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第二話

 ミズーリの秋は別名「神秘の季節」とも呼ばれている。

 多くの木々が、それぞれ色を変えて美しく彩るからである。


 特に王都へと続くミズーリ街道はその色彩のコントラストも素晴らしく、多くの人々を魅了する。


 かつてこの地に大軍を率いて侵攻していたアレク大王が、その美しさに心奪われ

「戦でこの地を汚すは愚の骨頂」

 として全軍に撤退命令を出したというのは有名な話だ。


 以降、千年に渡って他国からの侵攻はない。



 そんな由緒正しき美しい街道沿いを、ライルは一人歩いていた。

 ガロの町まで彼の足なら半日の距離だ。それほど遠くはない。

 とはいえ、ライルの心は憂鬱だった。


 もともと彼はパイロン大司教からナタリー捜索任務の詳細を聞かされると思っていた。

 カインもそう言っていたし、事実、神殿内は少しざわついていた。

 しかし蓋を開けてみれば地図と大金を渡されて「ここに行け」だけである。

 目的のわからない任務ほどやる気が起きないものはない。


(ったく。あの大司教様にも困ったもんだぜ。もうちっとまともな情報をくれたっていいだろうによ)


 とはいえ、任務は任務である。

 言われた通り、指定された町の指定された場所に行くしかない。

 渡された地図には大まかなガロの町の形と主要な建物しか描かれていなかった。


 それがライルには心配だった。


 地方出身の彼には、ガロの町の詳しい地形がわからない。大きさがどの程度のものなのかも把握できていない。


 王都の隣町だけあって小さくはないだろうが。


(まあパイロン大司教も行けば分かるって言ってたしな。どうせ田舎の村2、3個分の広さってとこだろ)


 そんな淡い期待を抱きつつガロの町へと向かっていると、前方に一人の少女が歩いているのが目に見えた。

 背の高さからいって10歳くらいだろうか。

 ライルと同じくガロの町の方角へ向かっている。


(信者? いや、違うな。町の人間か)


 少女はローブを羽織っておらず、町の人々が着るような布の服を着ている。

 荷物もなく、旅をしているようには感じられない。

 にも関わらず、服やスカートが埃まみれよれよれだった。ずいぶん歩いたようだ。


 ライルは思わず声をかけた。


「おい、嬢ちゃん」


 振りむいた少女は端正な顔立ちをしていた。

 鼻は小さく、目がクリクリとしていて大きい。

 ショートボブの黒髪がよく似合う女の子だった。


 少女はライルの姿を見た瞬間、「ぎゃあっ!」と悲鳴をあげた。


「ぎゃあはねえだろ、ぎゃあは」


 無理もない。

 神官衣を着ているとはいえ、ライルはガタイも大きく顔がいかつい。

 アーマーを着せれば野盗のそれと見た目は変わらないのだ。


「どどど、どなたですか? おおお、お金なら持ってませんが……」

「よく見ろ。神官だ、神官」


 実際は神官ではないが、そのほうが安心すると思ってそう言った。


「……あ、司祭様」


 少女はライルの着ている神官衣を見て彼の言葉を信じた。

 神官衣は特別な呪法で編まれているため、一般には出回らない。

 それを着ているというだけで特別なのだ。


「どうしたんだい、こんなとこで。一人かい?」


 ライルが尋ねると少女はうつむいた。


「親御さんはいねえのかい? いくら大きな街道といっても一人じゃ危ねえぜ?」

「でも、お母さんが……」


 少女はギュッと唇を嚙みしめると、わなわなと震えた。


「お母さんが病気なの……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見た目も性格も対照的でありながら息の合ったコンビのライルとカイン、清らかでお優しいだけではなく滅茶苦茶強い聖女様、どちらも大好物ですありがとうございます! 特に聖女様、拳一つで大悪魔をぶ…
[一言] ママあああ!!!(ブワッ)
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