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第6話 水曜日とお嬢様と「もう少しだけ」


 夜叉が朝宮さんに詰め寄っている。

 あのバカ。何してんの?

 俺は思わず立ち上がった。



 見ると、夜叉は朝宮さんの右腕を掴んでいる。



「ちょっと来い」

「いやっ」

「なんだよ、俺の言うこと聞けないのかよ。竹居とは一緒にどこかに行くくせに」



 朝宮さんが、夜叉の手を強引に振りほどく。

 そして震える声で叫んだ。



「わた……(わたくし)が一緒にいたいと思う人は、私が選びます!」

「なに? そんなに竹居のことが——」



 夜叉はカチンときたようだ。

 クラスの視線が、朝宮さんと夜叉に集中する。



 俺が二人の間に入ろうとしたとき、夜叉が拳を握りしめ振りかざすのが見えた。

 こいつ……!

 俺は夢中で夜叉の腕を掴む。

 その(こぶし)が、空中で止まる。



「お前……竹居! 何を——」

「何をじゃねーよ。力で屈服させようとか最低だと思わないのか?」



 今は分かる。

 クラスの全員が俺の味方になっているということに。

 さらに昼河も参戦してくれる。



「そういうこった。夜叉、お前の負け」



 俺の代わりに夜叉の腕を押さえてくれた。

 そして、俺をドンと押す。

 すると、俺はちょうど、朝宮さんを庇う位置に立つことが出来た。



「朝宮さん、大丈夫?」



 朝宮さんは、目に涙を浮かべている。

 身体も震えているように見えた。

 よほど怖かったのだろう。



「……は、はい……ありがとうございます。竹居君。私ちょっと……失礼します」



 そう言って、彼女は走り出し教室を出て行った。

 無理もない。

 怖い思いをして、クラス全員の視線を浴びて……。



 彼女の背中を見送る俺に昼河が告げる。



「おい、竹居、追いかけろ」

「え? 俺?」

「お前以外の誰がいるんだよ。後のことはなんとかするから」



 確かに一人にするのは良くないことなのかも知れない。

 本当はこういうのは女子が良い気もするけど、俺は朝宮さんの後を追った。

 


 朝宮さんが走って行った方向を向かう。

 トイレを通り過ぎ、校舎の外に出た。

 この方向は、旧校舎に向かっている。



 少し見失ったものの、旧校舎の手前の林の中で朝宮さんの姿を見つけた。

 後ろ姿だけど、彼女は胸に手を当てて呼吸を整えているように見えた。



「朝宮さん……」



 俺は少し離れたところから声をかける。



「……! 竹居君?」



 彼女は振り返らず答える。



「そっち、近づいても平気?」

「あ、はい……。竹居君なら」



 彼女は振り返らず、向こうを向いたままだ。

 肩が小刻みに震えている。よく見ると足も震えている。



 俺は、彼女に近づくと、いてもたってもいられず後ろから抱き締めた。

 すると朝宮さんが体重を俺に預けてくる。

 彼女の温もりが伝わってくる。



「竹居君、ありがとう」

「……いや……びっくりさせたみたいで」

「ううん、竹居君が来てくれなかったら私——」



 言い終わる前に朝宮さんは俺の方を向いて、しがみついてきた。

 彼女の柔らかさと髪の匂いが鼻をくすぐる。 

 その小さな身体は(いま)だに震えていた。



「このまま、しばらくこうしてもらっててもいいですか?」



 返事の代わりに、彼女を抱く腕に力を込める。



 静かな時が流れて……校舎の方からキンコンカンコンとチャイムの音が聞こえる。

 午後の授業が始まった。



「授業、休んでしまいましたね……」

「そうだね。朝宮さんも」

「私のために……ごめんなさい」

「朝宮さんのためだったら、いくらでもサボるよ」



 するすると言葉が出てくる。

 不思議と心が、ぽかぽかしてくる。



「あまりサボってはいけませんよ……」



 言葉とうらはらに、朝宮さんは俺を離そうとしない。



「たまには……いいかなって」

「たまには、だったら」



 朝宮さんの震えはいつのまにか止まっていた。

 声も少し明るくなっている。


 俺は、彼女の頭を静かに撫でた。

 それが当たり前の行為のように。


 そして手を止めると……。



「あの、もう少しだけ、お願いします……」



 やっと朝宮さんは顔を上げて言った。

 俺は微笑むと、そのまま髪を撫ではじめる。


 ついさっきまでは無我夢中だったけど、冷静になってくると俺は彼女の温もりと柔らかさを意識し始めていた。

 彼女の髪の毛の感触が心地いい。


 朝宮さんの笑顔を守るためなら、俺も意外と、暴力に対して行動できるものなんだな。

 ちっとも怖くなかった。



 時がゆっくりと流れていく。

 朝宮さんは目を細めて、まるで猫のように俺の手のひらの感触に身を委ねているようだった。



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