23 おやつができました!
シャルティに教えてもらった魔法屋は、大通りの大きな店だった。いつも市場や小さなお店ばかりだったので、もっと早く来てみればよかったと苦笑する。
(なんかこう、貴族御用達のお店かと思ってた……)
よくよく見れば、冒険者も出入りしていた。
「あ、でも……ルークを連れて中に入るわけにはいかないか」
『何? オレに店の前で待ってろというのか……!?』
「いや、でもなぁ……」
どうしたものかと太一は悩む。しかし、ルークをこのまま店の前に……というのも、ほかの人を驚かせてしまいそうな気がする。
一度、店に戻って一人で出直そうか……そう思った矢先、「タイチ!」と名前を呼ばれた。
「ん? あ、ヒメリ……!」
「やっほー! 魔法屋の前で、何してるの?」
「実は……」
ヒメリに事情を説明すると、「なるほどね」と頷いた。
「それなら、私がルークと一緒に待ってるよ。そうすれば、太一は買い物できるでしょ?」
「え? それはそうだけど、悪いし……」
太一が申し訳なさそうにすると、ヒメリがゆっくり首を振う。
「こないだ、カフェでご馳走になったからね。これくらいのお手伝いはさせてよ」
(なるほど、この間のお礼的な感じか……)
だったら甘えてしまってもいいかと、太一は頷く。
「それじゃあ、お願いしようかな」
「うん、任せて!」
しかし問題は、ルークがそれを了承するか……という点だ。太一がちらりとルークを見ると、不服そうな顔を隠そうともしていない。
(もしかして人間嫌いなのかな?)
「……ルーク、買い物してくるからちょっとだけ待っててくれ!」
お願いします!! と、手を合わせて頼み込む。
『オレをこの女と二人にさせるつもりか……!』
「や、やっぱり駄目……? 待っててくれたら、ご褒美にビーズクッションを大きくしてやるぞ!」
『なんだと!?』
太一の言葉に、ルークがくわっと目を見開いた。
『そんなに頼み込むなら仕方がない、待っていてやろう』
「おお……! さすが高貴なルークは話がわかるな!」
『そうだろう、そうだろう!!』
とりあえずルークを褒めまくり、ご機嫌状態にしておく。きっと、これで一緒に待っていてくれるヒメリも幾分かは楽なはずだ。
不機嫌なフェンリルの横になんて、とてもではないが居たくないだろう。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
『早く戻るんだぞ』
「うん、ごゆっくり」
魔法屋の中に入ると、冒険者やローブを着た錬金術師などで賑わいを見せていた。
まず目に入ったのがいかにもという『ポーション』類だった。小瓶に入った色づいた液体に、テンションが上がる。
ほかには薬草コーナーや、魔法具類のアイテムも置かれている。
武器などの装備はないので、ファンタジー系のアイテムが売られている雑貨店と考えるのがいいだろう。
「へえ、面白い……っと、今はルークたちを待たせてるんだった」
ゆっくり商品を見るのは今度にして、薬草コーナーへ足を向ける。
そこには、太一の知っている魔力草も売られていた。
(あ、これは調理スキルに使えるからいくつか買っていこう)
そして大本命の月下草を発見する。
シャルティに見せてもらった通り、薄緑の葉に白の花が咲いている。どことなく神秘的で、確かに夜が似合いそうだと太一は感じた。
「問題は値段だけど……」
販売は五本を一束にしているようで、一束一万チェルだった。
(お~、これは結構いいお値段ですね)
ただ、月下草一本でクッキーがどの程度作れるかはまだわからない。原価が四〇〇チェルくらいになったらいいけど……と考える。
「とりあえず帰って作って、それからだ」
月下草を一束と、魔力草は五束購入しておく。魔力草の方が安く、一束で一〇〇〇チェルだった。
さくっと買い物を終わらせて店の外へ出ると、ルークとヒメリが睨みあうようなかたちになっていた。
いや、睨んでいるのはルークだけで、ヒメリは困り顔だった。
「あー、お待たせ。ヒメリ、大丈夫だった?」
「わ、早いね! ルークはいい子だったから、大丈夫だったよ!」
『オレをなんだと思ってるんだ!』
太一の言葉にヒメリは微笑み、ルークはふんと鼻息を荒くした。しかし尻尾が揺れているので、太一が戻って来たことが嬉しかったんだろう。
「んじゃ、帰って早速試してみるか」
「ねえねえ、そのおやつ作り……私も一緒に見てていい?」
「もちろん」
興味深そうなヒメリを連れて、店へ戻った。
***
さて、さっそくおやつ作りだ。
材料はすべてそろっているので、あとはスキルを使うだけ。
調理台の上には大量の苺、ニンジン、小麦粉、卵がある。そして一本の月下草。
「まずは月下草一本でどれくらいの量が作れるか確認しないと」
「いったいどんなおやつができるの?」
「それはできてからのお楽しみ、ってね! 【おやつ調理】」
太一がスキルを使うと、一瞬で用意していた材料がほとんど消費されてしまった。そして代わりに、調理台の上には大量のクッキーが載っていた。
しかもありがたいことに、袋に五個ずつ入っている。
「わお」
「ひゃ~! これはすごいね! いったいいくつあるんだろう」
「……数えよう」
「……うん!」
太一が袋を綺麗に並べ、それをヒメリが数えていく。「いち、に……」と言う声はどんどん進み、「ななじゅう……」で止まった。
「すごいな、七〇袋も作れるのか」
月下草の値段が高いと気にしていたが、そんなのはまったく問題のないレベルだった。
脳内で計算を叩いて、材料費を計算していく。
(ざっくりだけど、四〇~五〇チェルくらいか)
これならおやつを安く販売することができそうだと、太一は胸を撫でおろす。あとは、ベリーラビットが気に入ってくれるかどうかだ。
「よし! ヒメリ、今からベリーラビットにこのおやつをあげてみようと思うんだけど……」
「はいっ! 私あげたい!!」
すぐにヒメリが挙手をして、ぴょんぴょん跳ねた。
ということで、実食タイムです。




