第8話 お嬢様と文化祭と本番(2)
演奏が終わった。
大きな歓声を背にして、俺たちはステージの裏へと戻っていく。
どんな評価が下されるか分からないけど、全部やりきった。
「大成功だったな、みんな、頑張った!」
それにしても……。
驚いたのは、朝宮さんの度胸と地力と頑張りだ。
俺は全てアドリブだったけど、その一方、朝宮さんが演奏したのはほとんどが、俺が事前に譜面にして渡したものだ。
それでも、譜面を暗譜して演奏するのはかなり大変だったと思うし少しだけアドリブもできていた。
朝宮さんが、必死に頑張った結果だろう。
お辞儀をしたときの沢山の歓声や拍手に……今頃朝宮さんは震えているのではないだろうか。
俺はそう思い振り向き声をかける。
「朝宮さんも、凄かったよ!」
「よかった……ありがとうございます」
朝宮さんは堂々とした表情をしていた。……すごい子だよ、本当に。
俺は彼女への尊敬の念を抱く。俺初めてやった時は足震えてたのに。
表情も引き締まっていて、とてもクールだ。
俺だったら、ひょっとしたら嬉しくてだらしない顔をしているような気がするのに。
俺たちは楽屋に戻り、撤収の準備をする。
あとは楽器を片づけて……他のバンドでも聞こうかな?
そういえば、暁星がずっと黙っているのが気になった。何かあったのだろうか?
「暁星? どうした?」
「……えっ? あ、あぁ……ごめんなさい。ちょっとボーっとしてしてたよ」
「いや、別にいいんだけどさ。なんか元気がないみたいだから。そういえば、演奏が終わったら何か話があるって言ってたけど、何?」
「あぁ、うん……。あんなの見せつけられて……悔しいから、それは、もういいかな」
「えっ?」
「ううん、なんでもないっ! じゃあ、私、用事あるから、先帰るね。朝宮さん、ちゃんと見てあげて? じゃあ、バイバイ」
そう言って暁星は去って行ったのだった。
他のバンドメンバーとも挨拶をし見送る。
楽屋には、朝宮さんと俺だけが残された。
ふと、彼女の方を見ると……楽器の片付けは終わったようだ。
彼女はいったん帰るのかな?
あれ? 彼女も何か様子がおかしい。
「朝宮さん?」
「そ……そそそそそそ……それがっ!!」
彼女は突然、慌てだした。
顔は真っ赤になり汗が噴き出している。
「な、なに!? 落ち着いて」
「い、今頃緊張してきて……」
見ると、スカートから伸びる足がガクガクと震えている。
「とてもうまくできて……聞いて下さった皆さんの歓声や拍手が……凄くて……あの……竹居くん……」
「ん? 何?」
「あの……その……ごめんなさいっ!」
朝宮さんは、俺に抱きついてきた。彼女の手は俺の腕を掴み、なんとか寄りかかって倒れないようにしている。
「ちょ、朝宮さん……」
「あわわわわわ」
朝宮さんが、本当にどうにもならない様子で俺にしがみつく。
「大丈夫?」
彼女の体重が俺にかかる。ほとんど足に力が入っていないようだ。
ずるずると下に落ちていくのを慌てて彼女の腰に手を回して支え、椅子に座らせる。
「あの時、竹居君が励ましてくれなかったら……わたし、ステージに立つことができなかったかもしれません……」
「そんなことは……」
ないとは言い切れないかもしれない。
今回は用意周到、万全を期した結果上手くいっただけだと思っていたのだが……彼女は違ったらしい。
というか、朝宮さんは結構大胆なところあるよね。普段は大人しいのに、時々びっくりするような行動に出るというかさ。
「朝宮さん、楽しかった?」
「はい、とても。沢山の人の視線を感じて、盛り上がってくれて……お辞儀をしたときの拍手や歓声が忘れられません」
「またしたい? 病みつきになったでしょ?」
「はい……前のステージより、とても……とても」
「よかった。多分ね、俺はその言葉を聞くために……これまでやって来たのだと思う」
「竹居君……」
あ、ちょっとなんか良い雰囲気になってる。
じゃあ、このタイミングで、俺の気持ちを伝えたら、いったいどうなるだろうか?
そもそも、俺が彼女に抱いているこの感情は何なのか……。
でも、この流れで行けば……もしかしたら……。
「ねえ、朝宮さん——」
ガラララッ!
……ドアが開いた音で俺の言葉は遮られた。楽屋に入ってきた人物は、見覚えのある大柄の男たちと、
「夕凪さん!」
「竹居様……申しわけありませんが、ご同行願います」
あ、やっぱり……ですよね……。
俺と朝宮さんは黒服の屈強な男たちと夕凪さんと一緒に車に押し込まれ……連れて行かれるのだった。
とはいえ、行き先は分かっているのだけど。
お読みいただき、本当にありがとうございます!
【作者からのお願い】
「面白かった!」「続きが気になる!」など思いましたら、
★評価やいいね、ブックマークで応援をいただけると、とても嬉しいです!




