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第6話 ゴールデンウイークとお嬢様とお泊まり(1)

 どうやら、手配していたバスに立て続けにトラブルがあり欠便となったようだ。

 振替用のバスも無し。

 チケットは払い戻し。

 そんなことあるのか? と思うのだけど現実に起きている。


 その代わり、代替となる明日の帰りのチケットを手に入れることはできそうだ。

 または、新幹線など他の交通機関を使えば、帰られそうだ。

 しかし最終の時間が迫っているし、乗り換えがあったりと不安がある。



「どうしましょう? 竹居君、ごめんなさい」

「全然、朝宮さんのせいじゃない。とりあえず俺は姉さんに連絡してみる。朝宮さんは家の人に連絡して。心配すると思うから」

「えっ……。うん……」



 俺は姉さんに電話をかける。

 朝宮さんも戸惑いながら、誰かに連絡を始めたように見えた。



「もしもし。あ、姉さん?」

「……はいはい。どうした? もう帰ってる?」



 俺は簡単に事情を説明する。



「あちゃー。そっか。じゃあ仕方ない。どこかちゃんとしたホテルにでも二人で一泊しなさい」

「えっ?」

「多分まだJRなら最終がありそうだけど、乗り換えに失敗するなどして途方に暮れるよりもうそこで泊まった方がいいでしょう。朝宮ちゃんに聞いて問題ないならそうしな」



 俺は電話を中断し、朝宮さんに泊まることは可能か聞いた。

 さすがに宿泊は無理だろうと思ったけど——彼女の返事は「泊まっても大丈夫、竹居君に任せる」ということだった。

 マジかよ。


 ちょっとドキドキする。

 だけど、色々と姉さんの予想が当たっているし。

 従った方がいいのかもしれない。



「あんた一人ならともかく、朝宮ちゃんがいるでしょう? 満喫やカラオケじゃなくて、ホテルに泊まること。必要なら私が話してあげるから。部屋はツインでもダブルでも……ゴールデンウイークだし贅沢は言ってられないかも」



 ツインは分かるけどダブルって……まあ、俺がソファにでも寝ればいいか。

 姉さんは「あんたがしっかりしなさい。今、タクヤは朝宮ちゃんと一緒なんでしょ? 不安にさせないように」と言ってくれた。

 確かにそうだよな。

 不安にさせちゃいけない。 


 俺は電話を切った。緊急事態だ。

 しっかりしなくては。



「朝宮さん、じゃあ……まず泊まれるホテルを探そう」

「はい。竹居君、ついていきます」



 俺は朝宮さんの手をぎゅっと握り、歩き出す。


 駅に近いだけに、安めのビジネスホテルからちょっと高めのホテルまでいくつかある。

 でも、どこも満室で断られ続けていた。さすが連休だ。



「私がついてきてってお願いしたばかりに……ごめんなさい」

「ううん。謝ったりはお互いなしにしよ」

「……はい。ありがとうございます。でも、ここの辺りは……?」



 いつのまにか、繁華街に入ってしまっていた。

 通り過ぎる人達の声はやや高く、酔いが回ってそうな人もちらほら見える。



「あ、あそこ、ホテル!」



 朝宮さんが指さした方向を見ると、いくつかホテルが連なっているようだ。

 そこだけ雰囲気が違っていて、異質な光を放つビルが並んでいる。



「とりあえず、行ってみようか」

「はい!」



 朝宮さんは周囲を見て、初めて見る景色に瞳をキラキラさせている。

 落ち着いたバーや、美味しそうなレストランや、おしゃれなカフェ。

 いつか、こういうところで夜を楽しむ大人なデートをしたい。


 二人で並んで歩いていると、俺たちに声をかける集団があった。



「なんだ? そこの二人。若いなぁ?」

「もしかしてJK? JK? 滅茶苦茶可愛いし」

「なあ兄ちゃん、その彼女、一晩でいいから貸してくんない?」



 観光客だろうか?

 俺たちに話しかける二十代くらいの男たち数人の集団が前に立ち塞がった。

 酒臭いし、かなり酔っているようだ。


 彼らは俺の横にいる朝宮さんの姿をジロジロと見ている。

 嫌だな。



「朝宮さん」

「竹居君」



 朝宮さんが俺の手をぎゅっと強く握った。

 不安にさせちゃいけない。



「あそこまで走れる?」

「走れます」

「じゃあ、俺に付いてきて」

「はい!」



 俺も、彼女の手を強く握り、走り始めた。



「なんだぁ? 無視しやがって!」



 こんな酔っ払い、今朝の黒服に比べれば全然怖くない。

 通りすがら、俺の体を捕まえようとする男の手を(はた)く。

 前を塞ごうとする別の別の男の胸をどついて、隙間を空け、そこを駆け抜ける。



「こいつら! ガキのくせに」



 酔っているためなのか、もともと遅いのか? それとも、俺が朝の執事派の黒服の人達を見たおかげなのか。

 あの人たちと比べると、この人たち遅すぎる。

 今朝の緊張感に比べると、今は遊びみたいなものだ。


 朝宮さんも、怖そうではなくむしろ楽しんでいるように見える。

 まあいざとなれば大声を二人で出せばいい。

 楽器吹きの肺活量を舐めて貰ってはいけない。


 しかし、そんな心配も無駄に終わり……あっと言う間に引き離し、いくつか曲がり角を過ぎるころには、あの男たちを完全に引き離すことに成功した。



「くそおおおおおおおお!」



 さっきの男たちの絶叫だろうか? 悔しそうな声が遠くから聞こえた。



「はぁ……はぁ。竹居君……ドキドキしました!」



 朝宮さんは少し息を切らしているものの、それでも余裕がありそうだ。

 声も弾んで明るい。

 また息を整えようとしているけど、相変わらず俺の手を離してくれないばかりか、少し引き寄せられた。

 周囲には誰もおらず、朝宮さんとの距離が近い。



「竹居君、さっきかっこよかった」

「そう?」



 逃げただけなんだけどね。



「竹居君」



 朝宮さん……?

 顔が近づいて来る。

 俺もさっきのドタバタで、心臓が高鳴っている。


 ちょっといい雰囲気になっているような気がした。

 そうか、朝宮さんもこんなに……ドキドキしているんだ。


 もう少しで触れそうというときに、ふと、朝宮さんが何かを見上げる。

 


「ここ、HOTELって書いてありますよ?」

「……ホントだ」



 お城っぽい形をしている?

 オシャレというか不思議な形のホテルだ。


 そのホテルは外壁に「空室」「満室」という看板があり「空室」が点灯していた。

 一目で、満室かどうかが分かるのは便利だ。

 今まではホテルのフロントに聞かないと分からなかったのに。


 こんなの見たことがない。

 都会って進んでいるんだな……。

 朝宮さんも初めて見る様子だ。



「綺麗そうですし、いかがでしょう? ここにしませんか?」

「う、うん……入ってみようか」



 朝宮さんに誘われるまま——。

 俺たちは、手を繫いだまま、その不思議な形をしたホテルに入っていった。



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