えるの?」
ジュナさんが興味深そうに聞いてくる。伊吹は魔術師として戦ってるのか。
昨日の夜はあんまりその辺りの話をしてなかったんだよね。
ジュナさんも魔術師っていってたし、興味あるのかな?
「えっと、私はどちらかというと召喚術師? みたいなかんじでしょうか」
こっちの召喚術師とはどこか違うってホイフクローさんが言ってたけど、
カードのこととか言っても混乱するだろうし、召喚術師ということにしておこう。
「あら、召喚術師だなんて珍しいのね。詳しく聞いてないけど、
土地喰らいを足止め出来るってすごいわ」
私の事は冒険者たちの一員として伝えられてるみたい。
さすがに詳細は伝えられていないんだろうけど。
「そういや、姉ちゃん何をよんだんだ?」
「怠け者のオーガだよ」
「また使いにくい奴を選んだなぁ」
伊吹はカードの能力をほぼ覚えているみたい。かなりはまってたからなぁ。
たしかに怠け者のオーガはアタックしようとしてもガードしようとしても
エナジーを使う上に、相手の小さめのユニットでガードされてしまうと
その大きな攻撃力を活かせない。
「でもあの魔物と真正面から戦えるの、私の持ってるのじゃあの子くらいだし」
サーベルウルフやプレートボアじゃどうにも太刀打ちできるイメージが湧かなかった。
逆に森の中で護衛として呼ぶのはオーガじゃ不都合があるだろう。
「何事も適材適所だよ」
「まぁそうだけどさ。 あぁ、町で落ち着いたらトレードしよう。
姉ちゃんが使えそうなのいくつかあるよ」
トレードというのはカードをプレイヤー間で交換するというもの。
一日一回でレアリティが同じものでしか交換できないという制約があるんだけど、
パックだとランダムでしかカードを入手できない。
どうしても欲しいカードがあれば、トレードが早いんだよね。
ただ相手が欲しいと提示しているカードが無いとだめだけど…。
でも、こっちでもトレードはできるのかぁ。
そこまで詳しく能力の検証してなかった…
というか私しかカード使う人いないと思ったから考えもしなかったよ。
ジュナさんとラハンさんが私達の会話に興味を持ったらしく、
色々と聞かれたけど、なんとなく濁した会話しかできなかった。
伊吹もカードの事は詳しく説明してないみたいだね。
ゲームと同じような力といっても理解できないだろうし…。
そういえばどうしてこんな力を得ることが出来たのか…
それに黒いモヤは一体何なのか…この世界から帰るにはどうすればいいのか…
わからないことだらけだし不安もある…
けど、私の中にあった焦燥感は消えている。
「ちょっ!? どうしたんだよ姉ちゃん」
「んー? ちょっと眠くなっただけ。肩借りるねー」
私はそう言って伊吹の方へ頭を傾けて、肩にもたれかかった。
春の陽だまりのような温かさに、私はいつのまにか眠りに落ちていた。
「――ん……姉ちゃん」
「んんっ……おはよう伊吹」
「おはよう…ってもうグレムの町に着いたぜ。
よくあんな揺れてる中で眠れるなぁ…」
私はその言葉で外を見る。人、人、人。
村と比べると流石に人が多い! 獣車は町の大通りを通っているらしく、
通りの両端にはいくつかの露店がたてられている。
歩いている人も、多種多様で色んな人がいる。
車とかはもちろん無いし、馬車や獣車もそこまで普及していないのか
通りにはたくさんの人が歩いていて、
その人達を掻き分けるようにして獣車が進む。
「はぁ…すごいね。やっぱりここが違う世界なんだなぁって実感するよ」
通りを歩く鎧姿やローブ姿の人達。
獣の耳が付いた人や、赤い肌、青い肌、緑色の肌の人とか
地球じゃ考えられない風景だ。
「うん…俺もそう思う」
伊吹も外を見ながら呟く。
「そういやイブキってお姉さん見つかったから騎士団寮をでていくのか?」
「ああ、そうなるな。姉ちゃんを一人に出来ないし」
イブキとラハンさんが会話をしている。
そっか。どこか住む場所を探さないとだね。
何か生活していける仕事も探さないといけないし…。
帰る方法を探すにしても、そうすぐに見つかるとは思えないからなぁ。
「そっか…寂しくなるな…。でも町に住むんなら、毎日でも会いに行くさ!」
「あぁ、ありがとう。姉ちゃんがいない時に、いつでも招待するわ」
「なんで!? 俺の事兄ちゃんってよんでもいいんだぞ!?」
「死んでも呼ばんし近寄らせん」
「ひでぇ…」
私はこれからの事を考えて、思いを巡らせる。
こうして私達のグレムの町での生活が始まることになった。




