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43:エリザベス女王杯 前編

『秋晴れの好天に恵まれ、ここ京都競馬場に女傑達が集い今年の牝馬の頂点を掛けた激闘が間もなく行われようとしております。京都競馬場の芝の状態は良、芝内回り2200m、昨年女王に輝いたミニマイスマイル、もちろん今年も連覇を狙っています。今年の牝馬2冠馬タンポポチャがそれを阻めるか! 今年の宝塚記念2着と苦渋を飲んだ昨年のオークス馬シーザーサラダ、ここは何としても獲りたい所・・・・・・』


 テレビではエリザベス女王杯の中継が始まっている。

 前回と同様に大南辺は妻とともにパドックへと向かうと、パドックの柵に大きなミナミベレディーの応援横断幕が掲げられていた。


「あら? あれは北川牧場の北川さんと御嬢さんだわ」


 その応援の横断幕に気が付き、その後ろに北川牧場の桜花ちゃんがいる事に気が付いた道子は、大南辺を置いてさっさと桜花ちゃんの所へと向かう。


「こんにちは、いらしていたのですね」


「あ、大南辺の奥さん、ご無沙汰しております。娘に付き合って本州にきておりまして」


 妻と峰尾が会話を始める中、大南辺は桜花ちゃんに挨拶をする。


「応援垂れ幕ありがとう。ベレディーも垂れ幕を見たら喜ぶだろう」


「いえ、喜んでくれたら嬉しいなと、ただ流石はエリザベス女王杯ですね。事前申請していたから大丈夫なのは判っていたんですけど、横断幕で覆われていて凄いです」


 桜花賞などの3歳限定のGⅠは、3歳限定である為か横断幕の数はここまで多くは無かった。ただ、流石は現役牝馬の頂点を競うエリザベス女王杯、横断幕が所狭しと掲げられている。


 ちなみに、この横断幕はしっかりと規格等が決められており、許可も取らないと勝手に掲示することは出来ない。以前の桜花賞の時に初めて横断幕を用意しようとした桜花は、そこら辺に詳しくはなく、北川牧場の面々も今まで1度として横断幕を掲示した事が無かった為、危うく掲示出来なくなりそうになった。


「トッコの顔をイメージしたマークも作ってみたんです!」


 そう言って自慢気に横断幕をアピールする桜花ちゃん。ただ、今は受験前の追い込み時期でそれで良いのかという思いが頭をよぎるが、あえて大南辺は触れる事無く会話を終えるのだった。


 そして、パドックへと出走馬達が入場してきた。


◆◆◆


 パドックへと厩務員さんに連れられて入場していきます。

 いつもの様にぐるぐる廻るのですが、真後ろにタンポポチャさんがいるので何かお尻がソワソワします。

 出来れば私が後ろの方が良かったなぁと思わなくもないです。


「トッコがんばってね~」


 パドックに入って桜花ちゃんは何処にいるかなと探しながら廻っていると、桜花ちゃんの声が聞こえて来ました。声のした方向を見ると、なんと私の応援横断幕が掲げられていました。


「キュヒーン」(桜花ちゃんだ~)


 遠くは良く見える私ですから、しっかりと桜花ちゃんを認識します。

 うん、ちょこっとふくよかになったかな? 受験後が大変そうだけど、また一緒に牧場を散歩しようね。

 そんな事を思いながらも、気が付いたよとの意思表示に頭をブンブン上下に振って応えました。


「お、北川さんとこのお嬢さんか、応援に来てくれたんだな、良かったな。頑張るんだぞ」


「ブフフン」(うん、がんばる)


「ヒヒン」


 私が静かに闘志を燃やしていると、真後ろから小さく嘶きが聞こえました。

 ん? 何かご機嫌斜めな嘶きですね。


 チラリとタンポポチャさんを見ると、桜花ちゃん達の方を見ているのが判りました。


 何でしょうか? 桜花ちゃんに嫉妬でしょうか? タンポポチャさんの横断幕は私より多い2か所で掲示されてますから、私の横断幕にご機嫌斜めは無いと思います。


 あと、良く考えたらお馬さんに自分の応援横断幕って判りませんよね? だって、字が読めないですから。そうなると、このお馬さんへの応援横断幕って何の意味があるのでしょうか? 掲示する人の自己満足と言ってしまうと何か寂しい物がありますね。


 つらつらとそんな事を考えていたら、止まれの掛け声がかかって鈴村さん達が出て来ました。


「ベレディー、今日も落ち着いているね」


 私の所まで来て首をポンポンしてくれる鈴村さんに、私もお顔をスリスリとします。


「トッコ~、鈴村さん頑張って~」


 桜花ちゃんの声が聞こえて、鈴村さんが桜花ちゃんの方へと視線を向けました。


「桜花ちゃんが来てくれたから頑張らないとだね」


「ブフン!」(頑張る!)


