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加藤の中将の悩み
御徒町の樹里は都で一番の美人です。
その樹里を巡って多くの男達が動いていました。
加藤の中将は酔いも手伝ってか、数年前の話をしました。
「崩れた塀の向こうに見えた女に一目惚れして、通い詰めた」
加藤の中将は罪人顔を赤らめました。
「罪人と言うな!」
加藤の中将はしつこい地の文に切れました。
(相手は物の怪だろうか?)
左京はついそんな事を想像してしまいました。
「私は女の身体に溺れた。そして、ある日、女は邸から姿を消した」
完全に物の怪確定の展開だと思う左京と五人衆です。
「今でもその女を忘れられない」
加藤の中将が涙ぐんで言ったので、
「樹里様を諦めるという事か?」
箕輪の大納言が尋ねました。
「それができぬから悩んでいるのだ」
加藤の中将の百面相に笑いを噛み殺す左京達です。
樹里は書を認めていました。
「樹里様は達筆ですね」
侍女のはるなが言うと、
「ユー○ャンで習いました」
笑顔全開で言う樹里に項垂れるはるなです。