 鈴村さんが騎乗して各お馬さんが順番に本馬場へと向かいます。レース前に接触などの事故を避けるためにお馬さんは離れて進むのですが、タンポポチャさんは少し離れて私の横を歩いています。


「すまないね。どうもタンポポチャが一緒に行きたいらしくてね」


 タンポポチャさんの騎乗している騎手さんが鈴村さんに声を掛けます。

 私は別に気にしないし、本当に並んで歩いても良いのですが流石にそれは出来ないみたいですね。


「タンポポチャとベレディーは本当に仲がいいですね」


「最初は思いっきり喧嘩腰だったと思うんだけどね」


 そんな話を聞きながら私はタンポポチャさんと連れ立って本馬場へと思ったら、なぜかさっさと前に出て本馬場へと入って行っちゃいました。


 ちょっとポカ~ンとしている私は、鈴村さんに促されて本馬場へと進みました。


「あれ、何なんだろうね? ベレディー大好きって判るけど」


「ブフフン」(ツンデレですよ)


 鈴村さんにそう教えてあげたのですが、言葉が通じないので伝わらなかったです。難しいですね。


 本馬場に入った私は、返し馬を経てゲート前でまた廻っています。

 今日も観客席が近いなぁと思いながら、今日は7番なので早めにゲート入りです。


 外側のゲートはタンポポチャさんで、内側のゲートは知らないゼッケン6番のお馬さんです。何となく年上のお馬さんっぽいですが、今一つ落ち着きがありませんね。首をブンブンと振っています。

 ただ、ここで余計な事をしてぶつかられたら困るので、今回は大人しくしています。私だって学習するのです。


 またもや盛大にファンファーレが鳴り響いて、観客席での手拍子の音も聞こえてきました。

 その後、順番に枠入りをすると私は周りの様子を注視します。外枠のタンポポチャさんは問題ないと思いますが、内枠のお馬さんが少々気が高ぶってらっしゃったので気をつけないといけません。


 案の定、お隣のお馬さんは枠に入ってから蹄で地面をカリカリしています。それに対してタンポポチャさんは落ち着いてますね。枠に入った瞬間、チラリと私を見ましたがそれ以降は集中しているみたいです。


「べレディー、最後の馬が入ったよ」


 いつもの様に鈴村さんの声と、係員のおじさんの様子で私はスタートの準備で馬体をグッと沈めスタートの準備をしました。


ガシャン!


 大きな音が鳴るとともに、ゲートが開きました。

 そして、わたしも其れに合わせて一気に外へと駆け出します。


「ベレディー、最高のスタートだよ!」


 鈴村さんに褒められながら、私は前へ前へと進みながら内側へと馬体を寄せていきます。

 幸いにして6番のお馬さんは出遅れたみたいで、私はすんなりと内側へと入ることができました。


「え? うそ!」


 何かな? 鈴村さんが驚きの声を上げるので、私は周りの様子を改めて確認します。

 すると私の半馬身後ろにタンポポチャさんがピッタリとついてきていました。


 うわぁん、タンポポチャさんがそこにいるとすっごくプレッシャーが・・・・・・


 そんな私は外枠から一気に駆け上がってきた14番のお馬さんと、内側からスムーズに飛び出したファニーファニーさんが先頭争いを始めたので、その後ろで追走します。


「3番手かあ、ちょっと前過ぎるけど如何しよう」


 中団からの差しって鈴村さんは言ってたけど、私の真後ろにはタンポポチャさんがつけています。ここから後ろに下がるのは厳しいと思いますよ? それ以上に前の2頭が競り合ってどんどん間が開いていきます。そんな状態で最初のカーブへと突入していきました。


 う~ん、このまま向こう正面の直線も走って、3コーナーから一気に前に行くのが良いのかな?


 見せてもらった参考レースにそんな展開があった気がします。

 ただ、鈴村さんが気にしてたのは私が2200mを走ったことがない事なんですよね。ようはスタミナの限界が判らないので、出来るだけスパートは遅らせたいし、道中で無理をさせないで行くとか言ってました。


 そんな私達の目論見も思ったとおりになれば苦労は無いのでしょうが、向こう正面で後ろから更に一頭お馬さんが駆け上がってきました。無理してここで前に出ることは無いと判断した鈴村さんは、その一頭をそのまま前へと行かせます。


「かかってるね。ほら、お隣にいた6番のお馬さんだよ」


 鈴村さんの言葉で、漸く内側にいたお馬さんの事を思い出しました。

 なるほど、確かに騎手の人は手綱を引いて抑えようとしています。このまま前に並びかねない勢いですが、何とかファニーファニーさんの後ろへと入れて落ち着かせようとしていますね。


 そんな状況を見ている間にも3コーナーへと入っていくのですが、この段階ですでに後ろのお馬さん達の刻むリズムに変化が出始めます。


「前との差があるからもう動き出した。これってタイム早過ぎない?」


 良くわかりませんが、どうやらレースの流れる展開や速度が速いのかな?

 ただ、依然としてタンポポチャさんはしっかりと私の真後ろを追尾しているのです。最後の末脚を考えると、ここで少し距離を開けないと負けちゃう?


 私は4コーナー手前から速度を一段階上げることにするのでした。


えっと、枠って概念が今ひとつ戸惑っていたりします。

ゲートだと枠番じゃなく枠順の方がいいのかなと枠番→枠順に変更しました。

色々みると馬券? の関係だと枠は別の認識っぽいのですが、お馬さんの話とかでゲート枠という言葉もあったりするので、二つが思いっきり混ざって混乱してます><


あと、お話に関係はまったくありませんが、昨日の夜にたまたま見たらブックマークが調度777になっていました。なんとなく良いことがありそうな気がして嬉しかったですw

皆さんブックマーク、評価ポイントありがとうございます。m(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[良い点] 乙女が女傑に変わっている辺りこれからは古馬とも戦うんだなとドキドキしますね(*´▽`*) 横断幕でアタフタする北川牧場が微笑ましいです 初めては色々と戸惑いますよね 頭をブンブン振るトッコ…
[気になる点] あとがきの丁度が調度になってますね。
[一言] 枠番で7は大外です。(枠番は8までのグループ分けです。 内側から7番目は馬番の7です。
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